第10話 やっぱり説得
とにかく速度重視で治療を続けていく。
外傷、骨折、一見派手だけど即座に命に関わらないような症例と、一見綺麗だけど内部で非常に危険になっている症例、先に治療しなければいけないのは後者だ。
普通ならこのあたりで揉めるのだが、現状は緊急事態で混乱しており、それら全てをもふもふが解決していた。
動物病院内に連れてこられた獣人に神威を示して半ば無理やり納得させていく。
そして、治療している人間、万吉のこともドサクサに紛れて納得させていく。
カイとキッカもその説得に協力してくれていて、ある程度スムーズに? 治療を行うことが出来た。
それでも文句を言ったり強い敵対心を示してくる獣人もいたが、そういう相手には卑怯かもしれないが、ドックフードという秘密兵器で黙らせていった。
治療は夜中も継続して続けられ、軽症者の処置を終えた頃にはすでに朝日が登っていた……
「病院に来てくれた人は、一応皆治療できたな」
やりきった達成感、しかし、それでも全員を救えたわけではなかった。
「……仕方ないニャ、死んだ命をよみがえらせることは……出来ないニャ」
残念ながら、すでに息絶えていた者、即死だった者、手のつけようがなかった者は存在していた。それでも、被害に対してこれだけの獣人が助かったことは、誰の目にも万吉のおかげであることは疑いようがなかった。
突然現れた人間、しかし、魔物を倒し、寝ることなく皆を治療し続けた姿、モフモフとカイ、キッカの説得。それらが合わさり、敵対行動を取る獣人はいなくなっていた。もちろん両手をあげてその存在を受け入れていないものもいたが、万吉の真摯な治療態度などを見て、表立って目立つ態度は取らないでいるくらいの分別は持っていた。
「万吉殿でしたな……この度は村を救っていただき感謝しております」
毛に白いものが多い明らかに高齢とわかる獣人が深々と頭を下げてきた。
「万吉、村長のバーリ爺だよ」
「全員救えず、力足らずでした……」
「いえいえ、頭をお上げください。
あのままであれば僅かな若人を逃がすので手一杯、いや、逃がせたかもわかりませんでした。感謝こそすれども不満などあるはずもありません。
それに、あのような食事まで提供していただき。
久方ぶりに腹を満たす幸せを感じられましたわい」
「それはよかった。食事に関してはしばらくは必要であれば提供いたしますので」
「なんとありがたい!」
「全ては獣神様の
「ありがたやありがたや……」
万吉は困ったら獣神様のお陰と応えることに決めていた。
それから重症患者を含めて、全体の診察を通し、一息ついた万吉はソファーに腰掛けた……
「ハードだった……な」
「よくやったニャ。軽く眠るといいにゃ。何かあれば起こすニャ」
「ありがとう、そう、させて……もらう……」
ソファーの柔らかさに意識も含めて沈み込んでいくように万吉は寝息を立て始める。
「さて、もう少し根回しをしておくか……ニャ」
もふもふは動物病院内の変化であれば外にいても把握できるために、症例の状態把握のためにつきっきりでいる必要はない。万吉が昔やっていたように夜中に何度も起きて確認したり、カメラを設置して出先でも確認できるようにしなくてもいい。素晴らしいことなのだ。
もふもふは獣人達の村に出る。
動ける獣人たちは魔物によって破壊された建物の解体や亡くなってしまった人の葬儀、そして、毎日をそして明日を生きるために必死に働いている。
「もふもふ様!」
「もふもふ様だ!!」
作業をしていた獣人たちがもふもふの姿を見つけると集まってくる。皆羨望の眼差しでもふもふを見つめている。
今のところの皆のイメージは、もふもふが獣神から遣わされた聖獣で万吉がその召使いって感じだ。
「もふもふ様、うちの旦那は……」
「ああ、ゆっくりと休んでしっかり回復しておりニャ。数日で目を覚ますから心配はいらないニャ」
「ああっ、ありがとうございます!!」
「一通りの治療は終わって安定しているから、静かに様子を見に行くのは問題ないニャ。手が空いたら来るといいニャ。村長にも伝えたけど食事とか飲み物とかも渡すから、困っていたら来るニャ。万吉は良い人間ニャ。何でも頼むと良いニャ」
「人間……でも、もふもふ様と同じ獣神様の御遣いであるなら、無礼はいけませんね」
「まぁ、触れ合ってみればそのうち分かるニャ。
あやつは今は寝ておるが、起きたら荷馬のごとく使うと良いニャ。
あの馬鹿力もこの後片付けとかには役に立つニャ!」
それからもふもふは村を見て回って、復興に必要そうなことや手が必要な部分の情報を集めて回った。
万吉が目を覚ましたことを感じ取り、もふもふは動物病院に戻る。
「おはよう万吉。患者は皆安定しておるニャ」
「ああおはようもふもふ……なんかちょっと眠っただけでも調子がいい……!」
「万吉も少しは恩恵を受けるみたいだニャ、人間も半ば動物みたいなもんだからニャ」
「もしそうならありがたいなぁ!」
腕を振り回し身体を伸ばしている万吉の腹から豪快な空腹を知らせる音が響く。
「そういえば飯食ってなかったな」
「儂の分もよろしくニャ、食事を終えたら村の困りごとをリストアップしてあるから手伝いに行くニャ」
「わかった! チャーハンでいいか?」
「もちろんニャ!!」
万吉は豚バラとネギ、それに卵だけのシンプルチャーハンが好きだった。
味の決め手は中華調味料。これだけでバッチリ味が決まる優れものだ。
豚バラを小さめのさいの目に刻む。ネギはみじん切りだ。
中華鍋にたっぷりの油で豚バラをあげ炒める。
そこに解いた卵を流し入れ、すぐさま白米を絡ませていく。
全体はほぐすようにかき混ぜていく、この方法だと米が玉になりにくいので誰でもゴワゴワとしたチャーハンにならないですむ。最初から卵とご飯を混ぜる方法も楽だ。
全体に火が通ったら塩と調味料、そして多めの胡椒で味をととのえる。
最後にネギを加えて全体を軽く混ぜ合わせる。
火を止めて鍋肌に醤油を垂らすと、じゅわーっと部屋に焦げた醤油のいい香りが広がる。最後にもう一度強火で全体を香ばしく仕上げたら完成だ。
お玉で綺麗に形を整えて、美しいチャーハンが完成する。
万吉ももふもふもあっという間に平らげ、復興支援へと向かうのだった。
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