第28話 ばっちり仕事

「ルーク!!」


 ソフィアの声にルークのしっぽがブンブンと振られ万吉の顔にベシベシと当たる。

 明らかに状態の良くなったルークの様子にソフィアは喜びを隠さずに飛び回っている。


「信じられん、この僅かな時間で何をしたんだ? 薬師に見せても、医者にまで診させたんだぞ!」


「動物と人間は違いますから。私は人間は治せません」


「ありがとうマンキチ!! みてパパ! ルークが歩いてる!」


 ルークはしっぽを嬉しそうにブンブンと振りながらソフィアの後をゆっくりと着いていく。


「ソフィア、まだルークはゆっくりと休む必要があるから一緒にゆったりと過ごしてあげてね。それと食事はこれを少量づつ細かくあげるようにしてあげてね。

 それとこれを一日二回朝がこっちの青い色の袋、夜がこっちの袋、ルークを元気にしてくれるお薬だからきちんと飲ませてね。出来るかな?」


「もちろんよ!! 私がんばるわ!」


「それじゃあ、明日からお薬を頼むよ」


「ええ!! 本当にありがとうマンキチ!! ルーク!! 大好き!!」


 ベッドに横になったルークの首を優しく抱きしめるソフィア。それを優しい目で見つめる主人。


「ありがとうマンキチ。俺の名前はバル。バル商会というところの頭をやっている。

 ソフィアの笑顔を取り戻してくれたことを感謝する」


 バルはマンキチに手を差し伸べる。

 万吉はその手を力強く握る。


「俺もルークが元気になってくれて嬉しいよ。それとバルさん、少しあちらでなにをしたのかを話したいんですが」


「バルでいい、わかった。ソフィア、パパはマンキチと仕事の話をしてるからここでいい子にしているんだよ」


「ええ! ルークと大人しくいい子で待ってるわ!」


「わふっ」


 ご令嬢の警護はお任せを。と言った感じでルークが小さく吠えて答える。

 マンキチとバルは隣の部屋に入る。

 応接間のようで落ち着いているが仕立ての良いものだと万吉の目でも理解できた。


「座ってくれ……しかし、肩に動物を乗せた変人が来た時は冒険者ギルドを潰そうかと思ったが、あらためてありがとうマンキチ、ソフィアも喜んでいるし、その、ルークも元気なってくれて良かった」


「それでですね、ルークちゃんの病気の原因と治療についてお話します。

 たぶん、かなり驚かれると思いますが……」


 万吉は丁寧にわかりやすく病状の説明とその治療法を話す。

 バルは途中から目の前の大男はやはりホラ吹きなのではないかと思ったりもしたが、緻密で繊細な説明で少しづつきちんと耳を傾けていった。


「……驚いたな、腹を開けるのか……いや、医者でもそういった方法があるとは聞いたことがあるが、動物に……マンキチ、お前は何者なんだ?」


「口外しないで頂きたいのですが、私は職業として動物を治療する獣医師というものを持っています」


「ああ! なんだ、職業か、それなら納得した。なんだ、先に言ってくれよ。職業ならば理解した。神が与えた叡智と技術がマンキチにはあるのだな。しかし、動物を癒やすか……もしよければ私の知り合いには動物を飼っている人間もいる、紹介しようか?」


「いえ、あまり長く街にいるわけでもないので、あ、もし急ぐならギルドに依頼を出していただければ対応します」


「そうか、冒険者だもんな、少し使い所は難しい職業だが……」


「まあでも今回ルークを治せたことは良かったと思っています」


 バルは立ち上がり戸棚から革袋を取り出し、別の袋に硬貨を詰めていく。


「そうだな。幸運だった。これが報酬だ。治療の内容を聞いて増額してある。

 遠慮せず受け取ってくれ」


「かなり多い気がするけど」


「感謝の気持だと思ってくれ」


「わかった。ありがたく……ところで今鐘がなったか?」


「ああ、7つだな」


「おお、そろそろ急がないと。友人と約束しているのでこれで失礼いたします」


「そうだったか、引き止めて悪かった。マンキチ、なにか困ったことがあったらバル紹介でその袋を見せると良い」


「ありがとうございます。ソフィアちゃんとルークによろしく。

 数日はこの街にいるので、ルークに何かあればギルドへお願いします」


「わかった。今日は助かった。ありがとう」


 再び握手を交わし、ソフィアに挨拶をして万吉は家を後にした。


「……なんか、普通の人だったな。今のところ、残虐非道な人間像には結びつくことがなくて……その、肩透かしだ」


「動物を飼育するということもわかったニャー、やっぱり自分の目でみないと真実はわからんニャ」


「とにかく、ナッソーのところへ行くか。鐘8つまで後少しだろう。正直道も自信がない」


「全く……、誘導してやるニャ」


「すまない」


 万吉は、方向音痴のきらいがあった。

 初めての街で似たような建築が続くこの街を目的地まで行くのは、方向音痴を置いておいても少し難しいのだが、もふもふはすでに通った場所は全て把握している。

 適切な指示でメインストリートへと戻り、無事にギルドまでもどってくることが出来た。ギルドにて依頼の達成を報告し、お店にたどり着く頃、街に8つの鐘の音が響くのであった。








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