第58話 邂逅

「マンキチ様、もふもふ様……」


 獣人達は必死で二人の治療に当たっていた。

 万吉のもとで一般的な医療知識、場合によっては専門性の高い指導を受けている救護班が存在する。彼らは今、自らの存在価値を必死に示していた。


「外傷が無数にある! 微細な出血は気にするな!

 大きな傷は縫合するが、基本的には洗浄して非固着性のガーゼを当てて包帯で抑えるぞ!!」


「ふたりとも気が異常に低下している! 青龍班っ! なんとか、なんとかしてくれ!」


「他者強化の要領で気を流し込めっ!!」


「マンキチ様!!」


「もふもふ様!!」


 獣人たちを数多く救ってきた万吉、今は、多くの獣人が彼を救おうと必死になっている。戦いの余波で傷ついたものも、疲れ切った身体を引きずって、二人を救おうとしていた……


 万吉の意識は不思議な空間を漂っていた。

 浮いているような、落ちているような、登っているような、天地がわからない。

 そんな場所で、浮いていた。

 一糸まとわぬ身体は人の形なのか球体なのか、よくわからなかった。

 意識もはっきりしない。

 寒い。熱い。痛い。苦しい。

 温かい。


「……きち……」


 声が聞こえる。


「ま……ち……」


 誰かが、話しかけてくる。


「まんきち……シャンとせんか!!」


「は、はい!! 師匠!!」


 場面が暗転する。

 万吉は、落下していた。


「うわっ……!! な、何が、一体?」


「まだやることがあるだろ! 気合を入れろ!」


「し、師匠!?」


「今回は、よくやった! だが、まだ頑張れ、お前ならまだ頑張れる!」


「はい、師匠!」


 万吉は、厳しくも優しい師匠が大好きだった。

 その声を聴くだけで、踏ん張れるのだ。


「腹に力を入れろ、もふもふも連れてけ」


 ふわりと万吉の腕の中にもふもふが潜り込む。

 どんどんどんどん落ちていく。


「師匠、ありがとうございました!!」


「……待ってるぞ……早く帰ってこい……」


 万吉の身体が引っ張られる。温かい手が万吉の身体を一生懸命引いている。

 真っ暗な世界から、小さな光に向かって一生懸命引張り、持ち上げている。

 その手から、みんなが万吉を心配している気持ちが伝わってくる。


「ああ、今……帰る!」


 万吉は下っ腹に力を込めて気合を入れる。


「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉっ!!!」


 丹田より気を発し、経絡を通して全身に行き渡らせる。

 もふもふにも優しく気を巡らせていく……



「マンキチ様!!」


 万吉はカッと目を見開く。

 同時に周囲で万吉に気を送り込んでいた獣人たちが後方に弾かれる。

 万吉の全身から視認できるほどの気が立ち昇り、病院をはっきりと具現化させ、病院内を清廉な気で充満させていく……


「ただいま……」


「万吉、おかえりなのニャ」


「ま、マンキチ様……もふもふ様……っ!」


 それから獣人達は喚起に湧いた。


「ごめん、目は覚めたんだけど……起き上がれそうにはない……

 めっちゃ全身が痛い……」


「大丈夫です。ゆっくりとお休みください。

 戦後の処理は我らがしっかりと行っておきます。

 今はゆっくりお眠りください」


「悪い……もふもふも、まだ本調子じゃないだろ?」


「万吉ほどじゃないニャ、それに、病院を通して今までにない力を受け取ったニャ」


「そうか……それじゃあ、お言葉に甘えて、眠る……ね……」


 万吉は、深い眠りに落ちていった。


 再び万吉が目を覚ますと、眠り始めてから3日が経過していた。


「ぐわっ……か、身体、痛ぇ……」


 身体を起こそうとすると、関節が、筋肉が悲鳴を上げた。

 指先から一つ一つの関節を緩ませるようにゆっくりと動かしていく。

 一度動き出した身体はだんだんと元の動きを取り戻していく、気を巡らせ筋肉の痛みも収まっていく。


「マンキチ様! お目覚めになりましたか!?」


 部屋に飛び込んできたのはアイリだった。


「おお、アイリ、すまないな、まだ頭がボーッとしてて」


 ぐーーーーーーーきゅるるるるる


 万吉の腹が目覚めの雄叫びをあげた。


「わ、悪い」


「クスクスクス……、いえ、3日もお眠りだったのですからお腹が空いて当然です。

 すぐにお食事を用意しますね!」 


 ブンブンと尻尾を振りながらパタパタと部屋を出ていくアイリ。


「3日かぁ……おお、処置される側になったんだな」


 万吉は包帯だらけの自分の姿を見て思わず失笑してしまう。

 包帯を外していくと内出血の僅かな痕を残して傷は回復していた。


「3日でここまで回復するのか、気の力は凄いな」


 ゆっくりとベッドから起き上がり体の調子を確かめる。


「ふぅっ……!」


 大きく生きを吹き込むと肺が広がり胸郭がミシミシと音を立てる。

 しかし、痛みはない。


「折れてたよな? まさか治ったのか?」


 自分のカルテを探し治療や検査の結果に目を通す。

 そのままレントゲン室に入り一人で自分の胸の写真を撮る。

 画像を見比べるとボロボロにヒビやら骨折していた箇所が綺麗サッパリと治っている。


「3日で骨折が治るとか、とんでもないな」


「万吉! 起きたニャ!」


「もふもふ~!」


診察室の扉が開き、もふもふが肩に乗ろうと飛びつくが空中でキャッチしてそのまま万吉はもふもふを抱きしめる。

もふもふもすぐにゴロゴロと喉を鳴らす。 


「は、離すニャ!」


「もうちょっと吸わせてくれ……」


「や、やめるニャ」


「ふふふ、もふもふ様が焦っているなんて貴重なものを見させてもらいましたわ」


「いい加減にするニャ!」


「いでー!!」


久しぶりのふれあいにやりすぎた万吉はもふもふに成敗されるのであった。


その後餃子を食べた。









 

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