第40話 下衆

 万吉はワク達、特に戦える少数精鋭で隣町まで走る。


「戦いになったら、あまり俺やもふもふから離れるなよ、武器が消えるぞ」


「いざとなれば現地で調達します」


「そうだな、それと、魔法に気をつけろよ」


「はい……それは、一番わかっています」


「マンキチ様、あれを!」


 街から煙がいくつも上がっている。

 街へ近づくと悲鳴や戦いの音が聞こえてくる。


「まずは避難を優先だ!」


「わかりました!」


 ゴルレ村側の門は閉ざされていたが、万吉達は壁をかけて上から状況をつかもうとする。


「マンキチ様、あそこに!」


 街の西側にバリケードが組まれ、獣人と人間が戦っている。時折ごうっと炎が上がり、バリケードを焼いている。


「急ぐぞ!」


 万吉は街に降り立ち、防衛地点へとかける。

 ワク達は建物の上を器用に渡って奇襲を狙っている。


「うおおおおおおおっ!!」


 獣人に向かって剣を振り下ろそうとしていた兵士に、万吉のスコップアタックが腹部を覆う鎧にスマッシュヒットする。

 凄まじい衝撃をうけ、兵士は吹き飛ばされる。


「無事か!?」


「ま、マンキチ殿……」


 剣や鎧で武装している人間に比べて、獣人たちは粗末な槍や皮の鎧で対抗している。

 肉体能力の差で補っているが、明らかに劣勢。

 体中傷だらけだ。


「もふもふ、彼をバリケードの中へ、応急処置も頼む」


「わかったニャ」


 もふもふしっぽで獣人を持ち上げてバリケードをぴょんと超えていく。

 半獣人達は上からの奇襲で人間たちを気絶させてくれている。


「殺してしまえば、もう、戻れなくなる。できる限り、殺さずに対応してくれ」


 戦いの前に万吉が伝えた無理なお願いをきちんと守っていた。


「あとは、あいつか!?」


 魔法使い、初めて見るが、兵士たちにガッチリと守られて居る人物が、杖のような物を振るうと空中に陣が浮かび、炎や石つぶてが獣人達を襲っている。

 黒いローブを被っており、背の丈は170ほど、表情はローブでよく見えないが、口元は薄ら笑いを浮かべているように見えた。

 万吉は地面をけってその集団に飛び込んでいく。


「やめろおおおおぉぉぉぉ!!」


「な、何者だ!?」


 迫る剣を避けて、その足元にスコップを滑らせる、足元に差し込んだら思いっきり振り上げる。兵士は回転しながら空を舞っていく。


「なっ!?」


 万吉に攻撃が集中した瞬間、魔法使いの背後にワクが立つ。


「魔法を止めろ、でなければ殺す」


 首元には包丁が当てられる。


「こ、攻撃を止めるんだ……」


 魔法使いの言葉で兵士たちは攻撃を止める。

 ローブがおちると、魔法使いは初老の男、威厳のある眉と冷たい目をしていた。

 髪は白髪の混じった深い紫、印象は、偉そうだ。


「なんのつもりだ、なんの目的があってこの街を攻撃している。

 人間にとっても商売相手だろうが!?」


「……」


「答えねば殺す」


「最近街の地下に居た半獣共が居なくなってな、その補充と、ここのところ流れてくる物が良くなってきていたからそれらも接収しようとしたんじゃ」


「なっ……」


 万吉は衝撃を受けた。

 つまるところ、ワク達を連れ出したこと、それと、万吉達が発展させ、交易を活発にしたことによって、この攻撃を呼び込んでしまったという事になるからだ。


「貴様らは下水に火を放つ、自分たちの都合で殺しておいて、身勝手にも程がある!」


 ワクが怒りの声を上げる。

 ワク達は顔を布で隠しているためにぱっと見は人間に見える。

 街を襲った者たちもワク達の正体には気がついていない。


「ふん、下水共は消毒してもいくらでも湧いて出てくるもんだ。

 ソレが今回に限ってはなぜか出てきやがらなかった」


 ワクの瞳が怒りに燃え、人間たちの始末を懇願していたが、万吉は首を横に振る。


「こんなことをして、ここが滅んだら商売相手が居なくなるだろ?」


「はっ!! 獣人などそこら中にいくらでもいる。次の相手を見つければ良い!

 それよりも貴様らは何だ!? 人間の癖に獣人に肩入れをするだけではなく、この儂に、偉大なる魔法使いたるこのガージャン様にこのような仕打ちを!!」


 ガージャンの足元が光る。魔法が発動した。


「なっ……しまっ」


「とべっ!! ワク!!」


 土の槍がワクの居た場所を貫いていた。

 同時に兵士たちの回りに土の壁がせり出し獣人たちと隔離する。


「カカカ、なるほどなぁ……貴様ら、下水人共か!!

 どうやったか知らんが、紋を消したか……

 身の程知らず共が、自分たちの立場を教えてやる!!」


 土やりはワクの顔を隠す布を切り裂いた、ギリギリモフモフがワクの身体を引きずり倒し、命は助かった。

 ガージャンの背後に大量の火球が現れ、俺たちに襲いかかる。


「くそっ、後ろには街の皆が!!」


 ソレも狙った魔法だ。万吉が避ければ背後の獣人達は丸焦げになる。


「舐めるなっ!!」


「はっ! 馬鹿が、貴様から消し炭にしてやる!」


 万吉はスコップを持って火球に向き合う。ガージャンは火に飲み込まれる姿を想像したが、実際には火球はスコップによって打ち返され、火球同士がぶつかりあって空中で爆発した。


「ワク! 街の人を離れさせろ! コイツの相手は俺がやる!」


「貴様!! 何をした!? まさか、貴様も魔法使いか!?」


「魔法なんて使えないね! 俺は獣医師だ!」


「ジューイシ? 何を分けのわからんことを、死ねー!!」


 ガージャンが地面に手を振るうと大量の槍が万吉に向かって伸びていく。


「おんどりゃぁ!!」


 バギャーン! スコップを横殴りに土の槍を粉砕していく。


「馬鹿な、魔法を普通の武器で破壊できるはずが……まさか、魔武具!?

 こんなど田舎にそんな高級なものが!?」


「何言ってるんだ、これは、スコップだぜ!!」


 万吉が一気にガージャンとの距離を詰める。

 初めての魔法使い戦の開幕だ。

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