第9話子爵(元公爵子息)4
妻を愛しているのは本当の事だ。
娘も可愛い。
爵位は低いが、比較的裕福な領地なので収益もそこそこだ。下位貴族との友人との交流は今も続いている。親友が「義兄」になり以前よりも近しい関係になれたのも嬉しい。小規模ながらパーティーや茶会も開いている。妻
小さな幸せがそこにあった。
なのに何故か物足りなく感じてしまう。
妻の愛らしい笑みを見ても何も感じなくなってしまった。コロコロと変わる態度が最近では「目に余る」と感じ始めた。前なら僕がどんな事を話題にしても楽しそうに聞いていたのに今では
義兄となったローリー。
彼もどちらかといえば妻寄りの人間だ。成績も中の下だったせいで僕との高度な会話に付いてきてくれない。これがダイアナなら僕以上の知識で言い負かされていたはずだ。それはそれで嫌な思いをしたのも一度や二度じゃない。ダイアナに対して「もう少し男を立てろ」と思った時も多々ある。それを思うと愛らしく寄り添ってくれるドロシーに愛情が湧くのは仕方ない事だ。だがドロシーは「貴族の妻」には向かないタイプだった。家の管理が出来ないのだ。そのため家裁を執事に任せなければならなかった。
数年後、ダイアナが大国の王子と結婚したと噂で聞いた。
その頃、ドロシーがローリーと小さな店を立ち上げて一儲けしていた時期だった。計算を苦手としている二人の事だ。直ぐに音を上げて店をたたむと思っていたのに……かなり繁盛しているらしい。
「旦那様、奥様が何のお仕事をしているのか御存知ないのですか?」
「雑貨を経営していると聞いている」
「それは最近の話ではありませんか?」
執事が何を言いないのか分からない。
「お店を始められる前に何を扱うのか聞いていないのですか?」
「始め?……確が接客関係とか言っていた気がするな……」
「旦那様は一度奥様
「は!?」
「もはや手遅れでしょうが何もしないよりはマシでしょう」
「何の話だ?」
「もしも危険を避けたいと考えていらっしゃるのなら領地を視察なさった方が賢明です」
いうだけ言って執事は仕事の戻った。
家裁を取り仕切る執事に出来る精一杯の苦言だったのだろう。
ドロシーは領民に嫌われていた。
何故かは分からないが結婚して暫くすると「奥方に領内を歩かせないで欲しい」という苦情が相次いだのだ。その時は、何かトラブルが合って互いの意見がすれ違ったのだろうと単純に考えていた。あの時、もっとよく話を聞いておくべきだった。悔いても仕方ない事だがそう思わざる負えない。
私が「妻」のことを領民に訊ねて聞き出した内容がとんでもない事だった。
知らぬは亭主ばかりなり、とはこの事だろう。
このままでは私だけでなく娘まで危険にさらされる。
そんな時だ。
ダイアナの夫君が亡くなった事を思い出した。ダイアナが未亡人となって一年近くたつ……らしい。私との婚約破棄後は「女侯爵」として活躍している。領地も子爵家の何倍も広く更に経済発展が著しい。彼女と再婚すれば私も娘も安泰だ。
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