第63話 谷底
万吉達は谷の起点の周囲に前線基地を作った。
まるで巨大な爪痕のように谷は山を削り取っており、下を見ても底は見えない闇に包まれていた。
じっくりと谷の周囲を調査して何箇所か魔物の登って来易い部分は鼠返しのように変形させ、谷を完全に閉鎖せるのに数ヶ月を要した。
「確かに周囲に魔物が多いね」
「この底から沸き上がる瘴気が外でも小さな瘴気溜まりを作って魔物を呼ぶんでしょうね」
時折吹く風が谷底から瘴気を乗せて谷を上がってくることがあり、その瘴気は周囲に降り注いでいく。それが地形の影響などで集まりやすい場所に瘴気溜まりを作り、そして魔物が生まれている。
「周囲を開拓できましたから、これでようやく谷底へアタックできますね」
アタックメンバーの一人カイエルは鳥人の女性だ。すらっとスリムで真っ白な羽が美しい。ちょっと切れ長でクールな感じだけど、よく気がついて優しい人だった。
朱雀型で火と風を操る。気力の量も非常に多い大火力が期待できる。完全な後衛型で気の力を高める杖を武器とする。
ビルアンは狼人、朱雀白虎型で自らの気を糸のように変化させて戦う。水と土が得意で中衛から味方のフォローや敵の妨害をメインに戦うスタイルを得意とする。
モッドンは熊人、巨体に巨大な両手持ちの剣を使い、見た目通りのパワー型白虎玄武型で水と風を得意とする。気を利用して瞬間の高速移動を可能にして、ただのパワー型ではない。
シーランスは蜥蜴人、青龍朱雀型で風使い。武器は弓だ。魔法を乗せた矢、もしくは風の矢を操り後衛から膨大な手数で敵を抑え込むことが出来る。
そしてカク、青龍型風。武器は短剣だがブーメランのように投擲にも使える。
とにかく、疾い。敵のヘイトを集めて前衛で避け続けながらも攻撃し続ける。
場合によっては中段からの投擲による攻撃も強力、音もなく凄まじい速さで飛んでくる短刀は弓よりも厄介だったりする。
最後がケビル。白虎土。今はハルバードに大盾を用いた典型的な壁役。とにかく鍛錬によって磨き上げられた技術によって鉄壁と呼ばれている。気の鍛錬をするようになり、中年だったはずだが成長限界が突破したようで、万吉いわく並ぶと自分の方が老けて見られると言われるほどに若返っていた。
そして万吉、麒麟型全属性、気の総量は圧倒的、そしてそれをフォローするもふもふ。二人が組めば最強だ。スコップと空手で戦う。
今回の制圧はこのメンバーによって進められていく。
「予定通り、谷底に向けてこのように通路を作ります。そして、突然谷底に奇襲をかけるような形になります」
少し離れた場所から階段状に掘り進み、谷の端、爪の鋒から突入する。壁面も中腹まで魔物で溢れているために安全に退避できる通路を用意しておきたい一面もある。
「なにより突然横から攻められるなんて考えてもいないでしょう」
「作業は安全第一で頼むぞ!」
「はいっ!」
気を使った土木建築は時に重機を使った現代建築も凌駕する。
とくに道や通路を作る場合は土を操作して形成するために安全性も静音性も段違いだ。
「振動もなくヌルヌル穴が空いて階段ができていくのは、気持ちいいな」
「一時的な建物だって一瞬で作るニャ!」
圧縮し硬化させた土を外壁に使って枕木いらずで崩落知らず。
谷底への侵入路を構築するのには一週間もかからなかった。
「それでは、開けるぞ、作戦通りにいくぞ」
「わかりました」
「3.2.1.行っけぇ!!」
どろっと目の前の壁が溶けるように開ける。猛烈な瘴気が流れ込んでくるが、すぐに結界に阻まれる。
「いっきま~す、朱雀豪炎暴風の術!!」
カッ! ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!
凄まじい炎の渦が谷底を疾走っていく。
「飛び込め!!」
「結界、展開!!」
ケビルが結界を大地に突き刺す。
「ウス!! 展開します!!」
モッドンも同様に入り口両側を結界で二重にガードする。
「上部より5体、降って来るっす!!」
「お任せを! 風刃の舞!!」
「フォローいたします、風矢扇射!」
カクとシーランスが上空の敵を撃ち抜いていく。
「敵、集まって来るっす、できる限り足止めするっす!
疾走れ糸よ!! 括れ足をっ!! 土縫水糸、縛ぅ! すんませんっ! 正面、でかいのが来るっす!!」
「モッドン!」
「ウス!!」
ケビルが前に出て大盾を持って突進してきた巨大な猪を受け止める。
ドンッと加速し、直角に再加速したモッドンの大剣が一太刀で猪の首をたたっ斬る。
「皆すごいな!! 俺もやるぞっ!!」
「周囲壁面まで補足したニャ!!」
「狙いは任せた!! 爆ぜろっ!! 榴弾!!」
万吉が周囲一面、壁面にへばりついている魔物に向かって放つ気弾。
魔物の身体に触れた瞬間……
ドガーン、ドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!
次々と爆発していく。
爆風ももふもふの管理下、味方には向かず、上空と谷の奥へと吹き込んでいく。
そして壁面を破壊することもなく、身体に巨大な穴が空いた魔物が壁からボロボロと落ちてくる。
周囲一帯の魔物も、同様に風穴が空いて崩れ落ちていく……
「やはり、マンキチ様ともふもふ様は、とんでもないですね」
「すごいわ~、話には聞いていたけどここまでとは」
「すごいっす!! すごいっす! 周囲の敵影全滅っす!」
「ウス!!」
「とりあえず、作業部隊を呼び入れて、進みましょう」
やっつけた魔物からは魔石と素材を回収していく。
こうして、谷底掃討戦は開幕の狼煙をあげるのであった。
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