第50話 山城
「マンキチ様!! 無事にお戻りになられましたか!!」
「皆っ!! マンキチ様が戻られたぞ!!」
街から獣人たちが万吉たちを迎えに出てくる。
「まだ攻撃は来ていないみたいだね」
「いえ、すでに使いの者は来ました」
「え!? だ、大丈夫だったか? けが人は?」
「大丈夫です。魔法使いもいませんでした。
すでに壁は作ってましたから、攻撃を受けたこと、魔法使いを撃退したこと、魔法使いは兵士たちと敗走したと伝えました」
「いい判断ニャ」
「魔法使いが敗走したと聞いた時の使いの顔を見せたかったですよ」
「それにしても、ずいぶんとしっかりした防壁……それに櫓だよね、いいバランスだ。見事な山城……ってこの世界って日本式の城郭ってあるの?」
山道から街へと入る門は巨大でその左右には土塁がそびえ立ち、門へと続く山道を高所より狙う櫓が築かれている。土塁の手前は堀になっており、塁をこえて街への侵入を阻んでいる。
山であることを利用し、多くの兵士が回り込むことは困難、無理をすれば谷底へ真っ逆さまな地形を生かした作りになっている。
「マンキチ様の病院で読んだ城郭を参考にしました!」
「ああ、待合室に置いてある……って、それだけでこの完成度!?」
「ゴルレ村の人達が手伝ってくれて、三日三晩で形にしました。まだまだ裏はハリボテですけど、ハッタリには十分ですよね?」
「そうだな、これは、驚くだろうな」
「地の利を生かした城作りこそ寛容。まだまだ計画は終わりません!」
「頼もしいな、それと、皆を集めてくれ、新たな仲間と新たな力について話したい」
「わかりました!!」
万吉は獣人たちを集めケビルらが正式に仲間になったこと、魔法使いと洗脳、そして気について今わかっている情報を共有した。
そしてすぐに気の解放の儀式と選別が行われる。
すでに気の扱いを学んだワクたちの手によって街の獣人やゴルレ村の獣人は鍛錬を重ねていく。
同時に死神の鎌からの素材を利用して戦いのための準備を進めていく。
防衛拠点として山城である名もなき街だった場所は、開村の人として受け継がれてきたラブレ氏の名をいただきラブレ城と名付けられ急ピッチで開発が進められていく。
気の利用と万吉の助力で、数週間で見事な山城が築かれていく、そして、その背後には立派な城下町が広がっている。
後方に生産拠点であるゴルレ村、もう街と呼んで良い規模の都市をもつこの山城は、難攻不落と言って良い作りとなっている。
ワクたちを中心にこの山の調査兼地図づくりも開始された。
たくさんの資源の発見にも繋がり、街の発展にも大いに寄与することは疑いようもなかった。
「西洋式城郭と日本式城郭のいいとこ取りしてみた」
山城らしい粗野ではあるものの堅牢な見た目、万吉が渋いと唸る城部分も完成した。
「武具も新調したニャ、青龍式鍛冶が凄まじいニャ!」
物質に気を通す青龍型、それを利用し死神の鎌の鱗と金属を融合し鍛錬することで過去の鍛冶技術が一変するほどの結果をもたらした。
今までは金属や皮で作った鎧や盾に鱗を貼り付けるように設置していた、余分なものが多いので大型で高重量になり、鱗が剥がれればそれが直接能力の低下につながってしまった。
しかし、鱗と金属に気を通し、完全に融合した素材はそのまま利用すると金属の性質に魔物の素材のパワーを上乗せできる上に魔石を同様の方法で融合したインゴットを用いることで、気を通しやすい金属の精製も可能になり、操気術使いの獣人たちにとって最高の武具を生成できるようになった。
このように、直接戦いに挑むもの以外にも気の普及は大きな変化をもたらした。
生活の中に気を取り入れ、様々な業務の効率化を行ったり、生活の質の向上をもたらすことになる。農作業一つとっても土を豆腐を崩すように耕したり、水撒きを一瞬で終わらせたり、万吉のように大木をバターでも切るように切り倒し、巨大な大木を担ぎ上げる、そういうことも可能になっていった。
そして、目立たなかった獣人が、気においてとんでもない才能を秘めている、なんてこともあった。
「凄いな……美しい橙色、そして朱雀、白虎型どちらも高い適正……まさに操気使いになるために産まれたような才能だ!」
「火と水の相反する属性が混ざりあっている……さらに白虎玄武型、どんあ相手でも臨機応変に戦えそうだ!!」
どんな能力でも工夫次第で皆の役に立てる。獣人たちにとって自分自身の存在価値を見出すことは最高の喜びであった。
全ての獣人たちは、厳しい鍛錬に文句一つ言わずに夢中になって打ち込んでいくのも自然な流れであった。
長年蔑まれていた獣人たちが自らの力で人の役に立ち、自らを認めてもらえる。そんな当たり前のことが至上の喜びであった。
「明らかに怪我や病気が減った……」
「気の力ニャ」
辺境の小さな村から始まった改革は、ここで、巨大な渦となってこの世界を飲み込む準備を開始したのであった。
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