第3話 すっかり感動
「お……」
「お?」
「おー……」
「おー?」
「俺の城ーっ!!!!!!!!!!」
バカでかい万吉の声でもふもふが身を震わせる。
「ば、ばっかもーん!! 大声を出すにしても加減するにゃ!!」
身体能力が馬鹿みたいに上がって大声も人並み外れた声になっている。
万吉は病院の周囲をぐるぐると走り回り、壁や看板に頬ずりをしたり自分の頬をつねったりと落ち着きなく動き回っている。
「いい加減話を進めたいから中に入るにゃー」
「わ、わかった!」
「だから、声を抑えるにゃー……全く……気持ちはわかるけども……」
万吉は驚くほど身体を小さくしてそっと扉を開く、内装は本当にオープンを控えていたそのまま、新築の家の匂いが残るそのままの状態で再現されており、万吉の目頭を熱いものが襲うのであった。
「本当に……ここは……」
「あの病院を万吉の持つ力で再現させているニャ。
電気や物品の在庫なども万吉が持つ力を元に使用することができるニャ。
病院を顕現させて1週間くらいすると万吉がぶっ倒れるくらいと聞いてるニャ。
睡眠を取れば出している状態でも一晩で回復するそうなので、一週間寝ないで起き続けていたら病院を維持できなくなるし、万吉もぶっ倒れるってことにゃ」
「す、すごい……水も、電気も、ガスもちゃんと!
冷蔵庫の食材も!」
「あの刻に内部にあったものは何度でも再現できるにゃ」
「冷凍餃子買っといて良かった……」
万吉の大好物の冷凍餃子もビールもキンキンに冷えている。
それなりに自炊のする一人暮らしの家庭よりちょっと凝っている材料と調味料は完備していた。
「更にこの内部は神からの加護を得ている神域になっているニャ。
我が眷属に連なる者たちであればこの神域内にいるだけで様々な恩恵を受けられるニャ」
「確かになんか空気が澄んでいるというか……合宿で籠もった霊峰のような清々しさがある……」
某メーカーの空気清浄機が出しているイオンの影響ではない気がする。
「うおっ入院室が……広くなってるし、ベッドになってる……」
「この世界で万吉が求められている仕事は動物だけでなく獣人の治療だニャ。
動物も話をつけられるからこのスタイルになってるニャ」
「じゅ、獣人? 診たことないんですけど……」
「大丈夫ニャ。あっちの世界の獣医師の知識とスキルで大丈夫! と太鼓判を押されているニャ」
「……が、頑張るぞ!」
「その意気ニャ! まぁ、まずは獣人たちに出会うまで健康に旅を続けなきゃいけないんだから、今日はしっかり休むニャ。ご飯にするニャ!」
「そういえばお腹が空いてきた……予定は変わっちゃったけど、開業日の夜はこれにするつもりだったし……もふもふは猫缶でいい?」
「ふっふっふ、ニャ。もう儂は猫という種を超えた存在ニャ!
万吉のいつもうまそうに食ってるものを食べるのニャ!」
「餃子には猫が食べられない玉ねぎとかにんにくとか入ってるよ!?」
「大丈夫、神獣である儂に中毒物質なんてないニャ!
なんなら、毒とかも効かないニャ!」
「なんという……でも、一緒に御飯食べられるのは嬉しいな!
よし、準備をするから待ってて!」
米を洗い炊飯器にかけ、万吉はこの世で一番大好きな食べ物である近所の金遊廓という名の中華料理屋の冷凍餃子を取り出す。
中火のフライパンに油を薄く敷いて冷凍餃子をそのまま並べていく。
油がパチパチといい音を立てている、全てを綺麗に並べ終えたら水を餃子が軽く浸かる量を一気に流し入れて蓋をする。ブワッと水蒸気が上がるがすぐに蓋をしてしばらく放置だ。
この間に特性のタレにちょっとだけ手を加える。
ネギをみじん切りにしてごま油と少量の塩でよく混ぜ合わせる。
特製ダレに柚子胡椒と胡椒を足して、そのネギと合わせてよく混ぜる。
これが万吉特性、正確には師匠から受け継いだ餃子と合いすぎるバカウマタレだ。
フライパンの水が無くなったら、ごま油を一回しして水溶きの片栗粉を回し入れて、強火で30秒。
「よいしょっと!」
フライパンに大皿をかぶせて逆さまにすれば、見事な焼色のついた羽つき餃子の完成だ。少し大きめな餃子の中では肉汁がグツグツとゆだっているのが透けて見える。
ごま油の香ばしい香りと軽く焦げた皮の香りが万吉ともふもふの胃袋をねじりあげる。
「先に餃子から食べよう! ご飯はもう少しで炊ける!」
「ニャ! ニャ! ニャ!」
もう我慢ができない。
テーブルに大皿を置いて、冷蔵庫からキンキンに冷えた銀色に輝く缶を掴む。
凍らせてあるジョッキにプシュっと缶を開けて注いでいく。
師匠に厳しく仕込まれている万吉は見事にきめ細かな泡3:黄金の液体7の完全比率を完成させる。
「儂にもよこすニャ!」
「アルコールも動物には有害なんだぞ……」
そう言いながらも手慣れた様子でジョッキを用意する。
どうやって持つのか? 万吉も興味があった。
「いただきまーす!」「いただくニャ!」
アッツアツの餃子にたっぷりのネギダレをのっけて一気に口に放り込む。
火傷しそうなほどの肉汁がネギと合わさりジューシでありながらさっぱり、旨味が口の中で爆発する。そして、なんといってもモチモチの皮だ。
大量の肉汁にもまけないぷりぷりもちもち、しかし焦げ部分と羽はカリカリ、さまざまな食感が万吉を天国へといざなった。
「う、うまいニャー!!」
もふもふはなんと器用に手を使って箸を使い、ジョッキを持って餃子を頬張っている。
「猫舌はないのか?」
「そんな弱点はなくなったニャ! ずるいぞ万吉! こんなに美味しいものをいつも食べて飲んでたのかニャ!」
「ふっふっふ、とうとうもふもふも知ってしまったか……」
その時、ぴーぴーっと炊飯器が米が炊けたことを知らせる。
「そして、さらに罪深いものを知ってしまうのだな……」
万吉はすばやく立ち上がり、丼に炊きたてのツヤッツヤの米を山盛りに2つ持ってくる。
「さぁ、もふもふ。堕ちるがいい」
万吉は、モフモフに見せつけるように真っ白なごはんに餃子をどんっ、ネギダレを多めに載せて、米と一緒にかきこんだ。
「あ~~~~、最高だ!!」
満面の笑み、これほど幸せそうな顔をみたことがない。
「ふにゃーーー! すぐよこすニャ! それを!!」
猫の満面の笑みってこんなんなんだ。
万吉は米をかきこむもふもふを見て、そう思ったのであった。
こうして、なんとも楽しそうな異世界の初日は過ぎていくのでありました……
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