第48話 適正

「よし、掴んできたぞ」


 死神の解体をしながら、万吉はもふもふの指導の元、気の使い方を練習していた。


「ニャルほど、病院のものには気を行き渡らせやすいニャ」


 万吉は気で強化した包丁でスルスルと死神の蛇の鱗を落としていく。

 まるで水面を滑るように刃が渡り、鱗がハラハラと落ちていく。

 ワクやケビルらからすると、それは手品か魔法のようだった。


「マンキチ様、我々が気を使っているというのは本当なのですか?」


「うん、間違いなく使っているよ。こうぐっと貯めてバーンと動くときとかは」


「……こういう感じですか……?」


 ワクはかがみ込んで高く飛ぶ。3メートルは飛び上がり、その肉体能力にケビルたち兵がざわつく。


「うーん、なんか違うな。こうやって、こうって感じ」


 万吉はぐっと身体を屈め、10メートルほど飛び上がる。


「……そもそも、その気を使っている自覚は無いんですが、どのようなものなんですか?」


「気? えーっと、こ、これ?」


 万吉は掌に気を集中させる。段々と輝きを放って視認できるようになる。


「そんなバカみたいな量を扱えるのは万吉だけなのニャ、ワク、背中を向けるニャ。

 そして万吉はそれをしまって、背中に手を当てるニャ」


「は、はい!」


「こう?」


「そうしたらゆっくりと気をワクに流して見るニャ、少しづつニャ」


「少しづつ、気を流し込むイメージ……」


「……なにも、感じ……ん? 温かい……熱い、熱い……あっついです!!」


「万吉少し弱めるニャ! その熱さが身体を流れているのがわかるニャ?」


「……はい、分かります。背中から、頭へ向かって、手足、へそ、そして、胸の中央に……」


「その流れをしっかりと意識しながら、万吉は少しづつ気を減らしていくニャ」


「わかった……」


「見失わないように、深く集中するニャ、ワク!」


「はいっ!!」


「もう流してないよ」


「わかります、体の中の流れがっ!」


「高めるためには、その流れを早くするイメージニャ!」


「はいっ!! 流れをコントロールして、早く……っ!」


「おお、ワクの気が高まっている」


「そのまま臍の下に集めていくイメージニャ! どんどん回していくニャ!」


「おお、おお……っ! 熱い、何かが、何かが開く……開くっ!!」


 ブワッとワクの周囲で風が怒り、ワクの纏う気配が変化する。


「おや、ワクが進化したニャ……これは思わぬ誤算ニャ」


「こ、この力は……っ!?」


「万吉!! おんなじ方法で獣人全員を進化させるニャ!!」


「え、あ、はい!!」


「それとケビル隊長!」


「は、はい!」


「ちょっと背中を貸すニャ……万吉、やるニャ!」


「え、あ、はい」


「な、何を……?」


「ガタガタ言わずに上を脱いで背中をこっちに向けるニャ!!」


「は、はいー!」


 ケビルは年齢の割に鍛え上げられた肉体をさらけでし、背を向ける。

 ほう、と万吉は感心しその背中に手を当てて気を流し始める。


「……流し……づらい……」


「背中が、温かいですね」


「ケビルはもっと集中するニャ、万吉は少しづつ気を高めてみるニャ!」


「ぬぅー……本当に流しづらい……」


「自分の身体の流れを考えて、効率よく、強弱つけて刺激するイメージニャ!」


「ふん、ぬ、ほーい!」


「あっ? うん!? あーー……温かいのが……広がっギャン!!」


 びくんとケビルの体が震えた。


「おっ、急に流しやすくなったぞ、ああ、これ、尿閉の時の生食の使い方に似てるな……そうとわかれば、おりゃ、そりゃそりゃー!」


「あっ! ごうっ!! うひんっ!!」


「ケビル、集中して流れをつかむニャ!!」


「は、はひぃ!!」


 それから一時間……


「よーし綺麗に流れるようになったぞぉ!」


「はぁはぁ、これが、気……」


「後は自分でワクと同じように臍の下に高めて集めて開く、このイメージニャ!」


「わかりました……回して、高めて、集める……」


 人間は、気の巡る回路がまるで詰まっているかのようで、それをほぐすことで気を認識し、獣人と同じように扱うことが出来た。

 個人差が大きく、万吉は獣人、人間の気通に集中することになった。


「おお! 私にもこんな事が!!」


 ワクは万吉と同じように鱗を綺麗に剥がし、その身を分けていく。

 包丁がまるでバターを切るように死神の鎌の強靭な鱗や肉を斬っていく。


「なんか、作業に得手不得手があるんだね」


「はい、どうやら肉体強化が得意な者や、武器にまとわせるのが得意な者など……

 あと、万吉様と同じように、魔法のように使うのが上手いものも居ます。

 獣人たちほどではありませんが我々もずいぶんと使えるようになりました」


「細かい調整は人間のほうが上手いニャ。興味深いニャ」


「なんか、属性とかありそうだよね、色が違うんだよね」


「どういうことニャ!?」


「一人ひとり、気の感じと色が違うんだよねー」


「万吉には気がそんな風に視えてるニャ?」


「うん、例えばワクは黄色っぽくて鋭い感じ、ケビルは緑っぽくてカクカクしてる感じ?」


「く、詳しく教えるニャ!!」


 こうして、万吉ともふもふによって、気はいくつかの分類をされていくことになる。

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