『父、デドロック』

「クロードは今、何歳なの?」

 レンナが聞くと、クロードは黙って指を四本立てた。

「そっか、四歳なんだ。おっきくなったね」

 クロードの存在は、両親からの手紙で知っていたが、弟ができたと言われても、どう接していいかわからない。

と、クロードがレンナを指差した。

「私? 私は十二歳よ」

 パッと両手を出した。「どのくらい?」と聞きたいらしい。

 レンナは同じように両手を出して、後から指を二本立てた。意味がわからないのか、首を傾げている。

 フフッと笑って、「いっぱい」と言うと、クロードは「ああーっ」と言った。

「遊ぼう!」

 クロードがレンナの手を引っ張るので、あとは言われるまま求められるまま、積み木や電車の模型で遊んだり、鬼ごっこやかくれんぼをして目一杯楽しんだ。

 アンジェラが昼食の準備が終わって呼びに来る頃には、レンナはへとへとだった。

 昨夜の光明真言三千唱で、徹夜したのだから無理はない。

 何とか気力を保って、昼食を食べ、アンジェラの矢継ぎ早の質問にも答えていたが、デザートになる頃には限界だった。

 ウトウトして、ついには椅子に座ったまま、ぐっすり眠ってしまうのだった。

 そのかわいい寝顔を見つめて、アンジェラは幸せそうに微笑んだ。

 そして、同じく眠ってしまったクロードを、二人とも自分で一人ずつリビングに運んで、母親の幸せに浸ったのである。

 

 午後六時半。

 珍しくデドロックが仕事から早く帰ってきた。

 アンジェラから連絡を受けて、娘会いたさに早々と帰宅したのだった。

「お帰りなさいませ、あなた」

 アンジェラが出迎えると、デドロックは気忙しく言った。

「ああ、ただいま。レンナはどこにいるんだい?」

「リビングにいますわ」

「どれ」

 走って行きそうな夫を、アンジェラが止める。

「疲れてぐっすり眠ってるんですのよ。起こさないでくださいね」

「はいはい」

 あまり効果はないようだった。

 デドロックは真っ暗なリビングに入っていって、レンナの寝顔をそっと覗いた。

 クッションに顔を埋めて、よく眠っている。

「うん……」

 隣で寝ていたクロードが目を覚ました。

 慌てて抱え上げると、その気配でレンナが飛び起きた。

 びっくりして言葉が継げない二人。

 パッと照明が点けられた。

「あなた……もう、だから起こさないでくださいってお願いしましたのに」

「そんなこと言ったって、不可抗力だよ」

 クロードが起きがけでぐずりだす。

「よしよし、もうご飯だから起きような」

 あやす言葉が父親らしい。

 オールバックに撫でつけられた赤茶の髪に、彫りの深い顔。鼻の下に蓄えられた髭が立派だった。そして、レンナと同じ翡翠色の瞳が、穏やかに彼女を見守っていた。

「……お帰り、レンナ。よく頑張ったね。待っていたよ」

 谷川の水のような深い声がレンナを労う。

「あの……お帰りなさい」

「うん? ああ、そうだね。私も今帰ってきたんだった」

ハッハッハと笑う声が快い。大きな手がレンナの頭を撫でた。

「さぁ、ご飯にしよう。お腹ペコペコだ。いっぱい食べるんだぞ」

 デドロックが立ち上がったので、レンナも倣う。

「どれどれ……」

 言いながら、片手にクロードを抱いたまま、レンナも抱え上げた。

「おお、重くなったなぁ。ダイニングまで持つかな?」

 その様子を見て、アンジェラが笑いながらクロードを引き受けた。

 親子四人は仲睦まじくダイニングに入り、席に着くと、使用人一同からお祝いの言葉を送られた。

 そして、家族揃って食事を楽しんだのだった。








 

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