第21話 顛末報告
翌日、フォルジャ村から王都ラングレーに戻ってきた俺達は、魔法研究所に戻ってアルフォンスに事の顛末を報告していた。
昨夜の酒盛りの後に作っておいた簡易報告書をめくったアルフォンスが、すんと鼻を鳴らして言う。
「ふむ……なるほどな」
興味深そうにそう声を漏らしながら、アルフォンスはレオナールに視線を投げた。
「結果的に、ブーシャルドン遺跡が『黎明王ジョアシャンの墳墓である』という風説は、真実だったということか」
「そういうことです、所長」
彼の問いかけに、レオナールは大きくうなずいた。そのまま、石の埋まった自分の額をつつきながら話す。
「地下に埋葬され、
「こちら、
続けてウラリーが取り出したのは、紙に写し取った黎明王ジョアシャンの棺の写真だ。魔法の紋様を写し取るのと同じ魔法で棺の外観を写したものだから、画像が粗いのはしょうがないが、それでも棺に刻まれていた花の模様はしっかり見える。
紙を取り上げながら、アルフォンスが小さく目を見開いた。
「なるほど……確かに。これは間違いないだろう。遺体の方も見られればよかったが、襲いかかられたのならそんな余裕はなかっただろうな」
アルフォンスの言葉に俺達五人が一斉にうなずいた。本当に、遺体を撮影しているヒマなんてちっともなかった。向こうはこちらを殺そうと襲いかかってきていたし、そもそも動き回る。倒した後は塵になって消えてしまったから、死んだ後に魔法で写し取るなんてことも不可能だ。
とはいえ、この棺の写真で十分に証拠になるようだ。ほっと息を吐く俺達に、アルフォンスがもう一度目を向けてくる。
「古代魔法の方はどうだ。黎明王の墳墓となれば、相当な数が仕掛けられていただろう」
アルフォンスが問いかけてくるのに合わせ、ウラリーが別の紙を取り出した。今回探索したブーシャルドン遺跡に仕掛けられていた、古代魔法の一覧だ。もちろん、最深部に彫られていた「
「こちらにまとめてあります。どうぞ」
一覧の紙を渡すと、アルフォンスが満足そうにその書類を眺めていく。書類には紋様も、魔法の効果も記載してあるから、これを解析班に持っていけば十分仕事に使えるはずだ。
「ふむ、ふむ……む?」
アルフォンスも満足そうにうなずいて、ページをめくって内容を確認する中、最後の一ページで手が止まった。そのままいぶかしむような視線をこちらに向けてくる。
「『
「やはり、所長もご存知ないものでしたか」
アルフォンスの言葉にレオナールが小さく微笑んだ。やはりあの魔法はなかなかに、世の中に知られていない魔法なのは間違いなかったらしい。
「死者の魂を浄化し、天上へと送る古代魔法です。言ってしまえば『
レオナールの説明に、アルフォンスの目が見開かれ、あごがすとんと落ちたのが見えた。あんな表情、見たのは本当に初めてだ。その顔を見て眉尻を下げながら、レオナールが説明を続ける。
「この魔法の紋様も、遺跡第三層、黎明王の石室の壁一面に彫られておりました。マコトの
「なに?」
レオナールの発言を聞いて、アルフォンスのあごがますます落ちる。
「
信じられないという表情を隠しもしないで、アルフォンスが俺に顔を向けてくる。
「発動させたのか、これを」
「そう、っすね。結果的に、あのリッチはこれを食らって、粉々に砕け散った、っすけど」
彼の呆気にとられた言葉を聞いて、俺はほほをかきながら答えた。
そう、発動させたのだ。このめちゃくちゃに巨大な紋様の魔法を。
実はあの時、無限になっていた俺のスマートフォンのバッテリーが、一瞬だけだが結構減っていた。どんどん補充されるバッテリーを、多少なりとも食い散らかしたわけである。そりゃあ、並の魔法使いでは発動なんて無理だろう。
アルフォンスが資料にもう一度目を落としながら口を開く。
「信じがたいな。これまで収集した紋様の中でも、見る限りでは最大級だ。当然、必要とする魔力も
ため息交じりにそう言うと、彼はわずかに微笑みながら俺の方に目を向けた。そして嬉しそうな声色で告げる。
「ともあれ、よくやった。サイキ下級部員もいい仕事をしてくれたようだ」
「ありがとうございます」
「あ……あざまっす」
明確な褒める言葉に、俺を含めた五人全員が深く頭を下げた。名指しされた俺も頬を赤くしながら礼をする。こうして人から褒められるのも随分久しぶりだ。
簡易報告書と収集した魔法の紋様の書類を執務机に置きながら、真剣な表情になったアルフォンスが口を開く。
「収集してきた紋様についてはこれから解析班に回す。調査内容はバルテレミー上級部員とジルー上級部員の方でまとめておけ。紋様の解析結果は待たなくて良いから、三日以内にまとめるように」
「かしこまりました」
「承知しました」
アルフォンスの言葉に、名指しされたレオナールとウラリーがうなずきながら返事をした。三日以内にあの冒険の報告書をまとめる、というのも結構大変そうだが、彼らなら普通にやってしまいそうだから怖い。
と、アルフォンスの視線がスライドした。そのまま俺に目を向けながら口を開く。
「ああ、それとサイキ下級部員」
「はい? なんっすか」
突然に呼びかけられた俺はキョトンとしながら返した。まだ何かあっただろうか。特に思いつくものはないのだけれど。
するとアルフォンスが、自分の胸元に入れていた所員の身分証明用のタグを取り出しながら口を開く。
「昨日に案内できずに申し訳がなかったが、貴君に割り当てた寮の部屋の準備が整っている。あとでパレ中級部員かオヴォラ中級部員に案内してもらえ。部屋の扉は所員用のタグで開けられる」
「あっ」
タグの先端で何かを触るように動かすアルフォンスに、俺は小さく声を上げた。
そうだ、確かにこの研究所の所員として暮らしていくにあたって、部屋を貸してもらうことになっていたのだ。一人用の個室で広さはないということだが、正直ベッドと机と椅子、クローゼットがあればそれで十分だ。
ともあれ、これでようやく、この世界に放り込まれてから初めて、ちゃんとした寝床で眠れるわけである。昨日は酒盛りに興じた末に解散になり、ウラリーの運転でラングレーに移動していたから、これまた魔導車の中で寝ていたのだ。
「そうか、あざまっす」
「やったねマコト、これで今日からふかふかのベッドで眠れるよ!」
「寮への案内は任された。心配は要らないぞ」
頭を下げる俺に、シルヴィとエタンが一緒になって肩を叩いてくる。
いわく、この魔法研究所の寮はラングレー市外に家がある所員とか、ガリ王国の外からやってきた所員のために用意してあるとのこと。俺みたいに異世界出身の人間に入ってもらうのは初めてとのことだが、まぁ何とかなるだろう、案内役が二人もいることだし。
ちなみに貴族であり上級部員であるレオナールとウラリーは、ラングレー市内に本宅があるとのこと。寮も上級部員用に、別の建物が用意されているんだとか。さすがだ。
話がまとまったところで、アルフォンスがぽんと手を叩いて言った。
「よし、報告感謝する。諸君、今後も職務に励むように」
アルフォンスの言葉に俺達はこくりとうなずく。そして仕事の疲れを癒やしつつ、あるいは残りの仕事をするために、俺達は所長室を後にするのだった。
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