第19話 はっきり確信
「……これが魔物の正体か」
「穢れから産まれるってのは本当だったニャ」
黒色の液体のようなものが死体の山から這い出してくると、いくつかの塊に変化して段々と形を作っていく、狼のような見慣れた魔物が二体、そして虎のような魔物が一体へと姿を変えていった。
「本当に生物じゃないんだな」
「おぞましいニャ」
生まれたばかりの魔物だが、すでに万吉たちに激しい敵意を剥き出しにしてくる。
万吉たちも眼の前で起きた事象に強い嫌悪感を示している。
「とにかく、倒すぞ……」
「やってやるニャ」
魔物は万吉を囲うように位置取りをする。
慎重に周囲を回りながら警戒している。
「慎重だな」
いつも狂ったように襲いかかってくる魔物とは様子が違うように感じていた。
グルルルルルルルルル
虎のような魔物の低い声が響いている。
グルルッ!
一斉に3匹が万吉との距離を詰める。
スコップを振り払い狼を牽制、虎の一撃は蹴り上げて防ぐ。
統率の取れた攻撃に、反撃の隙間がなかった。
「……ボスなのか……?」
個の集まりではなく、ボスを中心とした集団で統制が取れているとなると、数的不利は想像以上に大変な差となる。
「こちらから仕掛けないと」
万吉が一足に間合いを詰めると円が歪んで距離を維持される。
魔物側も牽制的に攻撃を仕掛けてくるが、万吉の守りは突破できない。
戦況は膠着状態になる。
普通の人間であれば、この緊張状態が長く続くことはあっという間に消耗し、魔物の歯牙に倒れてしまうだろうが、この場にいるのは体力馬鹿であり神の加護を受けた万吉だ。
幾度にも渡る牽制攻撃に揺らぐことなく完璧に捌かれ続けてじれてきたのは魔物の方だった。
ガロロロロロロォォォ!!
激しい攻撃が万吉を襲う。今までよりも踏み込んだ攻撃のせいで万吉の振るうスコップが魔物の皮膚を切り裂く。万吉は手足スコップを使って猛攻に対抗し、さらに逆激を加える。
「ちいっ!」
流石に脇腹に爪が掠める。
ギャリン!
まるで金属がぶつかりあったような音がする。
「大丈夫ニャ!?」
「切れては……なさそうだ。我ながら、驚くよ!」
万吉の腹筋は爪を弾いていた。
筋肉は鎧だ。
「せりゃっ! はっ!! おっしゃぁ!!」
狼Aの攻撃に蹴りを合わせ狼Bに叩きつけ、虎の攻撃をさばいて横腹をスコップで切り裂く。残念ながら虎の横腹は万吉と違いスコップの鋭い一撃を弾くことは出来ずにどぷりと液体をぶちまける。
「グラアアアアアッ!!」
怒声をあげ虎が襲いかかる。コンビネーションも何もない、獣の一撃。
鬼気迫る迫力、今までで一番疾く強い攻撃。
しかし、迂闊だ。
「せりゃあ!!」
万吉を噛み砕くために大きく開かれた口を、スコップが貫く。
ビクンと身体を揺らし、巨体は地面に崩れていく……
その後は襲いかかる狼を仕留めていく。
統率の取れなくなった魔物はすでに万吉の敵ではない。
「ふぅ……なんか、だんだんと強くなっているような気がする」
「穢がどんどん強くなってるからかもしれんニャ」
「ここ……なんとなく想像がつくけど、なんとかしないとな」
万吉は崖を見上げる。
多分ここは、用済みになった奴隷獣人の死体を捨てている場所なんだろう。
「荼毘に付すのが一番だよね」
「この状態では、個別に弔うのは……難しいニャ……」
万吉は、ため息を一つ吐き。
森へと入っていく。
遺体を弔うために火葬にするための木材を集める。
森側に大規模な火災を起こさないために、死体の周囲の木々を切り倒し、壁面側に木々を組んでいく。
表面だけが燃えないように図太い丸太を窯のように組んでいく。
丸玉で燃え尽きる頃には、全ての死体も燃え尽きているだろう……
病院からの料理用の油を使用して最初の火種を全体に行き渡らせる。
「どうか、安らかに……難しいかもしれないけど……せめて、死後は安らかに……」
「獣神のお導きがきっとあるニャ」
二人は手を合わせ、火をつける。
油の助けもあり、木材に火が移って燃え上がっていく。
若い樹も多かったので煙も凄かったが、逆に周囲に立ち込める悪臭と穢を巻き取って空へと昇華させている役目を担っていた。
「……これが、この世界の人間のやっていること、か……
嫌われても、仕方がないな……」
道具のように使役し、遣い終えたら弔うこともなく谷に捨て置く。
その所業に万吉は怒りを抑えられなかった。
同時に、この力を人間に向かって振るうことが出来るのか、と自分の心に問いかけていた。
「人を……殺す……」
口から出た言葉は万吉自身が驚くほど低く冷たい音色だった。
彼自身気が付かないうちに、すでに覚悟を決めていた。
「短気を起こすのは早いニャ。人間の変容には理由があるはずニャ。
獣神様の古き記憶では、人間も獣人も仲良くしていたニャ。
なにか黒幕がいるニャ、それには魔物や穢が関わっている可能性は高いニャ」
もふもふは万吉の覚悟を理解していたが、万吉に人殺しなんてしてほしくはなかった。本来、魔物であっても動物を手に掛けることもさせたくはないが、魔物は生物に非ずという天啓があったので、そこは万吉に頼るしかなかった。
ふたりはそのまま木々が燃え尽きるまで獣人達の冥福を祈り、念のために周囲の森に病院設備のホースで散水をして回った。風もなく火の粉が周囲に飛び散ったりもしなかったが、念のために木々や地面をある程度濡らしておく。
それらの作業を終え、燃え尽きた一体に清めの塩を盛る。
それらを終えた後に二人は病院で休むことにしたのだった……
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