第56話 激戦

「そらそらそらそらぁ!! 避けろ避けろぉ!!」


 ローゼンは魔法を詠唱することもなく次々と万吉へと叩きつけてくる。

 雨あられのように降り注ぐ火球に土槍、風と水の刃。

 万吉とモフモフはそれを必死に防いでいる。


「土壁、かさね!!」


 バク転しながら土の壁が次々とそそり立つが、降り注ぐ魔法によって次から次へと破壊されていく、万吉は手だけでなく足元が触れている存在にも操作の力を及ばすことができる。それを利用しながら全速力で疾走しながら足元から壁を出し、土弾で魔法を撃ち落としていく。


「くそっ! 息つく暇もない! もっとだっ、白虎、身体強化三重みかさね!」


「万吉、できる限り周りに攻撃を行かしてはだめニャ! みんな、必死に支えてくれているニャ!!」


 戦闘区域を覆っている結界を支える杖は、獣人たちが全力で支え固定している。

 激しい戦闘の余波で、結界にも大きな負荷を与えている。

 それを獣人たちが気で支えてくれていた。


「ぬおおおおぉぉぉ!!」


「耐えろ!! 中ではマンキチ様ともふもふ様が戦っていらっしゃる!!」


「きつくなったら交代しろ!! ぶっ倒れたら皆に迷惑がかかると思え!!」


 戦場の外でももう一つの戦闘が続いているのだ。




「少し、目が馴れてきた!! 青龍玄武の型、武具強化!!

 おらぁ!!」


「ほう、素晴らしい防具だな、我が魔法を弾くとは……だが、不快だ!!」


「白虎の型、幻影分身!」


 万吉の姿がいくつも戦場に現れる。

 複雑に走り回って的を絞らせないようにしている。


「小癪な! まとめて爆ぜろ、ヘルボム!!」


 魔力が収縮し、巨大な爆発を起こそうとするが、若干の時間差が生じる。


「朱雀の型、多重水牢、青龍の型、土棺ぃ!!」


 爆発を抑え込むように水のベールがいくつも包み、巨大な土による棺がそれを覆う。バガンッ!! という巨大な爆発音と共に棺も破壊されるが、爆風を抑え込むことに成功する。

 その一瞬の隙きを突いて万吉はローゼンに飛び込む、手荷物はシャベル。

 いろいろと作った武器のどれよりも万吉に馴染んだのは、シャベルだった。


「うおおおお!!」


「ちぃ!!」


 ガイィィン!!

 ローゼンの持つ杖とシャベルが交叉する。

 バチバチと魔力と気がぶつかり合い火花を散らす。


「おのれぇ!! 我にこのような振る舞いを!!

 喰らえシャドーバイト!」


 万吉の足元から漆黒の牙が現れ万吉を噛み砕く、万吉はシャベルのスプーン部分を杖に引っ掛けて上に避けると同時に背後に回る。


「ぬうぅ!!」


 ローゼンの振り向きざまの巨大な爪が万吉の肉体を切り裂く!


「なにっ!?」


 切り裂かれたように視えた万吉の身体は霧のように消えた。


「幻影か!?」


「遅い!!」


 巨大な爪は手首から叩き斬られる。


「ぬぐぅ!! 貴様ぁ!!!」


 杖が、魔力をまとい振るわれる。万吉は避けると同時に中空にある手首を叩き落とす。

 聖なる気を纏ったシャベルの一撃で、手首から先の爪も含めて地面に叩きつけられ霧散する。


 着地した万吉とローゼンが向かい合う。

 ローゼンの目は怒りで燃え上がるほど赤く輝いている。

 

「万吉……平気ニャ?」


 万吉はローゼンに気取られないように口元を拭う、その手には血がついていた。


「ほんのまとった魔力がかすっただけで……これだ」


 横っ腹をほんの少しかすめた、それだけで万吉は肋骨を数本折られていた。

 大きく息を吸い、息吹を行い、肺への損傷は防ぐが、激痛が万吉を襲う。


「我慢しなくちゃ、男の子じゃねーな……」


 必死にそれを表情に出さないようにする。

 一見すれば、万吉有利に見える戦闘も、実際は当たれば終わりの生と死が向かい合わせのギリギリの攻防、相手はすでに手首を再生しているが、万吉の折れた骨はすぐには回復しない……

 自己強化で無理をさせているのと、自己回復力の向上が相殺されているような状態だ。


「強化を解いたら、一瞬でやられる……」


「がんばるニャ! 気を巡らせるニャ!! 止まったら、負けニャ!!」


「押忍っ!!」


 自分に気合を入れなおす万吉。もふもふは万吉の細かな気のコントロールの補助で手一杯だ。今にも爆発しそうなニトログリセリンを激しい戦いの中で爆発させないようにしているような、非常に困難で繊細な作業を行っている。

 もふもふも、自分のフィールドで戦っていた。


 もし、このタイミングでローゼンが猛攻を続けていたら、万吉といえど耐えられなかったかもしれない。

 ローゼンは怒りで爆発していた思考の中でも、万吉に最大限の警戒をしていた。

 ここ数千年で自分自身を傷つけた存在など居なかった。

 それどころか自分の前にまともに立つ存在も居なかった。

 あまりにも長い不戦の時間、ただ贄を捧げられるだけの時間が彼の闘争に対する思考を鈍らせていた。


(受肉してしまったせいで再生に大きな魔力を使うことになる……

 こやつは、本当に悪魔を、祓えるころせる力を持っている。

 気法使いが蘇った、これは撤退して皆に伝えるべきではないか?

 いや、この結界はなかなかに強力、その隙きを狙われたら……

 ええい、忌々しい!!)


 怒りで思考がまとまらない、再生したばかりの手のしびれが不快感を更に増してくる。

 戦いの経験を失い、怒りで冷静さを失った悪魔は、なんの策もなく再び戦いを再開する。

 圧倒的強者であるがゆえの驕り、そこに万吉たちの活路はある。






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