第23話 どっぷり集中

 独特の揺れで初動を隠す蛇に対して、万吉は毒という最大限の武器を回避する事に成功した。ごく短時間での再び毒攻撃は考えにくい、ただ、直接毒牙を喰らうのは危険だ。

 慎重に、でも、少し大胆に万吉は戦いのペースをつかもうとする。


「斬りつけるより、こっちだ!!」


 スコップの腹で迫る蛇の肉体をカウンター気味にぶっ叩く。

 タイヤのように分厚い筋肉でも、質量攻撃による打撃はダメージを負う。


 バガァン!!


 派手な音がするたびに蛇は身をよじらせている。

 尾の先は何度か万吉にぶん殴られ、明らかに攻撃頻度が下がった。


「そろそろ、柔らかくなってきたか!?」


 バァンと弾き飛ばし、動きが鈍ったところへスコップを返し、斬撃を力いっぱい振り抜いていく。


 ギャリンぶちゅ


 金属音が響いた後に嫌な音がする。蛇の腹は崩れた肉を切りつけられパックリと傷が開いた。


「シャアアアアカカカカカカカカっ!!」


 けたたましい警戒音と同時に蛇が万吉との距離を取ろうとする。


「させるかよっ!!」


 ダッシュで距離を詰め、スコップを身体に突き刺す。散々叩かれぼろぼろになった肉体に深々とスコップが突き刺さる。少し捻れば強靭な革に引っかかりそうそう抜けることは無い。


「ぬううううううぅぅぅぅおおおおおおおおりゃあああああ!!」


 そのまま巨体と綱引きをして、力付くで引き上げ地面に叩きつける。


 ズガンズガンと振り回され、大地に叩きつけられる。身体的に頭部の受け身も取れないので何度も頭部を大地に打ち付けられ、クラクラと動きが鈍くなる。


「ようやく捕まえたぞ……っ」


 ふらついている頭部に一気に肉薄する。

 その瞬間、


 びゅっ!!


 毒液が浴びせかけられる。


「読んでたよ」


 素早く横に回り込み背後からスコップを使って首を締め上げる。

 蛇は叩きつけられふらつく頭で必死に自分に取り付く万吉に攻撃を加えてくる。


「うおおおおおっ!!」


 万吉は敵の攻撃を蹴りで迎撃しながら、スコップを持つ腕に力を入れあげていく。


「ガッ、ゲッ、がッ!!」


「ふんんんんぬうううううぅぅぅぅぅ!!」


 ぎしっめしっと蛇の首が音を上げてスコップの柄がめり込んでいく。

 蛇は全身をばたつかせ、万吉を振り払おうとするが、大地に根を張っているかのように万吉の身体は動かない……


 みしみしみし


 肉が潰され、骨が軋む。


「うおおおおおおおおおおおっ!!!」


 ベキンっ!!


 首の骨が折れた音がする。

 それでも万吉は力を緩めない、首が折れてなお身体は一瞬より激しく暴れる。

 そして、その動きは段々と弱々しくなって、ついには停止した。

 それから万吉は素早く締めていたスコップを外し、額に輝く魔石を剥ぎ取った。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


「強敵だったニャ」


「やっぱり、蛇は……苦手だな」


「よく言うにゃ」


「ははははは……」


 そのまま万吉は地面に大の字で暫く身体を休めるのだった。


「万吉、そろそろ起きるニャ。日が傾き始めたニャ」


「あ、ああ……ごめん、寝てたか。気持ちよくて」


 天気はよく、よく動いた後に心地よい風が万吉を眠りに誘った。

 そのとなりには巨大な蛇の死体があるのだが、万吉は気にせず眠りについていた。


「街の方角はもうわかったから、今日は少し街道から外れて家で寝られないかな、ちょっと良さそうなところを探してみるか」


 それから万吉達は都合のいい場所を探す。

 街道から目視されない目立たない場所。

 暫く探すと丘陵を見つけその一面がいい感じで崖上になっていた。

 周囲の木をスコップで根っこごと掘り起こして左右からの視界を防ぎ、そこに病院を呼び出した。崖に鬱蒼とした木々が集まってるように外からは見える。


「くはあああああっ……やっぱり、お風呂なんだよなぁ……」


 万吉はとにかくはじめに風呂に入った。

 全身をきれいに洗って湯船に浸かる。それだけで、身体だけではなく精神も浄化されるような気がする。


「蛇はガレージに突っ込んどいたけど、あの鱗は色々使えそうだね、大量に取れそうだし」


「ゴルレ村の皆に良いお土産が出来たニャ」


「なんか、まだそれほど立っていないようで、ゴルレ村の皆に会いたくなるなぁ……」


「そうニャねぇ……」


「……よしっ、今日は久しぶりに金遊廓の餃子にしよう!!」


「やったニャ!! 早く上がるのニャ万吉ぃ!!」


 すっかり餃子の虜になったもふもふ。万吉は自分ともふもふのために冷凍餃子を調理する。


「今日は銀色のやつと餃子でしっぽりやるぞ」


「ふむ、白米がなくともあの餃子は神ニャ!」


「と、いうことで出来上がり!!」


「もう我慢できないニャ! おっほー! パリパリの食感にモッチモチの皮!

 そして弾ける肉汁とパンチの効いたニンニク味!! 最高ニャ!

 味噌だれも行くにゃ!!」


 もふもふも餃子の前では普段の余裕を失っていく。

 そんなもふもふの可愛らしい姿を見ながら、ゆったりと餃子を味わい、キンキンに冷えた銀色のビールを喉に流し込む。


「ーーーーーーーーーーっ!! 最&高!!

 この一口のために生きているんだなぁ!!」


 ビールは、一口目が一番美味しい。

 特に疲れた身体、風呂上がりのさっぱりと火照った身体には、キンキンに冷えたビールの喉越しが最強に感じる。

 そして、餃子とビールの悪魔的な相性の良さ。

 熱々の餃子を味わい、冷たいビールでリセット、そして再び熱々の餃子。

 無限コンボが止まることを許さない。

 さらに酢醤油、酢に胡椒、柚子胡椒、味噌ダレと餃子は武装を変えて飽きという敵を木端微塵に破壊してくる。


「お、おかわりなのニャ!!」


「あいよ!!」


 二人は、この日たっぷりと餃子を平らげ、ふかふかの布団で眠りにつくのだった……



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