第24話 とうとう到着

 万吉は最高に優雅な朝を迎えた。

 ガレージの蛇の巨体が思ったより巨大で少し寝ぼけていて焦ったが、いつも通りトレーニングを終えた。

 朝食は簡単にハムとチーズのホットサンドを作る。手軽で最高にうまい万吉のお気に入りだ。バターをこれでもかと外に塗りたくってから焼くのが万吉のこだわりだ。

 食事を終えたら、ガレージで鱗を少し剥ぎ取って荷物にしまう。

 万吉はよく考えれば文無しなので、これをお金に変えられる可能性があるかもともふもふが提案した。

 二人の話し合いの結果、死神の鎌こと蛇の魔物から死ぬ気で逃げ切ったことにして、現場に戻って拾ったということにしておくことになった。

 そのためにわざわざ戦いでボロボロになった服を洗濯してまた着ている。

 実際に旅をしてみて必要なものをいくつか荷物に増やしておく。

 準備を終えたら病院を収納し、道を進んでいく。


 街道を伺いながら暫く飛ばしていると、ついに都市が視界に入ってきた。

 城壁と門によって守られた周囲に家が立ち並んでいる。

 城壁は石組みのしっかりとした物で、実際に見てみるとかなりの迫力がある。

 家屋は木製だったり石組みだったり統一感がない。なんというか、乱雑に建物が並んでいる印象を受けていた。それらの家屋は木で組んだ柵によって囲われていて、そのさらに外側にはテントのような物が張られている。


「さて、どうなるかな……」


「危なかったらすぐ逃げるニャ」


「わかってる」


 万吉達は街道に出て、慎重に街へと近づいていくことにした。

 街道はいったん大きく迂回して小さな川を超える橋につながる。

 この小川から水路が街の方へと伸びていっている。

 どうやら生活用水を取り込む水路のようだ。

 水路には柵が設けられていてその柵の側にもテントが集まっている。

 街道をあるく万吉達にテントの中から視線を寄せている存在がいることを感じていた。


「見られてるニャ」


「ああ、あんまり良い視線じゃないな」


 ねっとりとへばりつくように見られている。そして、ふっとその視線が消える。


「まぁ、こんなボロボロじゃあな」


 あまり、質のいい人が住んでいるようには思えないテントの並び。

 ここで通りがかる人間を値踏みしているのだろう。


「止まれ! ここになんのようだ?」


「辺境の小さな村で育ったが人減らしで外でも生きていける俺が追い出された」


 以前は【職業】を理由にしたけど、よく考えると確かめられた時に【職業】がなかった時に問題になるだろうということになり、こういうストーリーにすることにした。


「壁の中に入るなら2000アニマだ」


「申し訳ないが手持ちがない、これを金に変えられるところを知らないか?」


 荷物から死神の鎌の鱗を数枚取り出す。


「……!? これは、死神の鎌の鱗か!?」


「ああ、襲われて酷い目にあったが、必死に逃げ回って後に拾い集めた」


「お前、運がいいんだな……アイツに出会って、しかも襲われて逃げられたものなんてほとんどいないのに……ん? もしかしてナッソーが言っていたヤツか?

 お前、名前は?」


「マンキチだ」


「マンキチ、そのへんな名前だ! ちょっと待ってろ、上手く行けば通過税払わなくて済むぞ!」


 それから衛兵はもうひとりに声をかけて街の中へと走っていった。

 そしてしばらくすると、見知った顔と一緒に戻ってきた。


「マンキチ!! 生きていたか!! お前ならもしかしたらと思っていたが!!」


 ナッソーが抱きついてきた。


「全く、死ぬとこだったぞ」


「すまん!! いや、本当に生きててよかった! ボル! これっ」


 ナッソーが小さな袋を衛兵に投げつける。


「ようこそカーローへ! 歓迎するぜマンキチ!!」


 まるで自分の手柄のように誇ろしげに街へと誘う。その屈託のない笑顔に万吉はすでに囮に使われていたことをどうにか思う気持ちは消え去っていた。


 門の内部は外と違ってきちんとした区画整備がされているようだった。立ち並ぶ建物は揃いの石と木材、漆喰を利用した整った物が並んでおり、道も石が轢かれあるきやすくなっている。何より、人々が多く、そしてへばりつくような視線もなく皆自分の人生を見ている。


「それにしてもボロボロだな、このままだと目をつけられちまうな」


「これが金になるなら服屋を紹介して欲しいが」


「これは、鱗か! 死神の鎌!! いや、ほんと、重ね重ねすまんな!

 ……まさか倒したのか?」


「いやいやいや、必死逃げて、後でコソコソ拾い集めたんだ。金になりそうな匂いがしたからな」


「こんなに鱗が剥げるなんて何があったんだ?」


「逃げる途中で石とか木にガンガンぶつかっていたからな」


「ああ、そうすりゃ少しは落ちるか。しかし、何枚あるんだ?」


「10枚くらいは拾ったぞ」


「すげっ! なんだよ、もう俺より金持ちじゃねーか……あんまり見せびらかすなよ、特に門の外や裏道では」


 それからナッソーは魔物素材の買取屋と服屋を紹介してくれた。

 それから安くてうまい酒屋と宿屋、それと……


「ここが冒険者ギルドだ。ここで【職業】も」


「しーーっ、ナッソー、俺は職業は伏せておくことにした。

 珍しいんだろ? 俺は静かに生きていければそれで良いんだ」


「……なるほどな、つまりマンキチはその腕っぷしで生きていくことにしたんだな」


 どんどんと背中を叩かれる。


「まぁ、流れ者は冒険者登録がお約束だ。身分証にもなる。俺も持ってる。

 本当に冒険者として生きるか、俺みたいに衛兵になって貴族に使われる行き方をするかは自由だからな!」


「悪いな、常識知らずだから助かる。金のことも」


「ああ、そうだ登録を終えたらさっきの店に鐘が8つなったら集まろうぜ!

 命の恩人に飯ぐらい奢らなければナッソー様の名がすたるってもんだ!」


 ちょうどその時鐘が4つ鳴り響いた。


「おっと、流石に戻らねーとな、ってことでまた後でな!!」


「ああ、鐘が8つだな」


 ブンブンと手を振りながらナッソーは街の喧騒に消えていった。


『騒がしい男ニャ』


『だけど、悪いやつじゃないな』


 小声でもふもふと会話する。首に巻き付くようにしているので耳元の会話は周囲に聞こえないように話すことが可能だ。


 万吉は、冒険者ギルドの扉を押した。


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