第44話 解放
「洗脳……だと……?」
「あんた達の身体から瘴気のようなものが抜けていった。
多分過去の行動が今の自分の倫理観とそぐわないんだよな?
獣人や半獣人に対する異常なほどの冷徹さは洗脳から来てたんじゃないかな?」
「……一体、いつの間にそんな……」
「たぶん、街全体に張られている結界の内部にいる間にだんだんと洗脳されるんじゃないかな……?」
「あれは領主様が魔物から守るためにっ!」
「獣人を逃さないためにでもあるよな」
「そ、それは……!」
「洗脳なのか魔法なのかは分からないが、それが溶けた君たちは半獣人に対して侮蔑を感じることもないし、人間と変わらない感情を抱いているだろ?
どうやら悪魔にとって人間と獣人が近づくことは好ましくないみたいだ」
「そ、そんな……なぜ……?」
「俺もわからない。ただ、悪魔という存在がこの世界に居てはいけない存在であること、そんな悪魔の力を借りている魔法使いが怪しいとは思っている」
「魔法使い様はこの世界で人間が生きていくために貢献してくださっているのは事実だ!」
「魔物だったら獣人たち、いや、人間でも普通に対抗できるぞ。
魔法使いでなければいけないこともない。
少なくとも、特権階級みたいな立場で獣人たちを面白半分で殺して良いってことにはならないだろ」
「……そ、それは……確かに……? なぜ、それが当然だと考えていたんだ?」
「それが洗脳だか魔法なんだ」
「ならば貴方はなぜそういう考えをもっていなかった?」
「ああ、そういえば名乗っていなかった。失礼した。
俺は万吉、市川 万吉だ。獣医師として獣人と共に生きている人間だ」
「じゅ、獣人が人間を受け入れるだと?」
「いろいろあってね、このもふもふと獣神様の使徒をやっている」
「神の、使徒……待ってくれ、いろいろなことが多すぎて、タダでさえ自分の経験と自分の考えがずれていて混乱が……」
「とりあえず、敵意はもうないよな?」
「ああ、もう、戦うつもりはない」
「だったら、とりあえず拘束は解いてやるから、少し休むと良い。
ワク、食事も用意してあげてくれ」
「……かしこまりました」
「いいのか?」
「まぁ、説得するよ。えーっとケビルさんだったよな。
あんたらの侵略の責任分はしっかりと働いてもらうから、今のうちにしっかりと休んでおいてください」
「……わかった」
ケビル隊長に剣士たち心配そうに集まる中、万吉達は部屋を後にする。
完全に悪役だが、戦い、戦争である以上仕方がないと万吉は割り切っていた。
そもそもそこまで非道なことをするつもりもなかったわけだ。
万吉ともふもふは病院に戻り患者の対応に当たる、治療後の定期検診などもこなしつつ、街の復興支援も行っていく。
重症例も順調に回復しており、ひとまず、破壊された街も元のように生活が出来るようになりつつあり、万吉は兵士たちの所存を決定しなければいけなくなる。
「皆の言いたいこともわかるが、今人間たちにこれ以上の罰を与えてしまうと全面的な対立に発展してしまう。なんとか俺が行って話をつけてくるから、どうか今回の件は俺に預からせてくれ」
万吉の言葉に皆が従ってくれた。
万吉たちがゴルレ村を通して長い期間この街を支援し続けていたお陰で、この街も以前より遥かに生活が改善しており、万吉による医療で助けられた獣人もたくさんいる。完全にこの街の信頼を万吉が獲得していたおかげであった。
「それでは、行きましょう」
万吉達はケビル隊長と兵士たちとともに、彼らの街へと向けて出立する。
「そういえば装備返しとくね」
「いいんですか?」
「道中危険ですし、もしなにかしようとしたら、次は容赦しませんから」
「わかりました」
「ワク、周囲の警戒は頼むね」
「ははっ」
「それでは、出発しましょうか」
下山を開始する。街から人間たちの街までは山道がそれなりに整備されている。
商人が行き来できる程度には整備されている。ゴルレ村との間の街道に比べれば土がむき出しだったり崖側への配慮がなかったり、落石対策もないなど粗末なものになっている。
「ここを軍事行動するってのはかなり大変そうだな」
「そうですね、ガージャン殿が居なければもっと下準備が必要でしょうね」
「普通に考えれば魔法使い一人で、もう手も足もでないもんな。
そういえば魔法使いは他に何人ぐらい居るんだ?」
「5名です。筆頭魔法使いのマーギス様、それとワルツ様、メッカチ様、最期がターマン様です」
「魔法使いって魔物と戦ってその、やられたりとかもあるの?」
「はい、非常に強い魔物も存在します。このあたりだと死神の鎌などは魔法使いでも相手をするのは危険と言われています」
「そ、そうなんだ……そういえば街同士は協力関係にあるのかな、それとも結構小競り合い見たいことは起きるの?」
「普通はそんな余裕は無いですね。よほど魔法使いを抱えた大貴族であればそういう事もあるかも知れませんが、表立っての戦いは敵国でもなければ起きません」
「敵国、こんな世界でも人間同士は争うのか……」
「我がサティストン王国はそこまで好戦的ではありませんが、ビールデ帝国やチャガバス王国などは周辺の小国を飲み込んでいっています……我が国も何度か戦火に包まれましたが、辛くも守りきっております」
「どこの国も獣人の地位は低いのか?」
「はい。今挙げた国は全て獣人は人間の下の存在と……常識となっています」
「そうか……」
道すがら聞く話は、万吉にとっては頭の痛い話が多いのであった……
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