第35話 ばっちり和解

 万吉ともふもふがトレーニング兼周囲の把握から戻ってくると、ざざざっと獣人たちが土下座で迎えた。


「数々のご無礼大変失礼いたしましたもふもふ様!」


「獣神様の御使様!!」


「獣神!」「獣神!」「獣神!」


「お、落ち着いて下さい、皆様……」


「静かにするニャ!」


 もふもふの一声で場は水を打ったように静かになる。


「皆が元気になってよかったニャ、ただ、まだ病を抱えているものも多いニャ。

 これからは万吉の言うことをきちっと聞いて、診察を受けるニャ」


「ははぁ……もふもふ様のお言葉に従います……」


「ふむ、儂も万吉もあまり形式張った関係を好かんニャ、楽にすることを望むニャ」


「仰せのままに」


「は、ははは、まぁ、よろしく」


 それから万吉達は獣人達を診察していく。劣悪な環境で生活をしていた獣人たちには病気を持つものも多く居た。神域で食事をして睡眠を取っただけで、かなり回復しているものも居た。

 何名かの持続治療が必要な者には薬を与えていく。


「えっと、ハーフ獣人さんと獣人さんで食べられるものが変わるので、申告をお願いします」


「……仕方がないですよね、ハーフにまともな食事が与えられるわけではない……」


「いやいや、そういうことじゃなくて、獣人が食べられないものでもハーフなら食べられるから選択肢が増えるよ?」


「と、言いますと?」


「生粋の獣人はこっちのフードを食べてもらうんだけど、ハーフなら俺と一緒の食べるから今作るために人数を知りたいなーって」


「ま、マンキチ殿と同じものをいただけるのですか!?」


「そ、そんなに凄いものは作れないよ、スクランブルエッグとトーストとソーセージと野菜スープとかそんなもんだよ……和食が良い?」


「ワショク? いやいや、そ、そんなごちそう、我々が食べて良いんですか!?」


「昨日は時間がなかったから皆フード食べてもらったけど、せっかくなら一緒に食べようかなと?」


「マンキチ殿は本当に人間なのですか? 嫌悪感とかは……?」


「全然。なんか、ファンタジーだなーって……あとその、じょ、女性はもう少し恥じらいを持って欲しいなって……」


 万吉は耳まで真っ赤にして、暗に人間に近い獣人の特にメス、つまり女性にはもっとちゃんといろいろなものを隠してほしいと提案した。

 その提案に、獣人達は……


「ぶふっ……はーーーーーはっはっはっは!!」


 大爆笑だった。


「に、人間が私達に恥じらうとかっ!」


「本当にマンキチ殿は変わっていらっしゃる!!」


 この一件で、ぐっと万吉と獣人の距離は近づいた。

 やはり、下ネタは人の距離感を縮めるのだ(そんなことはない)


「マンキチ先生は私の体に異性を感じるの?」


 万吉が困ったこととしては、獣人の一部の女性が冷やかしてくることだった。

 彼女らからしたら女性扱い、しかもかなり丁寧に、扱ってくれる万吉が本当に異質であり、その反応が楽しいし、自らの価値を高めてくれている。当ててんのよ、チラリズム、いろんな方法で万吉をからかうと同時に、様々な自信を取り戻していた。

 これは全ての獣人に言えた。万吉がきちんと生命として向き合ってくれる姿、それと安心で清潔で美味しい生活で、様々な物を急速に得ているような感覚になっていた。


「焼き討ち後は下水を狩り場にする奴らも出るから、暫くはここに籠もることになるんですが、こんなにも快適に過ごせたことはありませんでした」


「うん? これ、俺はどういう扱いになるんだろう?」


「運悪く焼き討ちに巻き込まれた不幸な冒険者として処理されていると思います」


「結構酷いな……」


「冒険者なんてそんなもんですから、なので我々なんて……」


「万吉殿と過ごした日々が夢のようです……」


 獣人達の顔に影が落ちる。

 万吉達はずっと居るわけではない、万吉たちが去れば元の生活に戻ることになる。

 一度知ってしまった幸せが、今度は日常を不幸なものへと変えてしまう……


「もう皆を縛る紋は消えたんだニャ、好きな場所へと行けばいいニャ」


「我々を受け入れてくれる場所なんて、この世にはありませんよ……」


「外の世界で人間に見つかれば殺されるか道具にされます。獣人だって私達を匿えば酷い目に遇うから叩き出されます……」


「皆の能力なら森とかで獲物を得たりして生きられそうだけど……?」


「自信が、無いのです。この地でゴミを漁り生きてきた我々が外に放り出されてどうなるか、怖いのです。それならばこの地で生きていくだけなら今まで通り……」


「それに、人間の魔法は、いくら力が強くても、意味がありませんから」


「魔法、か……」


 魔紋もそうだが、人間が使う魔法は獣人にとっては天敵らしい。

 まだお目にかかっていないが、たしかにあの魔法で作られた炎、あんな物があっては武力どうこうでどうにか出来るものではないかもしれない。

 長年、何世代にも渡って埋め込まれた意識、その根本の変革にはまだまだ時間を必要としていた。

 この地にいる獣人には、自信が必要なのだろう。自分たちが生きていても良いという自信が……万吉は、そんな現状に我慢ができなかった。


「みんな、俺の街に来るか?」





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