第17話 いきなり戦闘

 万吉が駆けつけると村を囲う防柵に魔物が取り付いていた。

 獣人達は長槍でそれを牽制している。


「大丈夫か!?」


「万吉先生! まだ、なんとか……ただ、こいつら、しつこい!」


 防柵のお陰で中からある程度安全に魔物に攻撃ができている。

 この防柵も色々と試してみたが、あまりしっかりとしたものだと魔物たちが昇って超えてきてしまうために、逆に隙間を作り外の様子を見やすくし、組み方の工夫で強度をあげて、更には馬防柵のように外側に向けて槍衾のような作りにしている。

 こうすることで内部から槍や弓によって魔物を攻撃できるようになった。

 監視用の高台からも他の魔物に弓を放っている。

 魔物は巨大な狼、光り輝く赤い目と、禍々しい魔石が胸元で光る。


「4体か……また、多いな……」


「最近異常です! 前は1体の魔物に遇うことだって珍しかったのに、もうですよ!」


 そう、ゴルレ村はこの数ヶ月で5度も襲撃されている。

 しかも、毎回複数の魔物にだ。


「こっちで引き付ける!」


 万吉はシャベルを背負って柵を飛び越える。

 普通のシャベルに見えるが、病院の備品のためにとにかく頑丈な神具となっており、じつはシャベルは武器として用いると結構危険な代物だ。


「うおおおりゃああ!!」


 渾身の一振りが柵に取り付こうとしていた魔物の横腹に叩きつけられる。

 単純に万吉の力による鈍器としての一面。

 ボギボギと胸部を守る肋骨を砕き、背骨までもその衝撃が貫く、悲鳴をあげて倒れ、もう立ち上がることは出来ないだろう。


「次ぃ!!」


 飛びかかる魔物の爪とシャベルが交差し、甲高い音がする。

 魔物は着地に失敗し、地面を転がる。

 着地に使うつもりだった腕が、シャベルの一撃によりひじあたりまで斬られたからだ。

 シャベルの刃を利用した斬撃。


「ふんっ!」


 魔石と身体の間にシャベルを突き立てられ、魔物は絶命する。

 同時に万吉の背後でベキベキと木柵が崩壊する音がする、魔物の一匹が上手く柵の隙間を破壊し村へと入ろうとしている。


「させるかっ!!」


 シャベルを持ち直し、投擲する。

 柵の最後の破壊に手間取っていた横腹にシャベルが深々と突き刺さり、叫び声を上げる。怒りに満ちた表情で万吉をにらみつけるが、すでに万吉を間合いまで侵入を許していた。


「南無三」


 魔石に手をかけ、一息に剥ぎ取る。

 すでになった万吉に背後から最後の一匹が襲いかかるが……


「せりゃあああっ!!」


 払い受けからの見事な上段回し蹴り、もろに頸椎部を蹴りぬかれ、魔物は息絶えたのだった。


「……押忍っ」


 万吉が現れ、一瞬で戦いは終了した。

 万吉は魔物に対して罪悪感みたいなものを感じないことにはじめのうちは戸惑っていたが、この行為が獣神の求めることだからというもふもふの言で深くは考えないことにした。魔物は、生物に非ず。

 この世界の淀みのようなものが生じさせる厄災のようなもので、命を持たず生あるものを滅ぼす存在。


「確かに、禍々しいもんなぁ」


 万吉は剥ぎ取った魔石を握りつぶした。

 破壊された魔石はサラサラと砂となって風に消えていく。

 なにかに使えないかと色々と試したが、結局なんともできずに今は破壊している。

 再び魔物に変化されても困るとの獣人達の不安の声を反映した。

 万吉は握りつぶしたが、実際には物凄く固く、獣人たちがハンマーなどで必死に叩かないと破壊できない代物だ。

 動物病院の中に持ち込むか、万吉の手によってガラスみたいに破壊することができる。


「まわりに魔物の気配はなさそうニャ」


「本当に最近多いな……しかも、いつもこっちだな」


「これは、下の方で何か起きてるのかニャ?」


「調べる範囲を広げないといけないか……あんまり村を空けるのも怖いんだけどね……」


「薬草栽培も進んでるニャ、軽症なら以前よりずいぶんとしっかりと対応できるようになったニャ」


 病院のガレージでこの世界のいくつかの薬草栽培を始めた。

 神域で育成した薬草たちは成長速度もあがり、さらに効能も向上した。

 外傷、下痢、嘔吐、炎症などにしっかりと効能があることがわかっている薬草を育成してそれを使った治療も取り入れ始めた。

 漢方薬に対する知識も万吉は叩き込まれており、それらを応用してこの世界の治療も研究している。もうもふによる大雑把な解析も万吉のためになっていた。

 触れたものがなんとなくなにかに効果がありそうと感じる程度だが、それでも心強かった。

 もちろんこの世界で構築された過去の積み重ねられてきた知識も手に入れている。

 それらを組み合わせて、この世界の獣人医療を作っていくつもりだ。

 動物病院の施設、薬だよりだと救う量に限界がある。万吉は村での生活でそのことを考え始めていた。


「と、いうわけでしばらく村を空けることになるから、皆には迷惑をかけることになると思う」


「万吉先生迷惑なんて言わないでください。先生のお陰で私たちはこんなに素晴らしい生活を手に入れています。さらには魔物の調査まで任せてしまって……」


「ずいぶんと皆も戦えるようになってきてますから、俺がいない間のまもりはおまかせします」


「無理はするんじゃないニャ。いざとなったらアレを使うニャ……」


 万吉ともふもふは村人たちのために薬草を用途ごとに使いやすい形状にしてストックしておいていた。また、もともとそういった薬草の扱いに詳しい人々にもう少し形態立てた治療の考え方などを指導していた。

 異世界に落ちた万吉という点から、少しづつ世界に波紋が広がっていく……





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