第55話 魔 対 気

「味方ごと焼き尽くしやがった……」


「とんでもない気配ニャ」


「マンキチ様!」


「皆を引かせろ、アイツラの相手は俺たちにしか無理だ!」


「生き残っている人間を救助しろ、絶対に無理はするな、戦いに巻き込まれるなよ」


 ワクとゲイルが指示を飛ばす。

 そして万吉は戦いの場に飛び出した。


「うん? 貴様が獣人についた魔法使いか……人間のくせに何を考えている」


「ベズリール……その人間と獣をさっさと殺せ、不快な匂いがたまらん」


「だ、そうだ。死ね。ヘルファイア!」


 爆炎が万吉たちに向かって放たれる。


おぞましい気配はどっちだよ! 朱雀白虎の型、氷壁!!」


 巨大な氷壁が爆炎の前に立ちふさがる。氷壁が重々と音をたて、炎を受け止める。


「なんだその魔法は!!」


「違うぞベズリール! それは気法だ!」


「玄武の型、疾風の歩法、巨山の一撃!」


「早いっ!! ウインドカッター!!」


「ちぃっ!」


「何をぼさっと見ている、早く殺せ!!」


「くっ、バルオーネ! 力を貸せ!」


「マンキチ様の邪魔はさせませんよ」


「獣人!? ちがうっ!? いやしいハーフが魔法使いである私に話しかけるな!!

 ウォーターカッター!!」


「啼け蟷螂、青龍の型、旋風!」


 魔法によって作られた水の刃が死神の鎌の素材を使った鎖鎌が起こす風の盾に巻き取られていく。


「馬鹿なっ!! 獣人が魔法だと!?」


「もらったぁ!! ストーンスピア!!」


 背後からの一撃、石の槍がワクを貫く。


「白虎の型、金剛石」


 飛び込んできたケビルの肉体に当たった槍は砕け散った。


「無用な助けでしたかな?」


「いや、そちらはお任せする」


 他の魔法使いにも獣人たちが対峙している。

 対魔法使い戦闘を許された一級の戦士たち。


「どいつもこいつも、嫌な気配を放っていやがる! 俺が力を貸してやる!

 さっさと薙ぎ払え!!」


「そうは言っても、こいつら、早くて、守るだけで!」


「遅い!!」


「ぐはぁ!!」


「仕方ねぇ、お前に力を与えてやる!!」


 悪魔が魔法使いの身体に潜り込んでいく。


「ぐあああああああああ!!」


 メキメキと肉体がきしむ音がして、身体が隆起する。


「ぐはぁ……なるホど、これナら獣人をつぶせるナぁ!!

 さらに、アタックアップ!! シールドアップ! スピードアップだぁ!!」


 悪魔が乗り移り魔物のような姿になり、さらに魔法によって肉体を強化していく。

 その剛腕の一振りも巨石を砕く一撃!


「力に振り回されているな……玄武の型、落峰」


 ケビルは膨大な力の方向、流れを操り大地に打ち付ける、そこに自らの力を加えて叩き潰す。


「ぐあああっ……」




「そらそらそらウインドスピアー!! ファイアーニードル!!

 この弾幕なら近づけまい!!」


「ただ数をばらまくだけなら恐れるまでもない、絡み取れ蟷螂、青龍の型、蛇絞殺!」


 降り注ぐ魔弾を鎖鎌がすり抜けていく、魔法使いの周囲を旋回し、締付け切り裂く!


「ぎゃああ!!」


 魔法使いは悪魔を呼び出し、万全の体制で挑んでいたが、それでも獣人たちが圧倒していた。今まで秘匿されていた気という力、それに獣人や万吉のもとで鍛錬を重ねてきた人間と、魔法にあぐらをかいていた魔法使いたちとの差は歴然であった。



「全くもって不愉快だ……やはり、雑魚と群れると碌なことがない……」


 忌々しくそう吐き捨て、巨大な悪魔が空に舞う。


「ローデン候……?」


「貴様ら、我が贄となれ。サクリファイス オブ ヘル」


 魔法使いと悪魔は突然現れた漆黒の牢獄に放り込まれる。


「こ、これは!?」


「ローデン候、まさか我らを喰らう気ですか!?」


「お止めくださいませローデン候!!」


「もう……遅い……」


 悪魔が手を握りつぶすと、牢獄もグシャリと潰れる。

 牢獄が悪魔のもとに集まり、両手で絞り上げ、溢れ出した液体をごくりごくりと喉を鳴らして飲み干していく。


「フハハハハハハハハ!! 多くの咎人、魔法使いの血に同族の力!!

 至る、久方ぶりに滾る!!」


「ろ、ローデン候……このような振る舞い、な、なんということを……」


 一人残された魔法使いベズリールは、その惨状に目を覆う。


「我に差し出口を挟むか、ベズリール……よかろう、貴様との契約はい。

 今までで十分に果たしておる。契約であれば、このようなことにならんかったが、身を超えた力を求めた代償、貴様の肉体を最後の贄とせよ!!」


 悪魔はベズリールと言う名の魔法使いの肉体に潜り込んでいく。


「ぐああああっ、おやめ、おやべくだざいいいいぃぃぃぃぃ、き、ぎもぢいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃ……っ!! ぐべあああぁぁあ、ぼげぇ!!」


 周囲の禍々しい空気もその肉体、一箇所に集まっていく……


「くくく……受肉の快楽に溺れて死んだか……ふむ、久しぶりだが、悪くない。

 喜べ獣人共、特別にこのローデンが相手をしてやろう。

 この一帯を全て我が喰ろうてやる!!」


 老人の姿をした魔法使いは、真っ青な皮膚、真っ赤な瞳、そして黒きオーラに身を包んだ魔人へと変貌した。

 身につけていたローブも元々魔法がかけられていた逸品だったのだろうが、悪魔の魔力に当てられ黒衣の禍々しい姿へと変貌していた。

 悪魔ローデンがここに受肉を果たした。


「す、凄まじい力ニャ……」


「これは、藪をつついて龍が出てしまったか……?」


「兵士たちの無念の死からも力を集めてるニャ」


 兵士たちが死んだ地面から、そして空を覆うほどの魔がローデンに流れ込んでいく。その暗闇はどんどん広がって空を覆っていく。


「これ、範囲が広くなったらまずいよな!」


「そうニャ、この地方から力を吸い上げる存在なんて勝てるわけ無いニャ」


「アレを使うぞ、ワク!!」


「総員、対悪魔結界展開!!」


 獣人達は盆地を囲うように位置取り、荷から杖を取り出し大地に突き刺す。


「マンキチ様!!」


「ああ、任せておけ、俺が貯めに貯めた聖石を使った、秘密兵器だ!!

 ぇっつぅ!! 展開!!」


 杖の先につけられた石が輝き、線を結ぶ、盆地を包み込むように大地に光のドームを編み上げていく。


「ぬぅ……これほどまでの聖気がまだ……フハハハハ!!

 よかろう、再び叩き潰してやる!!

 貴様たちだろう、全ての元凶は!!」


 ローゼンは万吉たちを睨みつける。


「万吉、覚悟を決めるニャ!」


「分かっている!!」


 結界の中にはもふもふと万吉、それに悪魔、上級悪魔ローデン。

 今激闘の幕が切って落とされた!!


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