第73話 情報収集

万吉の元には獣人たちや商人などから世界各国の情報が入ってくる。

万吉ともふもふは、自分たちの使命を果たす必要があるために、その中でも人間たちの街、魔人たちの情報や赤目の魔物の情報を中心に目を通していく。


「こうしてみると、大きな街と赤目の魔物が多発する地域は近いんだな」


「危険な魔物がいるから街に依存する、結果として街に依存する人間が増えていく、なんて話も想像できるにゃ」


「もしそうだとすると獣人と人間の対立も魔人によって産み出された物である可能性も高いよなー」


「魔力や瘴気を浄化する気の扱いに長けた獣人を遠ざけける意図はあったかも知れないにゃ」


「これ、もう、根深すぎない?」


 万吉は目眩がした。人間の生きていく仕組みの中に魔人たちが埋め込んだ仕組みが入り込みすぎているし、それによって多くの人間が今まで生きてこれているという事実は間違いなく、否定しようもなかった。


「それでもこの世界を蝕み滅びへと進ませている無くすべきシステムにゃ」


「それでもきちんと対案を建てないと救われない人間が出たらだめなんだよ」


「万吉は甘すぎるにゃ」


それでも諦めたくなかった。

万吉一人で解決策が出るような問題ではなく、人間たちという不倶戴天の敵のために獣人たちの知恵を借りなければいけないということを、自分の立場で頼むことは、実質命令になるんじゃないかと万吉はしばらく悩んだ。

しかし、結局答えというものは得られずに、万吉は悩むことをやめて、素直に自分の気持ちを獣人たちに伝えることにした。


「わかりました。皆で話し合いましょう」


そして、悩んでいたことが無駄だったかのようにあっさりと受け止められた。


「い、いいのか? その、人間を救うって話なんだよ? 命令ではないよ」


「まず、マンキチ様がしたいことであれば我々は全力でそれを実行します。

 そこに一切の不満は有りません。

 それに、ある意味人間も被害者であるのであれば、その問題を解決した先にはマンキチ様のように我々に分け隔てなく接してくれる人間も増えるわけですから、我々にとっても悪い話では有りません」


「なるほど」


「万吉はうちの獣人たちを甘く見すぎニャ。皆、私怨で大局を見失うようなことはしないにゃ」


「……おみそれいたしました」


 万吉は自身の浅慮を恥じた、そして認識を改めるように務めるのであった。

 現状の問題が明確になり、その解決のために何をしていく必要があるのか、会議では冷静に問題点を洗い直すことができたし、今後の行動指標が立っていく。万吉が一人で悶々と悩んでいた時間が無駄であったことを万吉自身が痛感する会議になった。


「やっぱ、俺は全然だめだな……」


「当たり前にゃ、変なところで謙虚というか自己評価が低いくせに、なんでも抱え込んで頑固になるのは万吉の最大の欠点にゃ」


「返す言葉もございません」


「とにかく、これからは何でも相談するにゃ。

 全く、自分が居なくても回る国造りって最初に行っていたのは万吉にゃのに、何を一人で悩んでいるんにゃが……」


「ほんとにそうだな、これからはみんなにももふもふにもたくさん頼ることにするよ」


「それでいいにゃ」


「お任せください!!」


 頼られることは、獣人たちにとっては嬉しいことだった。万吉のお陰で生きる道を示してもらえた彼らは、どうにかして万吉の役に立ちたかったし、それが心の底から嬉しいのだった。


 その日から、目的が明確になった。

 この世界にはびこる魔人によって作られた人間社会に根付いたルールを壊して、人間を本来のルールに戻しつつ、世の中にあふれる脅威から人間や獣人たち自身で立ち向かえる組織を作っていく。そのために必要なものを準備して、万吉たちのエリアを広げていき、この世界を本来の姿に戻していく、それが獣人たちの目的になった。


「……ここに居たら、だめだなこれは」


「そうだニャあ……」


「……」


 報告を受けていると、自分自身が現場に出る必要性があることを痛感する。

 赤目の魔物との戦いもずいぶんと獣人たちの練度も上がっているおかげで楽にはなっているが、怪我や時に死亡の報告も少なくない。

 それらの上に立つ魔人に獣人たちだけを当たらせることは、万吉には出来なかった。信頼していないとかそういうことではない、大事な存在だと考えているからこそ、自分自身の力も使って、共に立ち向かうべきだと考えていたからだった。


「やはり城を離れますか……」


「そうだな、こればっかりは性分だ。悪いけど、何と言われても、俺は前線にいる」


「万吉がこういうときは絶対に曲げないニャ」


「報告を上げれば、そうなる予感はしておりました。

 マンキチ様は獣人たちを『使う』ような方ではないから……」


「もちろん、情報収集とかは本当に助かるし、自分ひとりで全部できるなんておこがましいことも思っていないけど、やっぱり、戦いに獣人たちだけで対応させる気は、もうない。いや、最初から、そのつもりだったんだけど、居心地が良すぎて結果としてみんなを使っていた。犠牲まで出して……」


「マンキチ様! それはっ!」


「わかってる。みんなの、散っていった者たちの気持ちもわかっている。

 蔑ろにするつもりもない。彼らは満足して逝ったんだろう。

 この世界の問題を自分たちで解決する手助けをして……でも、これ以上そういう犠牲が出るとしても、俺はその傍で一緒に戦っていたい。

 そうじゃなければ、俺が俺自身を許せなくなる」


「……」


「それに、俺の本分は治療だ。問題がなければみんなを頼るし、怪我や病気を治して一生懸命やっているだけで済めば荒事にわざわざ首を突っ込んだりはしないさ」


「……マンキチ様は、そのまま居なくなったりはしませんよね?」


「ああ、俺にとってここは大事な帰るべき場所だ。

 この世界に救う病巣を取り去ったら、また帰って来る」


「で、あるならば、我々の使命はこの地を護ること。

 そして、マンキチ様のお手伝いができる者を増やしていきます」


「ああ、頼んだ。政は皆で執り行ってくれたほうがいい、なにより、俺が楽だ」


「マンキチ様……」


「いまのは本気で言ったニャ! だめなやつニャ」


「ははは、とりあえず、最初の旅は、ここだ。

 砂漠の都市、ヴァルベルガ。大砂丘の古代神殿奥、罪人の穴。

 そこは、たぶん穢に満ちている……」


「引き続き情報を集めて連絡をいたします」


「ああ、頼んだ。さて、旅の準備で忙しくなるぞもふもふ」


「病院のことも考えないと行けないニャ」


「そうだな、久しぶりに病院で皆と話すか、人選も考えないといけないし」


「では、皆を呼んで来ます。後ほど病院で」


 万吉は久しぶりの餃子とビールの予感に喉を鳴らすのであった……



 






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