第39話 開発と恋愛事情
新人の半獣人達が参入したことは村に革命をもたらした。
人間と獣人の良いとこ取りな人材はあらゆることをいい方向に変化させた。
今まで学習らしいことを受けてこなかったが、まるでスポンジが水を吸うように知識を得て、すぐにそれを形にしていく。
万吉の持つ本も文字の習得から始めているが、とにかく学べる事に喜びを得ていた。
その姿を見て、日本語を翻訳する獣人も出始めた。
万吉ともふもふは加護によってどんな言語も読むことが出来るので、その作業を手伝っている。
医学書や辞書、娯楽としての小説やラノベなども後々翻訳され出版されていく。
地球の知識と、この世界の知識利用可能なものはどんどん利用していく。
開発や診療に日々忙しく過ごしていると、万吉の予想通り、余裕のある生活は人々の心に愛を産み、そして家族を築いて子を成していく。
獣人と結ばれる半獣人の方や、獣人同士で恋に落ちる方、いろいろな人がいる中で、万吉は今日ももふもふと晩酌を交わす。
「村中でハートが飛んでいて居場所がない」
「どんまいニャ」
「良いことなんだけどさ」
「アプローチ受けてるじゃニャいか?」
「ありがたいことにな……だがな、患者に手を出すというのは脳みその理解が追いつかない」
「飼い主様と獣医師が付き合うこともあるんじゃないかニャ?」
「飼い主様ならな、患者だぞ? なんか、バグるんだ」
「正直獣人に対する感情としてはどうなんだニャ?」
「半獣人の方々は、多少の揺らぎを感じなくもないが、どうしても、かわいい。という絶対的な感情が先に立つな」
万吉は獣人たちにおちょくられることに少しづつ慣れてきていた。中には本当に女性として万吉に惹かれているものも居たんだが、今のところ万吉側はこの調子で梨の礫だ。獣人達は基本的にあきらめムードになっている。
それでも万吉になでなでしてもらったり、なによりシャンプーをしてもらうのは大人気だ。基本的に万吉は治療として必要ならシャンプーをするが、それ以外は自分で洗ってほしいという方針なので、一時期はわざと皮膚病になろうとした獣人が現れ、本気で起こる万吉の迫力におしっこをちびっていた。それ以来その方法を取る獣人はいなくなり、健康で居ることを目指している。そのほうが万吉は褒めてくれるからだ。
「マンキチ先生ちゃんと歯を磨いたよ!」
「おう、偉いぞ! 歯は大事だからなー、将来のためにも毎日きちんと磨くんだぞ!」
「先生が処置してくれてうちの旦那の口臭もすっかり良くなって……この子の弟か妹ももうすぐ……」
少し目立ってきたお腹を愛おしそうに撫でる。
「きちんとバランスよく食事を摂るんだぞ、母ちゃんを守ってやれよ!」
「任せといてよ!」
万吉の健康診断や定期検診によって村人たちの健康状態は著しく向上している。
このまま放置しておけば深刻な問題になった疾患もいち早く発見し、早めに対応することで患者の体力のあるうちに処置ができたり、病気の芽を摘み取ることで病気にさせない健康管理という、この世界においてまだそこまでの余裕のある医療を提供できるのは万吉だけだが、病気の早期発見早期治療を万吉は旗印にしている。
それと山に暮らす獣人たちにとって寄生虫による疾患も多く存在していた。
ありがたいことに動物病院の予防薬でも効果が認められたので、村人は月に一度投薬、もしくは滴下で予防を行っている。
謎の病気とされていたいくつかの病気は寄生虫系の病気で、ウイルスには未知のものが存在してそうだが、交差免疫での免疫獲得の可能性を考えて混合ワクチンの接種、それと野生生物や魔獣が居ることを考え狂犬病の予防接種も行っている。
獣医師は動物のお医者さん、というイメージが強いが、実際には人間の公衆衛生のために働いている人もたくさんいる。そういった知識から村の公衆衛生にもどんどんと踏み込んでいる。街にあった下水道のような大規模な設備は魔法がないために難しいが、それでも上下水道の設置は迅速に広まっている。
水の利用時は濾過+煮沸を徹底したり、手洗いうがいの推奨、細菌・ウイルスなどの目に見えない存在の周知などを通して村人たちの生活を改善させていく。
食肉の扱いについても指導を徹底している。結果として緊急時でもなければ加熱調理をせずに食肉を口にすることはなくなった。干し肉や燻製など保存の方法も取り入れて食材事情の安定に勤めている。
山や裾に広がる森は広大で、基本的に狩りの対象は多い。
果実やきのこ、食料もいくつもある。
さらには農業や畜産、様々な方法を取り入れて村は発展していく。
安定して大きくなっていく村の評判は広がり、周囲で苦しい生活をしていた集団が合流して、さらに村は大きくなる。
急速な村の発展で問題が起きることもあるが、万吉をトップとした半獣人を中心にした自警団が治安維持に勤めている。安定した生活基盤、適切な栄養、適切な休養、そして万吉とのトレーニングを通して獣人も本来秘めている力を開花させていったが、半獣人達のソレは獣人を凌駕していた。
結果として、獣人達も半獣達を見直して、今では先入観なく受け入れるようになっていた。
このまま穏やかに村の発展を見守りながら、生活していくこと万吉は願っていたが、トラブルは向こうからやってきた。
交易拠点だった獣人の街、隣町が人間による侵攻を受けるという急報がもたらされたのだった……
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