第20話 ばったり遭遇
早朝、こんな日でも万吉は日課を続けている。
少し据えた匂いのする早朝の空気は昨日までとうってかわって山紫水明、自然の美しさに包まれていた。
ふぅーと空気を吸い込むと、その自然の神秘的な力も取り込めるような気がしていた。
一通りのトレーニングを終え、一晩燻っていた場所を少しスコップで探ってみると、いくつかのお骨はあったが、見事に焼けきっており、禍々しい気配も完全に消えていた。
そのまま万吉はスコップで山肌に近い場所を彫り始め、あっという間に巨大な穴を彫り終える。そして軽く手を合わせ、焼け残った炭や遺骨を穴へと集めていく。
箒で丁寧に掃除をし、全てを穴の中へと埋葬する。
「ご冥福を心からお祈りいたします」
静かにつぶやき手を合わせる。
いつの間にかもふもふがとなりで同じように手を合わせていた。
朝食を終え、動物病院をもふもふが収納する。
「さて、原因はわかったわけだニャ。これからどうするかニャ」
「ここに、遺体を捨てる犯人がいるはずだ。それをなんとかしないと、近い将来同じようなことが起きてしまう」
「そうだニャ、とりあえず、上の様子を見てみるかニャ」
万吉は崖を見上げる。
そそり立つ岩壁、万吉がロッククライミングの達人でもなければ登れる気もしない、そもそも崖の登攀用の道具なんて持っていない。
しかし、そんなものは今の万吉には関係ない。
むんずと岩肌をつかむとグイグイと昇っていく。
しっかりとした岩があれば、足をかけ、ぐいっと一気に上へと跳ぶ。
つかんだ岩肌がもろければ、「ふんっ」と手刀を突き刺し、手がかりを作ってしまう。足場が悪く崩れても、「セイッ」っと足先を岩肌に突き刺して固定し、足場にする。まるで壁を昇る蜘蛛のようにスルスルと崖を昇っていくのであった……
「よいしょっと」
最後の岩に手をかけて一気に身体を持ち上げる。
そんなこんなであっという間に崖の上に上がってきた万吉。
目の前に広がるは少し荒れた草地、そして……道がある。
明らかに人工的に作られた道が伸びている。
万吉は人間の手が入った文明を感じて、少し懐かしいような気分になったが、この世界の様々な情報から判断して、警戒心を強くした。
「確かめにいこう……」
「十分に気をつけるニャ」
「ああ」
あまり遮蔽物のない平地を道をたどって行く。
素早く、それでいて警戒しつつ万吉達は進んでいく。
背後には獣人達の住む山々が連なっている。
地形的に大きく谷を迂回しないとたどり着けない、迂回して山を上った先が人間と獣人が取引をする街で、そこの商人が来るのがゴルレ村の隣村ということになり、ゴルレ村が辺境も辺境であることが理解できた。
「あんまり最近に使われている気配はないな」
「轍も浅いし、そこまで多く使われる道じゃないのかニャ?」
「街は見当たらないなぁ……道があるから間違うことは無いだろうけど」
「……それなりに離れたところじゃないと、ああいう遺棄の仕方はしないと思うニャ。人間の生息域はもっと離れていると予想できるニャ」
「確かにな……魔物が出ることを知っているのかはわからないけど、少なくとも近くに遺体を放置したりはしないよな」
「とにかく少しペースをあげても良いかもしれないニャ」
「わかった。落ちるなよもふもふ」
「ふふん、余裕ニャ!」
それから万吉は本気を出して走り始める。
風を切るが、土埃は最大限に配慮している。
地面に水平に飛ぶように走ることで大地を巻き上げる量を落としている。
流石にズドドドドドドドっと土煙を上げて爆進していれば、遠くから補足されてしまう。
慎重に、警戒しながらも素早く二人は草原を駆けていく。
そして、新たな道を発見する。
いま来た道よりも明らかにしっかりとした広い道、街道だろうと思わせる道。
「困ったな、どっちに行けばいいかわからない……」
「ふむ……これぐらいの街道であればしばらく待てば人が通るんじゃないかニャ?」
「たださ、それ街から出てく人か街に向かっている人かわからないよな」
「たしかにそうニャ」
「街道である以上、それなりの規模の街同士を繋いでいるだろうから……とにかく進むか。よし、もふもふ、勘でいいからどっちがいい?」
「右ニャ」
「よし、そっちへ行こう。さすがに道脇を進むか」
街道沿いの草むらを疾走する万吉ともふもふ、変わらないのどかな風景が流れていく。獣人の死体の山という凄惨な場面は万吉の心にへばりついていたが、その優雅で美しい自然の風景が少しづつ万吉の心にこびりついているものを落としていく……
「ん? なんか聞こえるニャ!」
「……キンキンいってる?」
少し速度を落とし周囲の様子を伺う。
「!? 悲鳴ニャ!!」
「とばすぞもふもふ!」
万吉は街道に飛び出してスピードを上げる。
すぐに音の正体がわかる。
ボロボロの服の男たちが馬車を襲っている。
馬車側の剣士のような人間が守っているが、多勢に無勢状態だ。
「どうする?」
「仕方がない、馬車側を助けるぞ……」
「それしかないニャ」
ぱっと見、汚い集団が盗賊で馬車側が何らかの立場のある存在。
誰が敵か味方かわからないが、盗賊を助ける気にはなれなかった。
「助太刀します!」
盗賊を背後から首筋を狙い昏倒させる。
力の加減に不安があったが、運良くちょうどよく昏倒させることに成功した。
刃を構えて対峙すると緊張感があったが、繰り出される攻撃は魔物とは比べ物にならないほどに遅い。簡単にいなしてボディや顎を掌打で打抜き卒倒させていく。
数十人いた盗賊は万吉の登場で一気に崩壊していく。
剣士風の人々も一気に攻勢に出て3人で馬車に取り付いていた賊を討ち取っていた。
「すまない、本当に助かった……」
剣士たちは気絶していた賊達に止めを刺していく、万吉は止めようとしたが、先に相手に挨拶をされてしまい、そういう世界なんだと折り合いを無理矢理につけた。
「……いえ」
なんとか、声を振り絞って答えるので精一杯だった。
眼の前で行われる殺人を見て、改めて異世界なんだと思い知らされるのであった。
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