第11話 しっかり計画
「かなり派手に壊れているなぁ……これは直すより一から作ったほうが良いと思うよ」
「……アイツラと戦うのに、武器だけじゃなくて使えるもの何でも使って……今は木を切るための道具を作る材料集めからになってしまう」
まだ獣人たちは万吉に完全に心は開いていない。どことなくぎこちない問答になってしまっていた。
破壊された建物は基本全て木造、森の中に開いた村にとって最も利用しやすい材料で作ることは当然と思えた。
周囲を見渡しても、いま現状必要なのは大量の木材、加工する道具が不足しているなら、万吉が加工して使いやすい状態にすればいい。
万吉の方針は固まる。
「とりあえず、今必要なのは木材、うちには道具があります。
用意するために周囲の木々を適当に使っていいですか?」
「もちろん構わないが、このあたりの木々は非常に大きく、一本利用するだけでも数ヶ月はかかるんだよ」
「とりあえず、ちょっと行ってきます」
万吉は一度病院のガレージへと向かう。
ガレージにはある程度の工具が綺麗に棚に収まっている。
何故か鉈や斧、のこぎりなどもある。
キャンプ用品も一通り揃っていた。
本格的な山登りは経験はないが、それなりのキャンパー経験、それに空手で山籠りの経験はあった。
斧を掴み、村外れの森へと向かう。
「ちょっと密度が高すぎるよな……」
森に入ると鬱蒼と茂った木々が太陽の光を完全に遮断している。
これはちょっと過密な状態で、低木層が豊かな森になるには、もう少し間伐して太陽を地面まで拾う必要を感じた。
村の側から適当に間隔を測って、間引きする木々を選別していく。
遠巻きに獣人たちが村の中から様子をうかがっている。
「それじゃあ、やりますか!」
「倒す方向間違えないようにニャ」
「わかってるよ……せーの!!」
斧を振りかぶり大木に振り回す。
カーーン
という甲高い音、大木に深々と刺さる斧。
万吉の力では普通の斧であれば斧の方が破壊されてしまうが、動物病院の斧は神具だ。どんな怪力でも破壊はされない。
「ふっ!!」
もう一度振りかぶり、打ち付ける。
木がまるで粘土のように斧によって削られていく。
「そろそろニャ」
「よいっしょー!!」
最後の一撃が深々と突き刺さると、メキメキと音を立てて大木が倒れていく……
驚くのは獣人たちだ。
眼の前で大木があっという間に倒されてしまった。
これは、あり得ない光景だ。
「とりあえず枝を払って使いやすいようにするか……」
枝をバッサバッサと斧で落とし丸太の形にする。
ある程度の長さでのこぎりで切り分ける。
そのままのこぎりで皮をはぎながら板材に形を整えていく。
「なんか、気持ち悪いなコレ」
「豆腐を切ってるみたいニャ……」
万吉ともふもふも少し引いてしまうほど、神具となった道具と万吉の怪力が合わさった作業効率は異常だった。のこぎりはまるでケーキをカットするように木々を切り分けていく。
結果として、半刻ほどでしっかりとした木材が大量に完成する。
「本当は乾燥とか灰汁抜きなんだろうけど、そこまで精密な物は求めてないだろう」
「中で燻したりして対応している様子だったニャ」
「いいね、そういう山の知恵って大事だよね」
「万吉の読書趣味で手に入れた過去の知恵をたくさん活かすニャ」
「ああ、わかってる!」
大量に積まれた木材をガバッと抱えて肩に乗せ、村へと歩いていく。
獣人達の人だかりはばっと2つに分かれ、その間を木材の山が通過していく。
広場にどすんと木材が置かれていく。
「とりあえず、今ある半壊状態の家を
それからの光景に、獣人たちは圧倒されるしかなかった。
家を解体し、地面をならし、スコップでプリンを掬うように基礎を構築し、ほぞなどを利用して木々を組み上げて、あっという間に家がそこに生えた。
すべての加工を万吉が行っているにも関わらず、まるでレゴブロックを組み合わせるようにとてつもない速さで家が完成するのだ。
「よし、どんどんやっていこう」
「皆もそれぞれ自分たちの仕事を頼むのニャ!」
もふもふの言葉に固まっていた獣人たちはそれ自分のできる作業へと戻っていく。
眼の前で行われていた事にあっけにとられていても、それ以外にもやることは山積みなのだから……
「外側には皮目を残してみたりしても良いかもなぁ……」
「こだわるのは今度にするニャ」
これでも、いろいろと試しながら建築していた万吉は、段々とコツを掴んでいく。
重機のようなパワーと、繊細な加工技術、もふもふ現場監督の適切な指示によって、破壊された家々は次々と建て直されていく。
今は組み上げ式の住宅だが、いずれは木枠式の家も良いなぁなんて事を考える余裕も万吉には出てきていた。
以前の村に建っていた家とは趣は異なるものの、堅牢な建物へと姿を変える。
木材のサイズがデカいので、強度も広さも実際には段違いに改良されている。
いずれは被害の小さかった家も全て万吉建築の手によって建て替えられていくことになる。
「さすがにガラスとかは無いから扉式の窓にするしかないし、スピード重視で平屋にしてるけど、手の込んだの作ってみたくなってくるな」
「そのうちそういう物を作る機会もできるだろうニャ。もうすぐ日も暮れるからできるとこまで頑張るニャ、万吉、その板材は天板ニャ、そのとなりとなり」
こうして、復興作業を終える頃には、獣人達の目から人間に対する、いや、万吉に対する冷たい色は完全に消失するのであった。
日が落ちれば篝火が焚かれ復興作業は休憩になる。
万吉たちが提供するドッグフードに皆ががっつき、万吉は患者たちの処置に追われる。
一日があっという間に過ぎていく日々がしばらく続くのであった。
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