第71話 龍玉
力がそこにある。
龍がそこに在る。
ドラゴンの亡骸、その頭上に珠が浮いていた。
とんでもない力を秘めており、漏れ出す、溢れ出す力を隠しきれていない。
その力はガレージの内部に満たされていて、病院の神域にも影響を与えている。
「これが、苦労した結果」
「そうにゃ、凄まじい力を吐き出し始めたにゃ」
「何が起きたの?」
「はじめは
「龍気って凄いの?」
「そうにゃ、すべての基礎である気、それを聖なる属性変化したのが聖気、高次元存在である龍の属性が乗せられて龍気ニャ」
「あれ、気ってもしかして色々あるの? 俺が使ったのは?」
「……あれ、たぶん神気にゃ。気の究極状態にゃ。
神獣が扱う獣気、霊木、神木が扱う樹気、英霊、精霊が扱う霊気、などなど、気の派生はいろいろあるニャ。気が基本、火、水、聖とか形態変化したものが中級の気、獣や龍など昇華したものが上級の気と言えて、その上に究極到達点としての神気があるにゃ」
「そんなものを俺は扱ったのか……そりゃ普通の気を通す回路がぶっ壊れるわな」
「万吉は獣神様と接点が在るからなんとか生きているニャ、普通の人間だったら内から焼かれて消滅ニャ」
「確かに、こうして漏れ出してる龍気に触れていれば判る。これと比べたらオレたちが普段扱っている気は児戯だ……」
聖気とは格の違い清廉さ、洗練された気は龍の力強さと気高さを体現しているようだった。万吉はその気をゆっくりと吸い込み息吹を一つする。
回路は熱く疼いたが、超高級料理を食べたような感動が身体を駆け抜けた。
「上には上が在るな……」
「そうにゃ、そして、どうするにゃこれ?」
「ど、どうすればいい?」
「正直ここにおいてあるだけでも病院内の治療パワーも上がるし、調子も良くなるからそれでいいニャ」
「じゃあ、それでいいんじゃない?」
「そのドラゴンの素材はどうするにゃ?」
「そりゃあもう、ドラゴンの素材といえば最高の素材と相場が決まっているから街の発展のために最大限に利用させてもらおうよ!」
「わかったにゃ。最後に、この卵、どうするにゃ?」
「卵?」
「卵にゃ」
「どこにあるの?」
「そこに在るにゃ」
もふもふが尻尾で指し示すのは珠、浮いている珠だ。
「これ、なんか龍の魔石的なものじゃないの?」
「このドラゴンが体内で必死に守っていた卵ニャ、全身が汚れても卵だけは守り抜いたニャ」
「そ、そうなんだ……え、食べたりするの!?」
「あ、悪魔的発想ニャ……この流れでそんなことを言い出すとは見損なったニャ」
「じょ、冗談だよ……これ、孵化するの?」
「このまま安定した気を送り込んでいればたぶん……何年後とかになるかはわからないにゃ、なにせドラゴンの卵なんてそうそうお目にかかるものじゃないにゃ。獣神様から言われなければ魔石扱いだったニャ」
「ああ、なるほど、情報源はそこだったのね」
「あの、マンキチ様。あの卵、俺に世話させてもらえませんか?」
カクが車椅子を押されて前に出る。辛そうな表情だが、その瞳には光が灯っていた。
「大丈夫なのか? ……いや、カク、お前に任せる。何人か手伝いはつけろよ」
「はい、ありがとうございます! きっとこれが、俺のやるべきことなんです」
「ケビルたちもできる限りフォローしてやって欲しい。とりあえず、ドラゴンは素材にしようか、そして、それが落ち着いたら一度今後のことを話そう」
「ういっす!」
「モッドン、会議室まで送ってくれ、そのあとは解体の手伝いを頼む」
「ウス!」
「ケビル、とりあえず今後のこと話し合えるように資料とか準備頼んだ。先に会議室で待ってるから、準備が済んだら幹部と一緒に来てくれ」
「わかりました」
「もふもふ、行くぞー」
「わかったニャ」
それから万吉は眠っていた間や遠征している間の街の方の現状を把握することに務める。身体も随分と楽に動かせるようになっていた。気道の痛みはまだ残っていたが、まるで激しいトレーニングを終えた後のような心地よい筋肉痛と、成長するという確信が万吉は掴んでいた。
「すみません、会議の最初にお話します。私に変わってこちらのシャルが今後の諜報のまとめ役になりますので今回の話し合いにはシャルが参加します。私はガレージに居ますので、何かあれば声をかけてください。頼んだぞ、シャル」
「ははっ!」
会議の前にカクが自分が受け持つ部門の代替わりを報告する。
今の彼にとっていちばん大事なことはあの卵の世話になっている。
病院を収納している間も、彼は卵を片時も離すことはなかった……
シャルは諜報部隊のNo2。女性の狼人で戦闘能力、気の扱いにも非常に長けている。旗から見てもはっきりと分かるほどカクのことを大好きなんだが、仕事人間のカクだけはその気持に気がついていない。本当はカクの下で働くことに喜びを見出すタイプだが、カクから与えられた任務をきちんとこなすことが、彼のためと考えて今回の就任を受けた。白虎の水と風、水を氷へと変化させて戦う近接遠距離ともにハイレベルな戦闘が可能な有能な獣人だ。カクはやや身内に厳しい評価をしがちだから今回のメンバーに選ばれていないが、十分な実力を持っていると万吉は思っている。
「さて、背後の憂いを取り除けて、あの山脈を本格的に抑えられたことになった。
今後の街の方向性を決めていこう!」
万吉は、宝の山であるこの山脈を完全に手中に収めた。
それがどういう意味を持つかは、これから少しづつわかっていくのであった……
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