第64話 群れと軍

「とんでもない数ですね!」


「見渡す限り~魔物だわ~」


「もう、把握しきれないっす! 背後と壁面、それと上部を中心に索敵するっす!」


「私とモッドンで正面は抑えます!」


「ウス!!」


「カク殿と我輩で上空は抑えるであります」


「撃てば当たる! 回収は後ろに任せて、でも敵の取りこぼしは厳禁だぞ!」


「はいっ!」


 魔物の数はおびただしい。谷底、壁にうぞうぞと群れをなしている。

 それらが谷に侵入した異物に反応して大波のように押し寄せてきていた。

 しかし、結局は魔物の群れでしか無い。

 一方万吉達は完全な連携を取った一つの意思を持った軍。

 巨体を持つ魔物、空を飛ぶ魔物、素早い魔物、魔物にも様々な種類が存在するが、それらが無秩序バラバラに攻めてくるのならば、万吉達の敵ではなかった。


「カイエル! 今は落ち着いている、少し休んでいてくれ」


「わかりましたわ~ご配慮に感謝いたします~」


「次はビルアンだ、索敵はもふもふが受け持つ」


「わかりましたっす、ささっと休んですぐ戻ります!」


「ケビル、少し進む速さが早くなってる、抑えていこう」


「ああ、すまんなカク。モッドンと組むと調子に乗ってしまうな自重しよう」


「ウス!!」


 それでも戦い続けていれば当然疲労も貯まれば腹も減る。

 生物にとって必要な行為だってする。

 そのために交代で休憩したり、場合によっては予備兵役を当てて一時的にフォローしたりして戦線の維持を務める。

 ただ人が多いだけだとフォローしきれず犠牲を出す可能性があるために、少人数で当たるのが一番被害を出さずに済むだろうという分析班の提言は正しそうだった。

 上部から突然降り注ぐ魔物の塊、壁から面で襲ってくる魔物、突然の変化に対応しきれるのは、超一流の戦士たちである万吉達だからこそだった。


「ケビルー、休憩だー俺が前に出る」


「マンキチ様、お気をつけて!」


「さーて、最前線を一旦上げようか、もふもふ!」


「準備OKにゃ!」


 万吉達の10メートル前には魔物がうなりを上げて押し寄せている。


「やってみたかったんだよな!」


 万吉は身体を捻り、両手で気を濃縮させていく、可視化するほどの気がその両手に包み込まれていく。


「すごいっす、周囲が歪むほどの高濃度の……」


「な、なにをするのかしら~」


「俺達の、憧れさ、行くぞっ! かーーーーーーーー」


「シーランス、マンキチ様の正面に魔物を誘導するぞ!!」


「わかったのであります!!」


「めーーーーーーーーーーーーーー」


「俺も手伝うっす!」


「私も合わせるわ~ビルアン」


「はーーーーーーーーーーーーー」


「方角よしニャ、いいぞ皆そのままニャ!」


「めーーーーーーーーーーーー」


「敵の後ろから超巨大魔物が超スピードで接近してくるっす!!」


「大丈夫ニャ! いっけーーーー万吉!!」


「波ーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」


 万吉が両手を正面に突き出すと同時に巨大な光の束が前方の魔物を飲み込んでいく。

 大地が揺れ、空気がバチバチと悲鳴をあげる。

 巨大な光の柱が周囲の魔物や瘴気を絡め取りながら谷の奥に放たれていく。

 実際には超高速でねじれるように回転していて、魔物や瘴気を絡め取りやすいように工夫して放出されていた。

 万吉はそれはもう満面の笑みで両手に気を送り込み続けている。


「波ーーーーー!! 波ーーーー!! 波=========)))」


「い、いい加減にするニャ!!」


 もふもふが万吉の顔にドロップキックを放つ。そうしてようやく万吉は光線を放つのを止めた。


「ははは、いや、気持ちよくてさ!」


「はははじゃないニャ!」


「ま、魔物が消え去ったっす……あの巨大な魔物が跡形もなく……」


「とんでもないわ~」


「またケビルにしつこく聞かれる羽目になるな……はぁ……」


「ウス!! 凄いです!!」


「やはりマンキチ様はただならぬお方で御座いますな」


 かなりの広範囲の敵を排除することになったが、調子に乗った万吉は流石に疲労を感じて一帯の結界化と拠点化のために進軍を止めることになった。

 跡形もなく消え去った魔物たちの群れの後には大量の魔石が落ちており、安全を確かめながらの回収作業にも多くの時間を必要とした。


「くはーーー!! やっぱり風呂は最高だな!!」


「さっぱりしたニャ!」


 動物病院を展開すればどこでも湯船につかれることは万吉にとって幸せだった。

 それに銀色の奴と餃子を食えば疲労はどこかに行ってしまう。


「流石にビールはお預けだけどな」


「さて、みんなに持っていくニャ!」


「よいしょっと!」


 大皿にずらりと並べられた大量の餃子を抱えて外に出る万吉、準備されていたテーブルの中央に並べていく。餃子の登場に作業員から歓声が湧く。

 万吉の好物であるギョーザは、国民にとっても大好物になっていた。


「どんどん焼くからしっかりと食べてくれよー!!」


「ありがとうございまーす!!」


 結界を張り、防衛拠点を守る戦いであれば一般兵で対応もできる。

 制圧部隊は、久しぶりにゆっくりと一晩休むことが出来るのであった……


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