第47話 操気術
実際の追尾は、もっと簡単だった。
万吉が傷つけた肉体から出た出血が倒された草木に付着しながら山を下って谷へと続いていた。
「ワク、お疲れ」
「はい、あの穴に入って行きました」
山肌にぽっかりと空いた洞窟。そこに死神の鎌は逃げ込んだ。
周囲には嫌な気配が漂っている。瘴気が濃い。
「……風がここに集まっている感じニャ、ジメジメして、いやあな感じニャ」
「日中でもこの暗い感じ、ジメジメしているし、水の流れも悪いから、酷い匂いだ」
この場に先にたどり着いたのは獣人と万吉、人間たちは大きく迂回して降りる必要があった。まさか直立の崖をなんの躊躇もなく飛び降りるとはケビルたちは思わなかった。
「なんとか下に降りてきてよ、先行ってるね」
散歩にでも行くように谷へと踏み出していった。そしてそれに続く獣人たち、驚いて覗き込むと壁面をぴょんぴょんと跳びながら下っていき、あっという間に見えなくなった……
「……降りれるところを探すぞ……」
ケビルたちの苦労は続く……
獣人達も数名が崖から落下したが、万吉が壁を走って回収して無事にそこまで到着した。
「どうされますか?」
「ちょっと、試したいこともあるから……ここで待っててくれ」
「わかりました」
万吉は周囲に注意しながら巣穴に近づいていく。
「ものすごく嫌な気配がたくさん感じるニャ」
「うん、俺も分かる感じがする……気の力、なのかな?」
「身体になじんできたのニャね」
「ああ、だから……たぶんだけど、こういうこともできるんだろうなって思う……」
万吉は身体からあふれる力を手のひらに集中させていく。
「そして、イメージ……この世界には、あんな魔法だってあるんだ……っ!」
万吉の中に眠る厨二病。今、異世界で結実する。
自らの力と、想像力を、結びつけ……溢れ出す力はその姿を変化させていく。
周囲に冷気があふれる、気の力が凄まじい冷気を発していく。
「名付けるなら……ヒエヒエ弾「凍結掌とかにするニャ!」」
「おほん。行けっ! 凍結掌!!」
万吉の掌から、冷気の力が洞窟へと放たれる。
万吉は飛び退きワクの近くまで距離を取る。
冷気の塊の力が、洞窟の内部で解放される。
洞窟から猛吹雪が吹き出し、周囲の沼を凍らせる。
谷底が一気に肌寒く変化するほどの猛烈な寒波が吹き付けた。
身震いするほどの冷気だが、その風は清廉、谷底の空気を一気に浄化していった。
「こ、これは、魔法!?」
「うーん、いうなればやる気になれば何でもできーる法「操気術とでもいう技ニャ!」」
「操気術……」
「そ、操気術だよ!」
「魔法が魔力を使うニャら、同じことを気を持って成したニャ」
そもそも、気とは一体。という言葉を獣人たちは飲み込んだ。
今目の前で行われたことは、魔法使いたちが行っていたことを別の手段で行った。
その事実だけを理解した。
「獣人には気があるから、皆も出来るようになるよ」
細かなことは、万吉の一言で何処かへ旅立っていった。
「私達が、今の操気術を……?」
「理論的には可能ニャ、まだまだあの万吉がやるみたいな無尽蔵な気を雑に使った方法は難しいとは思うニャが」
「というか、皆もう使ってるよね? 肉体強化とかすごく自然だから参考にさせてもらってるよ?」
「え?」
「え?」
「ニャ?」
「ま、マンキチ様ー!」
「お、追いついたんだねケビル」
「……大変でした……」
「だよね、もっとゆっくりでも良かったのに」
「ところで、死神の鎌の巣は……?」
「もうマンキチ様が終わらせたところだ」
「もう、終わった……?」
「ああ、そうだった。中に入ろうか、多分問題ないと思うけど」
洞窟の内部は氷堂のようになっていた。
「どれだけの冷気を叩きつけたんニャ?」
「考えたのは絶対零度だね……」
「やりすぎなのニャ」
「いや、考えられれば実行できる操気術がチートすぎるんだろ……」
「神様きっと今頃頭を抱えているニャ、これは環境破壊も甚だしいニャ」
洞窟を進むと、何体もの死神の鎌の凍死体を発見した。
「冬眠、じゃなくて、完全に死んでるな……」
「確実に魔石を取り除くニャ」
「大量の肉だな」
「この状態なら我々でも解体できます」
病院産の道具であれば、死神の鎌だろうが死んでいる身体を解体するのは問題なく可能。
「おっ、ちょうどよく広いところがあるな、ここなら病院出せるんじゃないか?」
「そうニャね。大丈夫そうニャ。他の道とか大丈夫かニャ?」
「ここに出せば問題なさそうだ、頼むよ」
「わかったニャ!」
洞窟内に病院を出して、探索拠点とし、獣人と兵士たちの手によって死神の鎌たちを解体しガレージには大量のお土産が運び込まれていくのであった。
「……この無造作に詰まれた鱗がすべて死神の鎌の……」
「国が買える量ですね」
「ああ、もう、常識とかが馬鹿らしくなる。
確信した。マンキチ様に着いていけば、絶対に間違いはない」
「ああ、それは同意見だ」
万吉を中心に、人間と獣人が手を取り合う。
その最初の共同作業は数日にも及ぶことになるのであった。
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