第37話 美しい世界
「出るぞ」
地平線が薄っすらと輝き出す。
早朝の清廉な空気は鋭く肌をさすが、それを忘れさせるような光景が刻一刻と変化しながら皆の前に現れていく。
朱色から黄金色に変化していく眼下の草原、太陽に照らされあらわになる山肌、雲ひとつ無い青空に太陽がゆっくりとその輝きを委ねていく。
「凄い……」
「綺麗……」
目の前に広がる世界は、これほど美しい。
万吉はそれを獣人たちに見せたかった。
「君たちが生きる世界、それを見てほしかった」
万吉の言葉に涙する獣人も居た。
また、明日も朝日は昇り、世界は美しい。
獣人達はその光景にしばし釘付けになった。
「さて、温かいスープと温めたご飯、心を満たしたら腹を満たすニャ!」
いつのまにか冷えていた身体にぽかぽかの食事が染み渡る。
山での食事は、何故か美味しい。
人と食べる食事は、何故か楽しい。
獣人達は、今、一生懸命に人生を取り戻しているのだった。
「よし、もう少しでゴルレ村だ。油断せず怪我なく進もう!」
幾度かの魔獣との戦いや野獣との戦いで獣人達の戦闘力を万吉は理解していた。
また、模擬戦の形である程度本気でやりあってみて、個の力では万吉が圧倒するが、集団になると万吉でもかなり手こずるほどの戦闘力を持っていることも知った。
その場にあるものを何でも武器として戦ってきた経験で、どんな武器(武器っぽいもの)も器用に使いこなして戦うことが出来るために、攻撃に幅があり、なにより食事と環境が良くなり本来の獣人の能力を遺憾なく発揮できるようになり、その筋力、俊敏性、反射神経などは普通の人間を遥かに凌駕している。
平地での戦いなら万吉もある程度余裕を持って戦えるが、森など立体的な戦闘が可能な場所だと、必死になる。それほどの能力を有していた。
万吉は、魔獣とも戦え、そして、獣でないものとも戦える強力な戦力を手に入れたことに気がついていた。
暫く尾根を進むと、ようやく村が視界に入ってきた。
まだお互いに米粒のような状態だが、万吉が見張りに手を振っていると、存在に気が付き、すぐに村の門が開き多くの獣人が万吉を迎えに来た。
すぐに万吉と共に歩く存在に気が付き、多少の警戒心とともに万吉と再開を果たした。
「おかえりなさいませマンキチ殿」
ゲインが代表してマンキチの手を取り嬉しそうにブンブンと振り回す。
しっぽもグルングルンと回っており、万吉はかわいくて仕方ないと思う。
「ところで、後ろの方々は……」
「街で仲間になった。皆、思うところもあるかもしれないが、俺は彼らを迎え入れたいと考えている。どうしても無理なら、近くで新たな集落を作ることを許して欲しい」
「……マンキチ殿、我々はマンキチ殿ともふもふ様の友人に手を差し伸べないほど狭量じゃありませんよ、ようこそゴルレ村へ、私はゲインです。村で困ったことがあれば私に相談して下さい」
ゲインが先頭に居たワクに手を差し出す。
「ワクだ。マンキチ殿に命を救われた。村のために協力することを誓う。
これからよろしく頼む」
がっちりと手を取り合う。
村人たちから拍手が起こる。
「よし、今日はごちそうにしよう! とっておきを出すぞ」
「ついにアレをだすのニャ!?」
「今日出さないでいつ出す!」
実は、あの大蛇、死神の鎌。あの肉が絶品だった。
蛇は食べられたよな? と試してみたら、そりゃーもう例えようのない旨さだった。
村に入り病院を設置し、ガレージをあけて死神の鎌を皆にお披露目する。
「こ、これをマンキチ殿がお一人で!?」
「SSクラスの魔獣だろう……」
「この鱗一枚で家が立ちそうだな」
「ワク、皆で鱗とか剥がして枝肉にしてもらえるか?」
「はい喜んで」
ようやくこの蛇をきちんと解体できる。
病院内に置いてあったために瘴気も消え、浄化されており腐敗もない。
万吉は気がついていなかったが、鱗や骨などの素材も元の魔獣の素材よりも一段階存在進化していた。この時得られた大量の素材を元に、ゴルレ村の様々な道具がグレードアップしていくことになる。
「それとマンキチ殿、周囲の小さな集落から移住希望者が多く出ており、無断で申し訳なかったのですが、街の外に借りの場所を作っております」
「おー、だったら明日からはまた拡張工事の日々だな」
「ありがとうございます。それと、街は……人間はどうでした?」
「うん……、色んな話は飲みながらでも話そうか」
「わかりました」
それからもふもふを中心に宴会の準備が進んでいく。
新たな村人たちも大蛇を見事に捌く手腕に村人から歓声が上がる。
移住してきた村人は一通り万吉による診察を受け、適切な処置や治療を行われていく。
すべての準備が終わる頃には、半獣人、獣人、そして人間である万吉の間を阻む垣根はすっかり取り除かれていたのだった。
そして、宴が始まる。
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