第42話 処理と覚悟
「マンキチ殿!」「マンキチ様!」
ワクたちが万吉に駆け寄ってくる。
とにかく、この現状をなんとかしなければいけない。
「街の人の救出を頼む、俺たちはあそこに病院を出す。
それと残った兵士を拘束しよう……」
「わかりました」
とりあえず魔石はポケットに入れてモフモフが応急処置をした街の人を集めておいてくれた場所へと走る。
「もふもふ、現状報告を頼む」
「とりあえず重症者は3名、腹部裂傷、右上腕部分切断、背部広範囲の熱傷。
軽症者はとりあえずその3名の処置後で問題は無いニャ」
「……厳しいな……やるしかない!
もふもふ、病院を頼む!」
街の人達は身を寄せ合い恐怖に震えていた。
しかし、見慣れた建物が現れたことで皆の顔に光が指す。
「まんきち先生だ!」
「まんきち先生が来てくれた!」
「もう大丈夫だ、順番に診るから、もう少しだけ待っていてくれ……!」
それからは動ける街の人間も万吉を手伝う。
万吉は重症者3名の手術に取り掛かる。トリアージを行い処置の順番を決める。
まずは背部広範囲の熱傷から手を付ける。
麻酔で眠らせたら火傷に付着している不純物を綺麗に取り除く、冷却はモフモフがしっかりと行ってくれていた。
「寄せる皮膚もない……ギリギリだろうが、やるしかない」
感染を防ぐために抗生物質の投与、炎症のコントロール、熱傷部位には皮膚被覆材を塗り、非固着性のガーゼを当てて固定する。湿潤療法による2次癒合を図る。
次に腹部裂傷、腹膜まで傷は達していたが、運良く内蔵損傷は免れている。
死ぬほど腹腔内洗浄と創傷部洗浄を施し、ドレーンを設置して傷を閉じて終える。
最期に腕の部分切断。運悪く刺し傷によって動脈を損傷しており、もふもふがクリップによって血行遮断してくれた。(本当は非常に高い技術が要求される処置だが、もふもふは非常に優秀な助手だ)
すでに血管のクリッピング術によって出血はコントロールされている。
「……残す、ために努力をするべきだな」
この世界は前の世界と違う。断脚の価値が重い。
可能であれば、残してあげたい。
「獣神様、どうか、加護を……もふもふ、繋げるぞ」
大型の手術用拡大鏡は無いが、メガネタイプの拡大鏡を準備する。
駄目になってしまった組織を丁寧に取り除き、傷を観察する。
「神経が無事だ……血管の縫合だけで行けるぞ」
結紮してある血管を綺麗に剥離し、対側の血管と吻合する。
髪の毛みたいに細い糸で緻密な作業だ。
「もふもふ、鉗子を少し緩めてくれ」
血流が流れ、万吉が最期の一締めをする。
その後筋肉や皮下組織をつなぎ合わせ傷を閉じていく。
細かな作業には高い集中力を要求される。
万吉たちが重症の症例の治療を終えた頃には、すでに日が傾き始めていた。
「よし、皆、順番に入ってくれ!」
それからも休む暇なくまんきちともふもふは治療を続けていくのであった……
「人間たちを、どうしますかマンキチ様」
町の住人手当を終えると、すでに深夜になっていた。
それでも万吉のやることは終わらない、戦後処理をしなければいけない。
「とりあえず、食事を与えて明日までは捕らえておこう……」
「わかりました、手配します」
「始末しないのですか?」
ワクは冷たい眼差しで提言してくる。
「……すでに、相手にとって重要人物であろう魔法使いを……殺してしまっている」
これ以上、人間側に被害を大きくすると、落とし所がなくなる。
万吉はそう考えた。
「だからこそです、もう、話し合いの余地は残っていないと思います。
魔法使いは、間違いなく貴族付きですから……」
この世界における上流階級である貴族。地方では絶大な力を持っており、目をつけられれば人間社会で生きて行くのが難しくなるほどだ。
それに、ガージャンはこの街を破壊、犠牲にすることに全く躊躇がなかった……
すでに手遅れの可能性が高い。
「マンキチ殿、なにやら人間たちの様子がおかしいのですが……」
食事の手配にあたった獣人が足早に戻ってきた。
「ん? どういうことだ?」
「食事を与えに行ったのですが……とにかく、見てもらえますか?」
「わかった」
「儂もいくニャ」
兵士たちは街の外れにある備蓄庫(中のものは略奪されて運び出されてしまっている)に幽閉していた。万吉たちが入ると異様な光景が広がっていた。
「なんだこれ……?」
「……ああ……ううー……」「うへ……うああ……」「……ぐひっ……ぐすっ……」
ぼんやりと中空を見つめ、うめき声をあげ、万吉たちに一切興味も向けない兵士たち。明らかに様子がおかしい。
「な、なにかしたのか?」
「いえ、ただ装備を没収して縛って幽閉していただけです」
「明らかに精神に異常をきたしているじゃないか……」
演技の可能性も考えながら慎重に近づいて、ペンライトを当ててみても何も反応がなかった。瞳孔反射などは存在するが、随意反射、意思による反応が全くない。
鍛え上げられた成人男性たちが、皆うつろな目で虚空を見つめているさまに、えもいえぬ恐ろしさを万吉は感じていた……
「なにが、起きて……ん?」
万吉は、異常を感じた。
兵士たちではない、自分の体にだ。
「温かい? いや、熱い? あっつ、あああっちいいいいぃぃぃぃ!!」
高温を放つポケットから、ころりと先程の魔石が転げ落ちてきた。
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