第16話 しっかり復興
商人が来る村と言っても辺境のゴルレ村とそう大きくは変わらない。
ただ、一点はっきりと異なることは獣人の種類が複数種いることだ。
そこに興味を持った万吉は、2つの村を行き来しながら、色々なことを調べていき、ある不思議な点にたどり着いた。
「獣人が特殊なのか、病気が特殊なのかだよな」
「話を聞けば人間以外の獣人は全てかかるそうニャ」
「まぁあんまりあっちの常識を異世界に当てはめ過ぎるのも危険だから、そういうものだと割り切って対応したほうが良いね」
「混ざりあった獣人だと食事などもどんどん雑食化していくそうニャ」
「でも生まれるのはどっちかの姿で、あまり混ざらない……獣人は不思議だな」
簡単に言えば、犬に似た獣人と猫に似た獣人が子をなした場合。
犬と猫が混じり合った子供が生まれるのではなく、犬っぽい子と猫っぽい子が生まれる可能性がある。ってことだ。外見は犬っぽくても、中身は犬と猫のハーフなので、食生活は犬と猫の特徴が合わさったようになり、例えば猫はうまく利用できない野菜なども効率よく利用できるようになる。
「これ……獣神様はどんどん異種間で子をなして欲しいって思ってたのかもなぁ……」
「そしてそれを意図的に忌避し、邪魔をしているのが人間だと思ってるんニャ?」
そんな素晴らしい特性があるのに、異種間での恋愛や子をなすことは禁忌とされており、人間たちが信仰する宗教によって激しい弾圧を受けているという事実だった。
そういった獣人は奴隷以下の扱いを受けるために辺境へと逃げ込むことになる。
そして、ここは辺境、一定数いる獣人からしつこく聞き出し、この事実にたどり着いた。
「しかし……中毒物質を食わせて死ねば無罪、平気だったら死罪……この世界の人間は糞だな!!」
「普段は奴隷扱い、気が向いたら神の裁判とか言って私刑を振るう……腸が煮えくり返るニャ!」
魔物が少なく、安全な区域は人間たちによって独占され、獣人は危険な環境に追いやられている。
そうなると商売も手の込んだ物は人間に独占され、獣人達はそれらのおこぼれを施してもらっているような状態になってしまっていた。
これは、物凄く長い時間続けられてきており、人間もそうだが、獣人もそれが当然と受け入れてしまっている。そのことが万吉には許せなかった。
そしてもう一点、獣人と人間の間の子供達の扱いが万吉の逆鱗に触れた。
「獣人を道具扱いするだけでも許せねぇのに、欲望のはけ口を作るために命を侮辱しやがって……」
万吉は珍しく怒りを外に出していた。
獣人と人間の間の子は、獣人同士と異なり交じる。
まじり方にはいろいろあるが、人間の姿に近づいていく。
そして、この世界でこの人間たちは生まれついての奴隷として生まれる。
人間が行う作業の危険な作業や辛い作業を一手に押し付けられていく、それはもう酷い扱いを受け続けている。
実際には獣人と人間の優れた点を受け継いでおり、特に運動能力では人間を圧倒する。
「……魔法ねぇ……」
「それが獣人と人間の差を生み出しているニャ」
しかし、人間のみに与えられた力によって、その能力を含めてただ利用するだけの道具にしているものが、魔法だ。
奴隷を縛る奴隷紋を始めとした魔道具や、特に強い魔力を持ち強力な魔法を扱う魔法使いの存在によって、この人間と獣人の関係性が長年維持してしまっている。
「……人間に会わないとなぁ……」
「もっと中枢にいかないと駄目ニャ」
万吉達は、正直、耳に入ってくる情報があまりにも下衆すぎて、この世界の人間像をうまく想像できていなかった。
新たな情報収集もしながら、万吉達は2つの村の復興を手伝っていく。
今まで、毎日を生き残ることだけを必死に頑張ってきた獣人にとって、よりよい生活を目指していくことは、幸せだった。
それをもたらしてくれている万吉ともふもふに村人たちは厚い信頼を積み重ねていった。
「万吉先生! ほら、もう歩けるようになったよ!」
診察に来たわんこが診察室内をぐるぐると歩き回る。
「落ち着け落ち着いて、まだ無理しちゃ駄目だよ、わかったわかったから」
「これリュウ。診察室で騒ぐものじゃないニャ」
「はーい。でも骨が折れたのにこんなにすぐ歩けるようになるなんて!
やっぱ万吉先生はすげ~や!」
「未だに信じられません、私の子供の体にあんな板が入っていてそれで骨を繋いでいるなんて……」
母親であるマーサはレントゲン写真に映るプレートを不思議そうに眺めている。
「骨が折れたら木を巻き付けておくのが治療だと思ってたのに……」
「うまく行けばそれでも治るかもしれないけど、変なつきかたしたり、何より時間がかかったでしょう?」
「ええ、やっぱり歩けなくなってしまったりしていました」
「この方法でしっかりと骨を回復させれば、この板は取り除けますから」
「えー……せっかく金属の身体になったのに取っちゃうの!?」
「君はまだ大きくなっていくから無い方が立派な骨になっていくよ」
「そっかぁ……」
残念そうにするリュウの姿に万吉は可愛さに笑顔になる。
日々の診療と獣人たちとの労働、以前より余裕のできた村の生活は万吉にとって幸せな時間だった。
しかし、その幸せな時間は長く続かなかった。
「万吉先生、また魔物が!!」
魔物の襲来、その頻度が日増しに上がっていた……
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