『夕食後のひととき』

 食事のあと、リビングに戻ってきた時には、夜八時を回っていた。

 やんちゃなクロードはデドロックとお風呂に入ったので、アンジェラはレンナとハーブティーを飲みながらおしゃべりしていた。

「髪、伸ばしたのね。とってもよく似合ってるわよ。お花が可哀想だから外しちゃったけど。カールがかかってるのね、自分でおしゃれしたの?」

 プルプルと首を振るレンナ。

「ウィミナリスで一緒に勉強した年上のお友達が、すごくおしゃれな人で、私に似合う髪型を教えてくれたの」

 この時には、レンナの言葉の硬さもだいぶ取れていた。

 アンジェラは一緒にいなかった時を埋めるように、質問攻めにしていた。

「そう……素敵なお友達がいたのね。わたしもいっぱいかわいい髪型にしてあげたいわ。そうだわ、明日買い物に行きましょう。いっぱい服を買わなくちゃね。レンナはどんな色が好きなの?」

「パステルカラーなら何でも好き。あとオレンジ色も」

「そうね、髪が赤茶色だから、パステルカラーなら和らげてくれるわね。オレンジ色は元気にしてくれるから、私も大好き」

 母と娘は二人して笑い合う。

「ああ、本当に毎日どうしようかしら。やりたいことがいっぱいあって困っちゃうわ」

「あ、ごめんなさい。私、三十日と来月の二日は用事があるの」

「あら、そうなの。どんなご用事?」

「霊長砂漠に木を植える催し物があって、三十日は前準備で、二日は本番なの。私、実行委員だから」

「知ってるわ。今日発行の広報誌に載っていたから。そう、そんな立派な仕事に参加してるの……」

 娘の目覚ましい成長に、母は目頭を押さえる。

「そうだわ。私たちも参加しようかしら」

「えっ?」

「そうよ、善は急げ。確か申し込み午後九時までだったわ」

 アンジェラはパッと立ち上がって、通信機器オービット・アクシスでササッと申し込んでしまった。

 しかし、三人ということは、デドロックも参加するということで……。

「あの、母さん。父さん……仕事どうするの?」

「心配しなくていいのよ。父さんはもちろんお休みだから。もし仕事でも、何が何でも参加するって仰るわよ」

 いいのかなぁ、と思いながら、レンナは朗らかな母の行動力に驚いていた。

 そのうち、デドロックとクロードがお風呂から上がってきた。

「ママたち、いいなぁ。僕もお菓子!」

「いけません。歯磨きをしたんだから、また明日。パパと一緒におやすみなさい。いい子にしてたら、明日のおやつはクロードの大好きなショートケーキですよ」

「わーい、おやすみなさい!」

 一目散に駆けていった。

「こら、お姉ちゃんにおやすみなさいは? もう……全然聞いてないんだから」

母の溜め息に、レンナがクスクス笑う。デドロックは大きな声で笑っていた。

「じゃあ、また後でな。レンナ少し話をしよう」

「はい」

 デドロックはクロードを寝かしつけに行き、レンナはアンジェラと水入らずでお風呂に入ることになった。

 アンジェラがどうしてもレンナの髪を洗うと言ってきかないので、戸惑いつつ洗ってもらった。ついでに背中も流してもらったので、レンナもお返しに母の背中を流した。

 アンジェラはレンナに、女の子の心と身体のことを篤と話して聞かせた。くすぐったいような不思議な気持ちで、レンナは心に大切にしまった。

 すっかり長湯してしまい、二人とも顔を火照らせてお風呂から上がってくると、リビングではデドロックが待ちぼうけをしていた。

「ずいぶん長いお風呂だったね。話が弾むのはいいけど、私のことも忘れないでほしいな」

「そうですわね、ごめんなさい」

 悪びれずにアンジェラが言って、親子はソファーに座った。

 少し張り詰めた空気が流れた。

 デドロックが口火を切る。

「本当によく頑張ったね、レンナ。さぁ、向こうでどんなことを勉強したのか、私たちに詳しく教えてくれないか」

 レンナは両親に五年の留学生活を語って聞かせた。












 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る