第70話 目覚めと現実
「う……こ、ここは……つあぁっ、ぐぅ……!」
万吉は目覚めとともに、全身の痛みに悶絶する。
「だ、大丈夫ですかマンキチ様!? 皆!! マンキチ様が目覚めたぞ!」
近くに居た獣人が外へと飛び出していく。
程なくして見慣れたメンバーが駆けつけてきた。
「皆、無事だったか……」
痛みで指一本動かせない、話すのもしんどいほどだった。呼吸一つでも全身の筋肉が燃えそうになっていた。
「万吉、大丈夫かにゃ?」
「なんとか生きてるけど、ごめん、あまり記憶が……あれからどうなった?」
「あれからまだ2日しかたってないニャ、病院はまだ一番奥のまま、ただそれまでの洞窟はすでに制圧して、谷底は完全に掌握したにゃ」
「そうだったか、皆よくやってくれた……しかし、これはきついな……ぐぅ、自己強化どころか、気もうまく練れない……」
「たぶん、別次元の気を流したせいで気の通り道が焼け切れたように成ってしまってるのにゃ……それと、ちょっと診てもらいたいにゃ、しんどいのもわかっているんニャけど……」
もふもふの声から察するに、深刻な話だろうと判断して、すぐに診ることにした万吉。見せられたカルテにはカクと書かれていた。
「万吉様、このような姿で失礼します」
ゆっくりと腰掛ける体勢にベッドを起こして、カクのベッドを診る。
全身包帯に巻かれたカクが寝ていた。
「カク、無事で良かった」
「はは、情けないことに、今は指一本動かせません」
「診てほしいにゃ」
もふもふの指示で包帯を取ると、その下にはどす黒く変色した皮膚、内出血の酷い状態が広範囲に広がっていた。
「これは……」
「どう思うにゃ?」
「筋肉の限界を超えた酷使による断裂、損傷などだろうな……
レントゲンは?」
「これにゃ」
「……骨にも微細なヒビが無数に……」
「……」
「カク、時間がかかるぞ」
「大丈夫です! またマンキチ様のお役に立ちます!」
「よし、俺が治るのと競争だな」
万吉は痛みに耐えながらも思いっきり笑顔を作りカクを見送った。
そして、万吉ともふもふ、部屋には二人だけになる。
「正直、どう思うにゃ」
「日常生活を取り戻せたら奇跡、あの状態をよく安定させたな、いつDICとかが起きてもおかしくなかった……」
「緩やかに気による回復を促したんにゃが、激しく治療を行うのは危険な予感がしたニャ」
「大正解だと思う。アレを無理やり治そうと躍起になったら、たぶん死んでいた。
とにかくゆっくり時間をかけるしかないと思う。そして、俺もだな……」
「万吉は、そもそも気が通らなくて、寝かしておくしか出来なかったニャ」
「気が通る道が焼け切れているのなら……仕方ない。目覚められただけで、良かった。この病院のおかげだろうな」
「そうにゃ、病院といえば、そのうち見てもらいたい物があるにゃ。
早く動けるようになるにゃ」
「わかった……とりあえず、まだ、寝させて、もらう……」
布団に身を委ね、ようやく全身に走り回る烈火のような痛みが燻ってくれた。
それから一瞬で気絶するように眠りに落ちた。
次に万吉が目を覚ましたのは二日後だった。
身体に走り回る炎は随分と鳴りを潜めていた。身体を少しづつ動かしながら、自分がどこまでできるのかを確かめる。そっとベッドから身体を起こすと、鈍い痛みは有るが、座る体勢を取ることが出来た。
そのままゆっくりと立ち上がる。少し目眩がしたが、なんとか歩行は可能だった。
山籠りで身体を徹底的に叩きのめした後のような、そんな感覚だと万吉は感じていた。
そして、ベッドに座り自分の身体と向き合うと、筋肉や骨、関節の痛み以外に感じる熱い物が全身を巡っていた。それが気道、気脈だとすぐに理解した。
「明らかに、違う、な」
ほんの少し気を走らせるだけで、以前の気と異質の物になっていることが判る。
「今は、まだ、だめだな」
ほんの僅かに操作して、すぐにこれ以上は危険だと本能が訴えていた。
「万吉起きたにゃ!?」
もふもふが部屋にやってくる。
そして、ケビルやモッドンらも続いてくる。
最後にカイエンに押され、車椅子のカクが部屋に入ってきた。
「皆、元気そうで何よりだ」
「マンキチ様……」
それから一人ひとり、軽く言葉を交わす。
お互いの無事、マンキチの無事を喜ぶ。
「カク、どうだ調子は?」
「よくは、ありませんが、ゆっくりやっていきます。やはりマンキチ様には勝てませんでした」
カクは座っているだけでもつらいのだろうが、万吉の前では気丈に振る舞っていることが、万吉にはわかっていた。
「カク、すまない……」
「謝らないでください。こうして誰一人欠けることなく、ことを成し遂げました。
それが一番です」
この2日で、カク自身も自分が元のようには戻れないことを受け入れ始めていた。
「万吉、動けるようになったら、ちょっと見てもらいたいものがあるニャ」
「ああ、わかっている。ガレージだよな?」
「そうにゃ」
万吉も気がついていた。探査をせずとも、明らかに尋常ではない気配が、ガレージから溢れ出しているのだ。
万吉はゆっくりと立ち上がり、しばらく歩を進めたが、モッドンによって車椅子に乗せられ、ガレージに運ばれていくのであった。
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