第52話 戦争準備

 順調に物事が進み始めると、揉め事が起こるのは世の常。

 そして、今回はその揉め事の規模が大きかった。

 ここ最近の万吉たちの街、いや、小国は順調すぎた。

 生産される物資の質は驚くほどに高く、国内の流通しているものよりも遥かに劣ったものを外に出しているといっても、別格の出来。

 食料も余裕を持って外に出せるほどに豊かであった。

 獣人の国が、だ。


「人間たちは面白くないし、俺たちには魔法使いを討ったという相手からすれば大義名分……それも酷い話だけどな、こっちは侵略に抵抗しただけだ」


「人間たちの理屈はもっと単純でしょう。獣人や半獣が生意気だ。

 皆様には失礼な物言いになりますが、それがほぼ全てかと」


 ケビルの仕切りで今回の人間軍の侵略の対策を話し合っている。

 周辺都市3つが手を取り合って、それなりの規模の侵略を計画しているという話は、各地へと送っている密偵から報告が来る。

 あえて人間の街に残って、獣人たちの支援などをしている人間や獣人もたくさんいた。そういう人々は各地で苦しんでいる獣人たちを支援したり、場合によっては万吉たちの街へと移住を支援している。


「とりあえず、戦いのやり方は、数で劣る我々は誘い込んでこちらの有利な場で戦うつもりだ」


「お言葉ですがマンキチ様、数の不利をひっくり返すことが我々には可能だと自負しておりますが?」


「そうだね、気の力を手に入れてまさに一騎当千、魔法使い相手だって引けを取らない戦いができるだろう。でも、正面から戦えば当然犠牲も出る。誰にも傷ついて欲しくないと言えるほど楽な戦いじゃないし、現実問題、せっかく育成した優秀な兵をできる限り減らしたくはない」


「たしかにそのとおりです。浅慮でした」


「改めて全員に伝えて欲しい、慢心するな。と。これは強く強く言っておいてくれ、慢心こそが最大の敵だ。これは、戦争だ。常に最悪を想定し、冷静に確実に物事を運んでいこう。そのために準備は最善を尽くす」


 医療もそうだ、手術などの大きなイベントは、それまでに積み重ねてきた検査や事前の計画、そのための道具など、始まる前の準備ですでに勝敗は決まっているということを万吉は師匠から叩き込まれている。

 

「わざと凡戦して敗走して敵を山深くまで引きずり込む、色んなところから攻められると面倒だから、わかりやすく道を作って、そこに引きずり込んでいく……」


 山の地図を広げて敵を向かい入れる備えの話をする時の万吉の顔は輝いていた。

 リアルでシミュレーションゲームの戦術を実行できることに、先程は気を引き締めるように言っていた万吉は、興奮していた。

 歴史戦略系ゲームもそれなり以上に嗜む万吉は、僕の考えた最強の山城案を次から次へと出していく。そして、万吉の下には気を利用した最強の建築部隊も整っており、それを短時間で形に出来てしまう。

 こうして、地蜘蛛城は難攻不落の城へと急速に形を変えていくのであった。

 

 万吉の計画を全員が協力して実現していく。

 

「城構えは外からだとわからなくて、実際に攻め込んでみたら窮地に陥るってことが珍しくない。とくに視線を通さない蛇行した道を進ませて行くことで情報を相手に伝えないようにできる。曲がり角の先は死地だったなんてことも珍しくないんだよ」


「マンキチ様のいた世界もかなり過酷な世界なのですね」


「大昔の情報だけどね、そういった殺し合いの時代もあったって話だよ。

 でも、進化した戦いも、残酷なもんだよ」


「引き金一つ、ボタンひとつで大量の人が死ぬ戦争は恐ろしいニャ」


「念のために、火薬の製造も始めてるし、魔物の素材で似たような性質なものも利用できないか研究はしてるけど……」


「病院のそばなら食用油でさえも危険な武器になるニャ」


「それには最後の手段だからね、病院が戦火に巻き込まれるような場所まで攻められるのは避けたい……」


「しかし、徹底した高所からの射撃、然る後撤退の繰り返し、追手には伏兵によるゲリラ戦を繰り返し、狭道へ誘い込み挟撃などを経て、圧倒的に有利な状況で正面衝突……高所を取られた戦闘の厳しさを体現したような配置ですな」


「獣人たちの身体能力も合わさって、人間にとっては悪夢だろうね……それに、考えあっての致命傷を避ける戦い方をするからね」


「山道を怪我人を守りながらの侵攻は困難を極めます。たぶん見捨てられ置いていかれる人間たちを秘密のルートから裏を取って捕獲していく……」


「結構えげつないことを考えるニャ……」


「ケビルみたいに仲間になってくれれば戦力の大幅な増強にもつながるし、魔法使いを倒して洗脳を解いてあげれば異常な獣人への蔑視も収まる。後は各地の街を開放して……ゴルレ国の建国を宣言する……だっけ?」


「そうニャ、街を3つ手に入れればもう立派な国ニャ!」


「王様なんて柄じゃないんだけどなぁ……」


「この世界にはびこる魔法使いと魔物による不当な支配を終わらせるのが万吉の使命ニャ!」


「我ら半獣の希望の国となります!!」


「それを言われるとな……獣神様に恩返ししないとな、よし、このまましっかりと準備を進めていこう、敵もそろそろ動き出すぞ!」


「ニャ!」「はいっ!」「ははっ!!」


 万吉はゴルレ村からゴルレ国を起こせるのか、それを決める戦争は、まもなく始まろうとしていた。


 



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