第65話 洞窟
「ご苦労さま、代わるよ」
「これはマンキチ様!!」
早朝、しっかりと充電した制圧精鋭部隊は最前線に構築された防御地点を訪れた。
3交代制で迫りくる魔物を倒し続けていた兵たちに笑顔が広がる。
「とりあえず~、距離を取ります~火炎竜巻!」
5メートルほどの燃え盛る竜巻が前線から蛇行しながら魔物を焼きつくし進んでいく。
「よっしゃ、いくぞ!」
「上空、壁面異常なしっす!」
「ウス!!」
「昨日のマンキチ様の一撃で、ずいぶんと風通しが良くなりましたね」
「好き放題、気を無駄遣いした馬鹿みたいな方法ニャ!」
「あれは浪漫なんだよ!」
「なんの工夫もなくぶっ放しただけの何が浪漫ニャ、もう少しカイエルのみたいに工夫するのニャ!」
火炎の竜巻はまだウロウロしながら魔物を焼き尽くしている。
「もともとは~マンキチ様に教わったことを利用しているのですけども~」
自然現象である熱による空気の対流、酸素の供給による火勢の強化を利用しているので威力と気のコスパが非常に良い方法に仕上がっているのであった。
「と、とりあえず、ある程度掃除はできたんだから進むぞ!
まだ先は長いぞ、油断するなよ!」
「ごまかしましたね」
「ごまかしたっす」
「ごまかしたニャ、それに怪我人の治療をするんじゃなかったのかニャ?」
万吉はすごすごと防壁の内側に戻って兵士たちの傷などの処置にあたり、一通りの処置を終えてから再び進み始めた。
「カクの言った通り、魔物の密度が薄くなったな」
「胸が詰まるような息苦しさも無くなったわね~」
「な、ほら、無駄じゃなかったんだってもふもふ」
「でももう禁止にするニャ」
「そんなー……」
「あ、上からでかいのが来るっす!」
「あれは少しわたしくしの
チラッ
「私もちょっと……ケビル、受け止めるか?」
チラッ
「自慢の盾が凹みそうですな……」
チラッ
「ウス!!」
チラッ、皆が万吉を見る。
「わかったよ、やりますよ!」
「アレはだめニャ!」
「わかってるって!」
巨大な亀が回転しながら迫ってきていた。そのまま質量爆弾のように落ちて、戦いになるのだが、なかなかに厄介で外で出会うと長期戦になるので嫌われている魔物の、超巨大版だった。ちなみに飛行してるんじゃなく落下している。亀のくせに素早く壁を登ってそこから勢いをつけて回転しながら落下する攻撃をしてくるのだ。
「アイツラの甲羅は硬いし熱にも寒さにも強くて面倒なんだが……」
万吉はシャベルを掴み、気を通す。
物体操作と変質によってシャベルが巨大なハンマーに変化する。
ハンマーの打撃面では水がドリル状に渦巻いている。ウォーターカッターの要領だ。
「物体操作、性質変化、さらに、放出までなんという高レベルの組み合わせでありましょうか」
「これがマンキチ様のお力なのですね~」
「やばいっすね……」
「皆一応俺の後ろに入ってろよー……」
「ウス!!」
「一番、市川万吉……行きます!」
ぐっと足に力を込めて高々と飛び上がる。そのままハンマーを振り下ろすように前方に高速回転する。
「目が、目がまわるニャーーーーー~~~~~~~~……」
「ちゃんとしがみついてろよっ!! うおおおおおおお!!」
更にハンマーが巨大に変化する。
「もっぐら、叩き!!」
飛来する亀の甲羅をハンマーでぶっ叩く。
単純明快なその一撃。
ガコーン!! と盛大な音が谷に響き渡る。
「うおおおおりゃあああああ!!」
回転する水の刃がべきべきと亀の甲羅を砕いて巨大なハンマーが甲羅を粉砕した。
甲羅にはむすのヒビが広がり、そのすさまじい衝撃で、魔物は真っ二つに分かれて左右の壁に突き刺さっていった。
「とんでもないですな」
「信じられないっす」
「はわわ~」
「うえっぷ……今の、技も……禁止ニャ……」
「だ、大丈夫ですかもふもふ様!」
「鍛え方が足らないぞもふもふー」
「お疲れ様でしたマンキチ様、いやー凄い一撃でしたな!」
「ウスッ!!」
なかなかに役に立ちそうな素材の解体は後続部隊に任せて万吉達は谷底を制圧しながら進んでいく。以前の淀んだ空気もずいぶんと薄れてきているように感じたが、いくつかの魔物を倒し進んでいくと、急に渦巻くような瘴気の存在を感じた。
「マンキチ様、なにやら水の音が聞こえます」
「確かに、なにか、背筋が薄ら寒いのもそのせいかな? 気温が下がってる?」
「妙でありますな、今までそんな兆候は感じませんでしたが突然」
「あら~、皆さんちょっと失礼。火球!」
ボッと小さな火の玉がカイエルの手から放たれる。
そして少し進むとスッと炎の光が消える。
「おかしいッス、その先の気配が読めないッス」
「光が吸い込まれている……?」
「聖石を使ってみるニャ」
「モッドン、ケビル、気をつけててくれよ」
「わかりました!」「ウス!!」
万吉は聖石を取り出し、少し過剰気味に気を送り込んでその空間に放り投げた。
バチバチっ!
聖なる気と瘴気の壁が反応する。
気を嫌がるように空間が開いていく。
「なかなか、危険なエリアだな。だけど、ここから先が元凶っぽいのは間違いないな」
「どうしますか?」
「カク、補給部隊から結界発生装置を取ってきてくれ、結界を作りながら進んでいこう」
「かしこまりました」
谷底に広がる光の届かない領域、万吉達は敵の領域に足を踏み入れていくことになる。
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