第62話 領土拡大と魔物溜まり

「結界石によって街を守る方法も出来上がったな」


「ようやくここまで来ました」


「魔力と違ってすべての人が自然と発している気力を回収してかなり長期運用できるようになったね」


「開発班の努力のおかげニャ!」


「それじゃあ、各街へ届けてあげよう」


 大悪魔ローゼンとの戦闘にも利用した結界兵器、その後の改良により街を守る結界を展開する魔道具? 気道具として完成した。

 様々な種族が集まったせいで、各種族の特性や知識が集まり、そこに万吉の持つ進んだ科学の考え方が混じり合い化学反応を起こすかのように大きく文化レベルが進んでいた。実際には、不当に停止していた文明がその枷を解かれて成長しているようなものだった。

 魔物から街を守り、街に暮らす人々が日常的に発している気を回収して動力源とする。これで街を魔物の驚異からかなり守ることが出来るようになった。

 万吉達の参加に入った都市間を街道で繋ぎ、更に中継地点に結界で守られた宿場町も作る。人と物が安全にそして素早く移動することで経済活動も活発になっていく。

 もともとそこまで悪くなかったインフラ関係もよりレベルの高いものになっていく。下水道における瘴気の発生などは人畜無害な魔物というか森に住む動物であるスライムを利用したりして今までのような非人道的な存在の逃げ場所から改善させていく。

 半獣や獣人に対する異常な無関心は洗脳によって作られたものでも、長年の積み重ねられた経験によってどうしても受け入れられない人間には配慮して街を去ってもいいし、人間だけの都市づくりを行った場所も作っている。


「こればっかりは時間が解決するしか無いからなぁ、ちょっと臭いものには蓋みたいなやり方で嫌ではあるけど、強制するのもそれは違うと思うんだ」


 万吉がそうすると決めれば、獣人達は従う。人間だけの街でも獣人達の街と同じような生活レベルを得られるように最大限の働きをする。それが万吉の名を高める最善の方法だと知っているからだ。


 こうして、あの戦いから数年後には、大蜘蛛城、ラブレ山脈から広大な地域が万吉達の領土になっていた。

 領土の拡充と同時に正確な地図の作成もされていた。

 それによって魔物が特に発生しやすい魔物溜まりとも呼ぶべき地点が把握され、そして、その魔物溜まりにはダンジョンを形成してる場所も散見された。

 今までは強力な魔物が出現するために近づくこともできなかった場所も万吉達の舞台によって明らかになっていく。


「マンキチ様、かなり大規模な魔物溜まりが、後背、山脈部に見つかりました」


「まじか……わかった、もうすぐ診療終わるから詳しく話を聞くよ」


「わかりました」


 各都市との最も素早い連絡手段は、鳥型獣人の獣化しての飛行による方法で、情報部隊はワクの部下。気で強化した飛行は風を切ると豪語しており、実際にとんでもない速さで情報のやり取りを可能にしている。万吉はいずれは有線電話とかから始めていきたいと考えていたが、今はそれで不自由はなかった。

 診療を終えて作戦室に行くと珍しくケビルもワクも揃っていた。

 今大忙しの中心人物である二人が揃うほどの事態。ということだろう。


「お疲れ様、それじゃあ早速聞こうか」


 机上に地図が広げられる。

 山に伸びた都市群と今だ記されていない山々、そこに横たわる巨大な渓谷に大きな丸がつけられていた。


「こちらの谷部分に調査部隊を送ったのですが、申し訳ありません、犠牲者を出してしまいました」


「人選は問題なかった、俺も行けると思った。マンキチ様、俺も同罪です」


 ワクとケビルはすっかり親友になっている。


「いや、二人に責任がもしあるなら任せている俺のせいだ。

 今は犠牲者の冥福を祈ろう。

 精鋭だったんだろ、それほどか?」


「はい、まさかあれ程の規模の存在がこれほど近くにあるとは……」


「非常に険しい谷底に存在するために、上がってくることも困難で、それほどの被害は出していなかったのですが、逆に谷底が地獄ですね……」


「生き残ったものの報告では魔物がまるで池に溜まっているボウフラのようにうごめいていたそうです。すぐに引き返そうとしたのですが犠牲になったものは一瞬で取り込まれてしまったようです」


「そうか、よく持ち帰ってくれた。さっさと対応しよう、そんなものが背後にあるなんて危なくて仕方ない」


「……マンキチ様、実はあまりにも濃い瘴気のせいで気を纏った攻撃が霧散してしまい、単純な物理攻撃はほぼ効かないという状態で……」


「どうにかするためには、下に降りて全体を浄化するしか無い、と分析班は」


「よし、俺が出るよ」


「申し訳ございません」


「何言ってるんだよ、当然だろ? えーっと、もふもふをここで待機させて病院はここに出せるから……」


「万吉一人で行くつもりかニャ?」


「流石に病院がないと皆が大変だろ?」


「はぁ……万吉、皆をもっと信じるニャ、医薬品開発も今や日進月歩、動物病院に依存していた頃とは違うニャ」


「そうは言っても……」


「そもそも、弟子たちのほうがこっちの薬を使った治療では腕が上だニャ」


「がっ……最近少し思っていて気にしていることをズバッと……」


「いいんだニャ、万吉はあくまで動物病院を利用した治療の最高を目指すニャ。

 弟子たちはこの世界での最高の医療を目指していくニャ」


「そうか、わかった。もふもふ、頼む。皆にもそう伝えておいてくれ」


「少数精鋭のチームで行きます。マンキチ様ともふもふ様、わたくしカク、ケビル、それに第一部隊からカイエルとビルアン」


「第二部隊からモッドンとシーランス計8名で侵入します。上からの補助は戦時体制で行います。作戦としましては魔物を排除し結界を展開、そこを補給拠点として守りながら谷全体の制圧を目指していきます」


「正直、敵の規模は不明、戦争時より先が読めません」


「十分に注意してやろう。いざとなったらマグマで封鎖とか……」


「たぶん封鎖するとより濃い瘴気となって後の憂いになると分析班から……」


「あ、考えてたのね。わかった。精一杯頑張ろう!」


「ははっ!!」「はいっ!!」


 一難去って、また一難であった。












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