第66話 暗闇

「だめっすね、周囲索敵は不可能です」


「気に頼らずに音や気配で感じ取るしか無いね、慎重に進もう」


「魔法などもどんどんこの暗闇に吸い込まれてしまいますわ~」


 結界石を杖の先端につけて4方向カク、ケビル、ビルアン、モッドンが構える。中央でカイエルが頭上に掲げて四角錐の用に領域を作る。

 移動中は、現状万吉とシーランスの弓にかかっている。


「万吉の馬鹿気力でも晴らせない空間……絶対に何かあるニャ」


「しっ……右前方に何かいる……」


 ずりっ、ずりっと地面の擦れる音がする。

明らかにこちらに向かって真っすぐ進んできている。


「シーランス、わかるか?」


「はい、音の感じで大体の位置は……行きます」


 シーランスが弓を構え、放つ。


「ギャフ!?」


 ズリズリとした音が急速に近づいてくる、相手はこの暗闇の中正確にこちらの位置を把握しているようだ。


「シーランス、そのまま連続して狙ってくれ」


「かしこまりました!」


「マンキチさま、我々も!」


「いや、すぐにこの場所を移動する可能性もある、そのまま結界を維持して待機!」


 万吉はゆっくりと結界の端に移動していく。

 眼の前の暗闇の中にいる存在が近づいてくる気配を音を頼りに把握する。


「そこだぁ!!」


 気を込めたスコップで一閃、弓をいかけられても怯むことなく突っ込んできた巨大蜥蜴を上下真っ二つに切り裂く。一瞬万吉の気のオーラで暗闇が引き裂かれたが、じわじわともとの暗闇に飲み込まれていく。かなり近距離まで近づいていたのも合わせて、巨体が急に目の前に現れたことで大迫力だった。


「で、デカかったね」


「びっくりしたっす!」


「目がなかったですね」


「うーん、ってことはここの暗闇はかなり長い期間存在していたんだろうね」


「この環境に適応した変化をしたってことですかね」


「この暗闇の中アレに襲われたらどうしようもないな」


「しかし、ここはやばいな……」


「本当だったら万吉が外からぶっ放して終わりにしたかったニャ」


「濃いを通り過ぎて漆黒の瘴気をどうにかしないと無理だな」


「それでも、あれ程の存在が多く存在するならこのまま進むのも危険かと思われます」


「入り口から結界石で少しづつ制圧していくのはだめっすか?」


「……そうだな、それしか無いな、時間がかかりそうだ」


「このままだと私は役に立てないわぁ~」


「安全には変えられないと考えます」


「ウスッ!!」


「帰るときも気をつけて戻るニャ」


 結局、漆黒の洞窟攻略はその準備にも膨大な時間を有した。

 その間、谷全体の制圧が終わっていく程に時間がかかるとは万吉たちにとっては想定を大きく超えていた。


「谷の魔物から大量の魔石がなければ大量の結界装置を作れなかったな」


「谷には巣のようなものがなかったニャ、あの洞窟から漏れ出る瘴気がこの谷に大量の魔物を産んでいたってことニャ」


「さっきみたいな魔物が多いなら、このまま進むのは危険ですね」


「そうだな、時間はかかるけど、少しづつ制圧していくしか無いな」


「外の駆逐なら私も役に立てます~」


「よし、気をつけながら外にでよう」


「わかったっす!」


「うっす!」


 それから洞窟を撤退する。

 洞窟の封じ込めをして谷の魔物の駆逐、それから結界を少しづつ内部へと移動させながらの制圧、予定は立ったが、実際に実行するのは非常に困難を極めた。

 洞窟への再侵攻を行えたのは、一年以上の時間を有したのだった。

 谷の内部の魔物を倒すことで得た大量の魔石を利用した結界装置で洞窟周囲や内部を少しづつ制圧していく作業は忍耐力を必要とした。


「……さらにゴキブリが嫌いになった……」


 洞窟にはあの蜥蜴の他に、コウモリや蛇などもいたが、何より昆虫系が厄介だった、百足、甲虫、そして、ゴキブリに似た魔物が厄介だった。

 戦闘の途中でも寄ってきて死体を食い始め、共食いも余裕、さらには素早く壁も天井も関係なし、突然飛ぶなど、生理的に嫌悪感を覚える。

 出てきたら万吉やカイエルの飽和攻撃で殲滅させることになっている。


「しかし、洞窟内が複雑じゃなくてよかったっすね」


「基本この水の流れに沿って一本道ですからね」


「結界設置も今ではこんなふうに置いて、あとは自動だから楽になったっす!


「この洞窟のお陰で結界技術は一気に向上したといえます」


「そうにゃー」


「よし、設置完了っす! って、なんかいるっす!」


 結界によって暗黒が押し込まれていくと壁面に魔物の姿が現れる。


「百足4体っす!」


「多分アレも寄ってくる、そのつもりで行くぞ!!」


 こんな調子で、少しづつ、少しづつ洞窟の奥へと進んでいく。

 そして、ついに洞窟の最奥へと到達する。


「これが、水音の正体か……」


 結界を展開すると巨大なドーム状の空間、天井から中央に鍾乳洞のように下がっており、そこからポタンポタンと水が落ちて、下に水たまりを作っている。

 そして、その背後に……


「な、何だあれ、ドラゴンじゃないのか?」


「死んでいる……のか?」


「で、でかい、あんな巨大な魔石見たことがない」


 壁にもたれるようにドラゴンが死んでいて、その胸の魔石が禍々しく漆黒を放っていた……






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