第38話 歓迎会

 見事に解体され骨格標本のように宴の中心に飾られた死神の鎌。

 その周囲には様々な方法で調理された蛇の料理が並んでいる。


「うっわ、うまっ!!」


「なんだこれ、とろける!」


「いや、こっちは凄い歯ごたえで溢れ出る肉汁が!」


 調理方法で様々な姿に変わる蛇肉は大好評だ。

 沸騰した湯に入れれば弾力ある触感になり。

 水から茹でるとふわっと柔らかくなり。

 火にかければぎゅむっとした歯ごたえと弾ける肉汁。

 蒸すとホロホロと崩れるほどの柔らかさに変わる。

 流石に生では食べていないが、輝く肉に刺し身にして食べたいと日本人である万吉は思ってしまったが、獣医師として様々な病気を理解しているので止めておいたし、獣人たちにも止めさせた。

 それでもそれら調理法を組み合わせれば無限の可能性を秘めたスーパー食材になる。

 味のクセもないために、味付け次第でもどんな料理にもなるというまさに万能な肉。

 全ての村人にたっぷり振る舞ってもまだまだストックは残っている。


「今ならワクたちに手伝ってもらって楽に戦えるから、もう二、三匹狩りたいな」


「ははは、マンキチ様もご冗談が上手い……冗談ですよね?」


「いや、人数いればもっと楽に倒せたと思う」


 この人は本気だ。いつか、戦わされる。ワク達は覚悟した。


「くはーーーーウメェ!! キンッキンに冷えてやがる!」


 飲酒が可能な獣人はビールの旨さに酔いしれている。

 純獣人達は羨ましそうにしているが、もふもふ動物病院のウォーターサーバーの水は彼らにとって至高の美味しさなので、不満は生まれなかった。

 実は、純獣人達ももふもふ動物病院製の何らかの物を体内に取り込むことで、人間と同等の雑食性を手に入れ、中毒物質を克服していたのだが、しばらくしてもふもふが天啓を受けるまで万吉達は中毒物質などを接種しないように指導してた。

 人間の雑食性は動物からすればかなり異常だ。

 その御蔭で様々な物から生きていくための糧を得られる。

 その変化は獣人にとっては非常にありがたいことだった。

 食用可能なもんが増えることは単純に食糧問題が軽くなることを意味する。

 この食性と仕組の変化は、もふもふ動物病院製品の一部流通や、神気を帯びた作物などを通してゆっくりと世界へと広がっていくのだった。


 これから出てくる様々な動物種の獣人、中毒や禁忌を全部調べて物語を作ることが困難を極めるためにご都合主義を打ち込むために神の名を借りたわけではない。決して無い。本当だぞ。


「ん? なんか今神様の気配を感じたニャ」


「きっとこの光景に喜んでくれているんだよ」


「きっとそうニャ」


 獣人が手を取り合い踊っている。

 万吉も輪に加わる。

 人形獣人の女性が万吉をからかっていて、それを皆が笑っている。

 獣神が見たかった光景がこの村にあふれていた。


 翌朝早朝から新生ゴルレ村は活動を再開する。


「病院の酒は翌日に残らなくていいな」


「飲みすぎる万吉にピッタリニャ」


「おはようございますマンキチ殿」


「マンキチ様、どうぞ我らの力をお使い下さい!」


「そ、そんなにかしこまらなくてもいいけど、今日は皆の家を作りましょう!」


「ハハッ!」


 万吉達は間伐エリアを少し拡大して木材を確保していく。

 半獣達の力を借りることで、作業はさらに効率化していく。

 村の囲いを延伸し農業畜産エリアも拡充、人口増加に耐えられるように村を広げていく。今まで自分たちの腰を落ち着ける家など持ったことがなかった半獣達は、自分たちの家を作る作業が楽しくて仕方がないようで、万吉が止めないといつまでも作業を続けてしまうほどだった。そして獣人よりも半獣のほうが手先は器用で、病院の道具を上手く使って万吉以上に繊細な作業を行う者もいた。

 村に複雑な蝶番などを使った建築が広まっていく。


「こんなに有能な人材を下水に置いておくなんて、バカなんじゃないか?」


 あまりにも半獣人達が出来すぎるので、素直な感想が浮かぶ。


「人間だって、どう考えたって友好関係を築いたほうがメリットが大きいだろ。魔法で対等以上に戦えるなら余計に……」


「なんか、おかしいニャ」


 丸一日診療や土木作業を終えて日が暮れた後は病院でゆったりと過ごす。

 すでに増えた獣人の分も家が完成している。

 翌日は隣町に生活用具の買い出しに行く予定だ。

 死神の鎌の鱗で村全体の道具を買い込む予定で、輸送用の荷車も完成している。

 いずれは家畜を手に入れて馬車も運用したいと考えている。

 もう少し道を整備しないと大型の馬車は難しいとは万吉も考えていた。


「人口って大事なんだなぁ……」


「発展の速度が段違いだニャ」


 人が多くなればそれだけ動かせる力も多くなり、単純に開発力が増える。

 非常に頼もしい半獣人達が加わったことで、村の規模に会わないほどの開発力を手に入れていた。

 生活に四苦八苦している場合はこんなにも効率的にその力を利用できないが、今は完全に余裕がある。


「ここで少し頑張って開発しておいて、更に余裕を作っていかないといけないな……

 暫く落ち着けば当然出産ラッシュも起きるだろうし」


「子は宝ニャ」


「同時に弱い存在でもある。きちんと守れる仕組みを今から考えていこう」


 冷静に未来のことを考えながら、夜は更けていくのであった……










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