第13話 どんどん開発

 万吉の一日は早朝5時に始まる。

 日課であるトレーニングを行い、朝食を作る。

 もふもふと一緒に食事を取りながら、一日の予定などをミーティングする。

 朝食を済ましたら院内にいる患者の診察や処置を行う。

 いなければすぐに動物病院を開けて午前の診療、入院がいる場合は処置など終了後にか診療が開始される。

 現状モフモフ動物病院の診察は午前のみ、午後は村の復興開発支援に当てられている。入院などがいればそれらの世話が夜にも加わってくる。

 一通り村人たちを診察、高齢者の慢性的な病気などの管理や、急病への対応などなどそれなりに忙しい。

 それでも万吉ともふもふの息の合ったコンビネーションによって外来はスムーズに処理されていく。

 何と言っても患者から直接状態を聞けるということは獣医師である万吉にとっては非常にありがたかった。

 実際の診療で話を伺うのは病気である患者ではなく、それを飼育している飼い主になる。本人ではないので、具体的な位置や様子は観察しての予想しか無い。

 実際に問題が起きた時期と、目に見えて様子の変化が起こる時期が異なっていたり、そこまで表立った症状を出していなくても、その動物の内部では非常に深刻な問題が起きているようなことを、という画期的な状態に感動を覚えていた。


 そして獣医師として仕事を終えると、簡単な昼食を準備し平らげ、重機としての働きが待っている。


「よっしゃ、今日はここの続きやるぞ!」


「結構な斜度だから注意するニャ」


「わかってる」


 今は森林の間伐と山道整備を行っている。

 急斜面に細く頼りない獣道で移動しているゴルレ族の人々のために安全な道を作っている。材料は現地調達、シャベルやハンマーを持った万吉は重機並みの働きで道を整備していく。道を完成し、その日に使わずに残った木材等は村人と一緒に村へと運んでいく。

 今一番の目的は隣村、と言っても山を2つ超えるのだが、までの山道整備だ。


「隣村は街からの行商人が来るから、そこまでの道を整備すればやり取りがずいぶんと楽になる」


 まずはそこからだ。

 午後日が傾き始めるまで万吉は木材を山肌に突き立て道を均し、木材を敷いていく。

 同じ作業の繰り返しだが、毎日伸びていく道を歩いて帰る時、万吉は得も言われぬ充実感をその伸びた距離だけ感じていた。


「いやー、今日も働いたなぁ……」


 一日の終りには風呂が待っている。基本的には動物病院の居住エリアの自分の風呂に入る。たまに村人たちと屋外に作った場所で一緒に水浴びのときもあるが、やはり疲れを癒やすには日本の風呂が最高だと万吉は考えている。

 ちょっと頑張っていい風呂にしておいてよかったと万吉はこの瞬間に感じている。

 一日の汚れを落とし、湯船に肩までつかった瞬間。


「いずれは露天風呂を作りたいなぁ……」


 この世界の夜空を見上げる風呂はさぞ気持ちが良いだろうなぁ……と夢想する。


 この村での作業を始めてから、万吉の身体は更に絞り込まれてきた。

 空手現役時代に近い絞られ方になっている。

 まさかここまで毎日肉体労働をすることになるとは思っていなかった。

 獣医師の仕事は頭も身体も使う仕事ではあるが、流石に丸太を担いだりハンマーを振り下ろしたり斧で大木を切り倒したりはしない。

 斧や鉈、のこぎりなどの作業は全身の筋肉を利用するので非常に効率のいいトレーニングになっている。万吉自身は気がついていないが、この村はかなり高所にあり、かなりの負荷の高所トレーニングも兼ねていた。

 心身の鍛錬とともに、神の威を帯びた食材によって作られた聖食を食べている。

 それは、この世界における存在を高める最も効率のいい方法に他ならなかった。

 当の本人はまるで気がついていなかった。


「おお、見えた!!」


 そんな日々の繰り返し、延伸される道の先についに隣村の気配を感じることが出来た。


「万吉先生、あの岸壁を回り込むように登っていけば尾根に出て村はもうすぐです! 

 本当にここまで来たんだ!」


 同行していた獣人が興奮している。

 今まで誰一人として考えもしなかった山道整備、5日は道程を考えなければいけなかった過去が、現在では四つん這いの本気走りをすれば半日で隣の村へ来れるようになった。

 万吉たちは隣の村との半分くらいまで進んだあたりから間伐をやめている。

 木材の確保は自分たちの村の周囲の森に限っている。

 これは、無駄な軋轢を産まないようにという配慮だった。

 その結果、山道整備の半分は、木材運搬という仕事が増えていた。

 獣人の助けもあったし、道を整備したおかげで台車を導入できたことも大きかった。


「よし、最後まで気を抜かずにやるぞ!」


「ういっす!!」


 獣人たちは木材を万吉に次々と渡していく、その姿もすっかり手慣れている。

 万吉は大地に杭を打ち付け、地面を均し、木を嵌める。繰り返し繰り返し行い効率化された見事な手際で道を伸ばしていく。


「ここは落石が多そうだな……よし、落石よけも作ろう」


 環境に合わせてその場で施設を作っていくこともある。

 道の脇に石場が反り立っているような場合は道を守るように落石防護壁を作ったりする。

 落石による事故は村でも何度も治療に当たっており、その怖さは身をもって知っている。


 こうして、長い時間を経て、とうとう、隣村までの山道が、完成したのであった!


「よっしゃぁ!!」


「事情を説明してきます! 申し訳ないですが万吉先生はこちらでお待ち下さい!」


「儂も行くニャ」


「気をつけてなー」


 人間である万吉が突然村に現れればいらぬ警戒心を生んでしまう。

 まずは獣人ともふもふにが先触れに出た。

 しかし、すぐに二人は引き返してきた。


「万吉!! すぐに来るのニャ!」


「村人たちがっ!!」


 万吉は駆け出した。



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