第60話 大所帯

「はぁ……疲れた……」


「万吉、皆術後も安定しているニャ」


「空腹のあまりに大量の木を食べて腸閉塞、骨折×3,胃穿孔、脾臓腫瘍の破裂……外科も重い症例だらけだな」


「入院もずいぶんと増えてるニャ……」


「いや、もう、猫の手も借りたい、借りてるけど」


「冗談が言えるうちはまだ大丈夫ニャね」


「もふもふは師匠並みに厳しいな」


「万吉はまだまだいけると信じてるのニャ」


「結構ぶっ倒れて個人的にはダメダメだなって思ってるんだけどね」


「あれは、色々と仕方ないニャ」


「マンキチ先生! 質問良いですか!?」


「立派な後輩も育ってきてるニャ、頑張るニャ」


「そうだな!! っと、どれについての質問だー?」


 現在、万吉のもとに十名ほどの獣人、人間が勉強に来ている。

 気の性質が治療にあっている者、万吉に憧れて必死に勉強している者、すでに万吉の助手ができる者。

 このままでは間違いなく医療が問題となるために、教育も含めてそういった弟子を育てている。あとで万吉のカルテチェックを当然受けるが、一般的な外来を任せることが出来るものも育ちつつある。今が一番きつい時期であった。


「その一方で……またか、編入希望の村と、そうか、街が落ちたか……で、山裾に都市建設の許可を、と……やるしか無いな」


「大丈夫ニャ、みんなを信じるニャ」


「ああ、そうだな。でもいい加減病院を山裾に下ろそう。ここまで来させるのも大変だし、ほんとにエマージェンシーな症例も落ち着いた今がチャンスだ!」


「では、明日移動するニャ」


「といってもまだ歩けない人もいるからみんなで頑張ろう!」


 山道の整備もずいぶんと進み、石打の街道が完成している。

 現状この山城の最深部である城郭から下山までのルートはつながることができた。

 その結果馬車によって快適に山を降りれるようになっている。

 獣人たちだけがたどれる隠し山路を使えば、頂上から一気に下山も可能だったりする。現在は城郭から反対方向への開発が進められている。

 いくつもの山脈を利用した巨大都市に将来的にはなっていくのかもしれない。


「病人もいるからゆっくり進もう、気をつけてな」


 3台の馬車に分かれて病人を運んでいく。

 万吉ともふもふは戦闘の車両に乗り込み周囲の警戒をしながら進んでいく。


「山中の魔物もすっかり少なくなりましたが、全て消えたわけではありません。

 空から襲ってくる奴も居ますから」


「壁で仕切った中は産まれないから、山全体を覆ってみたけどだめだったね」


「人が生活している直近からは産まれない、だろう。というのが今のところの有力な説ですね」


「それでも街だと下水に魔物が住み着いたりするよね?」


「下水の処理や、死体などの放置、あとは以前の我々のように過酷な生活によるマイナスな気、瘴気が関係しているというのが、それと、瘴気は魔力に非常に近いということもわかってきています」


「魔法使いで協力者が出てくれれば良いんだけど、みんな亡くなってしまうから……」


「打診は何名かに行っておりますので、我らの勢力が大きくなれば、なびいてくる可能性も高くなります。マンキチ様、頑張りましょう!」


「はは、そうだなワク、頑張ろう!」


 2日をかけての移動の末、病院を山の麓の拠点に移動させる。

 これによって入国審査がスムーズになるし、重症者をいち早く治療もできる。

 いままでもずっとやりたかったことがようやく実現していく。

 これを気に、国を納めるべき王とも言う万吉は、常に国の入り口、最先端にいるという不思議な国が出来上がった。


「笑うしかない……」


『午前中に診るべき症例145件、手術予定18件、なお、診療で緊急性のある疾患を見つければ順次増えていきます。予定手術ですが、緊急性が高い順で予定を組んでいます』


 朝5時。目を覚まして申し送りに目を通した万吉は、絶望の中に居た。


「万吉、骨は拾ってやるニャ」


「先生、私達も精一杯頑張ります!!」


「ああ、ありがとう、……やるしかねぇ!! 飯食ったら始めるぞ!!

 食える時に食っておけよ!!」


「ハイッ!!」


 とにかく効率的な診療を行うために、いくつかのグループに分ける。

 優秀なスタッフによる状況判断と問診により診察患者を、健康、軽症のグループ、中程度の処置が必要なグループ、重症のグループ、緊急性の高いグループに分けていく。

 軽症のグループは完全に弟子たちが診察を行う。

 中等症は万吉がチェックを入れながら上級の弟子たちが、そして重病急病を万吉が中心に診療を行う。

 このチームで大事なことは、優秀な人材を最初の分配のところに置くことだ。

 正しい分配がチームの要になっている。

 外観の視診、動作一つ一つを観察して、隠れた病気を見逃さない、そして適した検査に導く、検査前診断には高い診断能力を必要とするのだ。

 優れた臨床医ほど検査前診断と検査後診断のブレが少ない。

 重症例は次から次へと入院、手術予定が組まれていく。


「エマだ!! すぐ開けるぞ!!」


 中には一刻の猶予もない症例もいる。


「マンキチ様、こちらの症例も……!」


「なっ……隣に並べておいて! 術具2つ並べて!! 焦らず、最大限の速さで!」


夜半まで、この鉄火場は続いていく……



 








 

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