第46話 成長

 ケビルとワクは目の前の光景が信じられなかった。

 出逢えば死、たとえ魔法使いが複数名いても、死を覚悟しなければいけない存在。

 死神の鎌と呼ばれるその大蛇に、たった一人の人間が対峙し、圧倒している様を。


「馬鹿な、なんでアレが避けられるっ!?」


「あの変化に対応!? それよりも、あの鱗を割くあの武器は……」


「とんでもない人の下についてしまったのかもしれない」


 万吉のスコップが鱗を切り裂く金属音が山を木霊し森に響く。

 大蛇は時に音もなく急加速し、時にドタンバタンと大地を震わせている。

 そんな存在に、小さな人間一人が真っ向から圧倒している光景は、見るものを震わせた!


「凄い……マンキチ様にはどんな光景が視えているんだ……」


「あんな風に俺たちも戦える日が来るのだろうか」


「大丈夫!! 鍛えるから!!」


 戦いの最中にも万吉は目ざとく、いや、耳ざとく会話に入ってくる。


「万吉、ちゃんと集中するニャ」


「してるしてる! 集中しすぎて怖いぐらいで、回りの声もすごくよく聞こえるんだよ!」


 万吉自身も自らの状態の変化に驚いていた。

 気を用いて、意識して使った戦闘は、周囲の状況把握、身体能力、思考力、すべての力が向上していた。更にはただでさえ異常だったスコップが、光を帯びて強力に変化してる。

 その御蔭で以前は苦戦した死神の鎌、前のそれより巨大な個体に対して、全く苦労することなく立ち回ることが出来ている。


「シャララララララ……」


 大蛇は身体を揺らし距離を取り始める戦い方に変化していた。


「あやつ、逃げるつもりニャぞ……」


「ああ、ただ、逃がそうと思う」


「どういうことニャ?」


「この間のやつ、そしてこいつ、もしかしたらこの周囲に死神の鎌の巣があるんじゃないかな、あの魔物が生まれたみたいな場所が」


「にゃるほど、そこへ道案内を頼むわけニャ?」


「ああ……ワク! コイツが逃走したら十分な距離をとって追跡を頼む!」


「わかりました!」


 万吉たちの予想通り、死神の鎌は消極的な攻撃を数度繰り返し、一気に距離を取って逃走した。


「頼んだぞワク!」


「はっ!!」


 ワクはそれを追って森に消えていく……


「ケビル、悪いんだけど寄り道……って何してるの?」


 万吉が戦いを終えてケビルたちの元に戻ってくると、ケビルを始め、すべての剣士、獣人が膝をついて迎えた。


「改めて、我ら一同マンキチ様に絶対の忠誠を誓います」


「獣人一同も同じ思いであります」


「いや、はは、これは困ったな」


「万吉、この世界のためにこき使ってやるのニャ」


「と、とりあえず。皆が仲間で居てくれるのは嬉しいよ。

 んでだ、これから死神の鎌の巣を破壊しに行く」


「はは……、……今、なんと?」


「このあたりで何度も目撃されている死神の鎌と呼ばれる大蛇、魔物は汚れた瘴気から生まれることを考えると、どこかに大蛇を産んでいる瘴気溜まりがある。それを浄化しに行く」


「その、マンキチ様、魔物が瘴気? から生まれると言うのは……?」


「ああ、俺は魔物が生まれる瞬間に立ち会ったことがあるんだ。

 うず高く詰まれた……死体の山。そこに淀んだ瘴気が溢れていて、そしてそこから魔物が生まれてきた。そういや悪魔や魔法使いが使っていた魔力? 皆から抜け出た洗脳の残滓? あれもどちらかといえば瘴気に近いように感じたんだよなー」


「お、お待ち下さい。魔物が生じる理由は全くわかっておりませんでしたが、それを解明したと……?」


「全ての魔物がそうなのかはわからないけど、少なくともそういう生まれ方をする魔物はいるってことはわかった。ってだけだね」


「そ、それでも世紀の発見ではありませんか!!」


「誰も知らなかったらそうかもしれないね。だから、死体とか淀んだイヤーな空気を感じたら、ちゃんと炎を使って場を清めたほうがいいよ」


「なんということだ……だから戦場などは後に魔物が跋扈するのか……」


「では、墓場が魔物に荒らされる理由はっ!?」


「たぶん、ちゃんとした埋葬をしていなかったせいで魔物が生まれたんじゃない?」


「下水や廃棄物を埋める場所でも魔物が!」


「似たような理由だろうね……って逆に今まで気が付かなかったほうが不思議なんだけども……」


「……今まで疑問に思ったこともなかった」


「洗脳の一種なのかもしれないニャ」


「魔物の発生源を把握させない事にメリットが有るってことか、これは魔物と悪魔は繋がりがありそうだな」


「瘴気と魔力の関係もありそうだニャ」


「そこらへんも、調べないとな……おっとあんまりワクと離れるとわからなくなっちゃうな」


「そうニャ、こっちニャ! 急ぐニャ!」


 ワクに持たせた病院由来のものの残滓を読み取ってもふもふは後を追尾することができる。あまりに離れ過ぎると消えてしまうので、万吉たちは急いでワクの後を追うのであった。


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