第67話 爆弾処理のごとく

「本当にいるんだ、ドラゴン……」


初めて見る異形の姿に万吉は興味津々だ。

明らかに蜥蜴とは異なる、その存在感。

死してなお朽ちることのない姿には芸術品として価値さえあるように感じられた。


「迂闊には触れられませんね……」


「明らかに怪しいニャ」


「でも、これほどの個体の素材はとんでもない価値ッス」


「ウス!!」


「魔力探知もあの魔石に吸われてしまうわ~」


「結界の領域も寄せ付けないですね」


魔石から溢れる漆黒が結界の力と触れ合いバチバチと拮抗している。


「どうするニャ?」


「もふもふの力でなんとかできないの?」


「万吉に全力でアレに叩き込む……ニャ?」


「ニャ? と言われても、もし変に刺激して押し込みきれなかったら爆発とかしないよね?」


「……」


「黙るなよ……」


「どうにかしてアレを浄化……どうすればいいニャ……?」


「あのさ、病院て、ある種の聖域だって言ってたよね」


「そうにニャ、あれは神から与えられた……神具……そうニャ!」


「だよね?」


「そうとわかれば……」


「俺が緩やかに抑えながらガレージに収納しよう、結界装置いくつか貸してもらえる?」


皆で手順を話し合うことになる。

1.手分けしてドラゴンの周囲に二重の結界を展開させる。

2.内部で万吉が魔石からの瘴気の漆黒を抑え込む。

3.ドラゴン全体を操気法で病院のガレージに移動させる。

4.病院の聖域の力でゆっくりとドラゴンと魔石を浄化していく。


「これでいこう、ちょうどここなら病院も出せる」


「ガレージへの移動は最短で、それに慎重に行えるようにここらへんに……こう出すニャ!」


 洞窟に病院が現れる。それだけでも結界の中がぐっと浄化されたような気がした。


「結界発動しました……問題ありません」


「ウス!!」


二重の結界でドラゴンを包み込む。

ドラゴン自体から湧き出る瘴気と、魔石から溢れ出る漆黒の瘴気の流出バランスが取れて停止する。


「それじゃあ持ち上げるぞ、頼むぞカイエル」


万吉が風の力でドラゴンの巨体を持ち上げる。

魔石に刺激を与えないように静かにゆっくりと全身を地面から浮遊させ停止する。

これには非常に大量の気の力と精密なコントロールが必要になり、万吉ともふもふでしか成し遂げられない。

そしてその状態でカイエルが病院方向に移動をさせていく。

結界にゆらぎを生じさせず、万吉とも連動しながらの移動は非常に繊細な動きになる。

たとえるならば、グラス満タンに注がれたニトログリセリンをクレーンキャッチャーで目的の場所まで運んでいくような物だ。


「……やはり、そうなりますか」


「カク殿、我らで抑えますぞ」


ドラゴンが移動した床や地面には濃厚な瘴気がはびこっており、蓋が外れたような状態になりゴポゴポと魔物を生み出してきた。


「これは……本気でいかねばまずいですね、シーランス殿、援護を任せました!」


ドラゴンの要素と長年の瘴気による汚染によって生まれ出る魔物は危険な存在とカクはすぐに判断した。


「ビルアン!! 結界装置をいくつ使っても構わない! 二人を助けてくれ!」


「わかりましたっす!!」


汚染箇所を多重結界で多い、少しでもこびりついた瘴気を浄化し、現れた魔物の弱体化を図っていく。

それでもカク、シーランス、それにビルアン三人が必死に抑え込む必要があった。


「絶対にマンキチ様たちの邪魔をさせるな!!」


「はいっ!」「はいっス!!」


一方で万吉たちも地味で、きつい作業が続いていた。


「なんだか、だんだんと魔石から出る瘴気の量が増えていませんかねぇ?」


「そっちの調整は任せる! ……くそ、あの場の瘴気が濃くて、離れると元の位置に引っ張られるぞ……っ!」


「万吉あせるニャ! 出力を安定させるニャ! 調整はこっちでするニャ!

 カイエル、もう少しだけ横方向の出力を上げるニャ、上げすぎニャ! そう、そうニャ……」


「くっ……これはしんどいですわね~」


「モッドン、同時に出力を3上げるぞ、3・2・1・今だ!」


「ウス!!」


 少しづつ、少しづつ、ドラゴンの身体はガレージの入り口に近づいてきている。



「つ、強い!!」


 魔物は完全に顕現し、ドラゴニュート、竜人の姿を取っていた。

 形をなす前に討滅していたが、すでに3体が完全に顕現している。

 

「あとでマンキチ様が出涸らしになるほど聖気を入れてもらわなければいけないっスね」


「出し惜しみはいけませんよ、ここを抜かれては何の意味もありませんから」


「わかってるっス!!」


 それぞれの戦いが、続いていくのだった。




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