第8話子爵(元公爵子息)3
公爵家の敷地内にこじんまりとした館。
洒落た感じの館は母上の趣味だろう。
一通りの執事やメイドが用意されていた。
生活の質は少し落すように秘書に諭された。
「ヘンリー様は既に子爵として独立なされています。下賜された領地での収益で生活されていくのですから無駄な贅沢は許されません」
個人資産の使用についても管理人の許可がいったのだ。
もっとも、高位貴族との付き合いがない分、出て行くお金も少ない。
結婚式は公爵領にある神殿で行った。一族の者は代々そこで結婚式を挙げる習わしだったからだ。急な事だったにも拘わらず大勢の友人達が駆けつけてくれた。純白のウエディングドレスを身につけたドロシーは輝かんばかりに美しかった。両親やお世話になった
数ヶ月後に妻は玉のように可愛い女の子を出産した。
この時が一番幸せな時間だった。
孫娘の誕生だ。
両親が祝いに来てくれるとばかり思っていたのに音沙汰がない。代わりに妹が来てくれた。ただ娘の誕生から三ヶ月経っていた上に会う場所は公爵家の別邸であり、妻は連れて来ないという指定付きだ。妹のアリシアは5歳年下の13歳だ。歳の割にしっかりしていて口も達者だ。高位貴族特有の揚げ足取りもお手の物。妻を同伴しない事はある意味で正しいのかもしれない。
「アリシア、父上や母上にも娘の誕生を知らせたんだが一向に返事がない。どうしてなんだ?」
「お兄様の事ですから嫌味でも何でもなく本気で聞いているのでしょうね」
何故か妹に心底呆れた表情をされた。
「いいですか、お兄様。廃嫡した息子の孫ですよ。正式な孫として認めるはずないじゃありませんか」
「廃嫡……?」
「やはり理解されていなかったようですね。公爵家の跡を継げないという事は廃嫡するという事です」
「待て、私は子爵位を得ているぞ?」
「手切れ金代わりです。お兄様が公爵家に関わる権利は全て剥奪されています」
「!?」
どういうことだ?
「お父様から説明をされたでしょう。一切の権利を認めないと」
「あれは私の子供達の事では無いのか?」
「……お兄様も入っています」
「何故そんな酷い事を……」
「ダイアナお姉様にした仕打ちに比べたら大した事ありません。お姉様だけじゃありませんね、あんなにお世話になったシャールトン侯爵家の方々に唾吐くような真似をよくできましたね。もしかしてお兄様、侯爵家に恨みでもあったのですか?」
「え?」
妹の言葉が理解できない。
私はダイアナを含めたシャールトン侯爵家が大切だ。家族同然に思ってきた。何故、妹はそんな思い違いなことをいうのか……。
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