『邂逅』
レンナは花婿花嫁へ真っ直ぐ歩み寄ると、ニッコリ笑って、片手でスカートをつまんで挨拶したのである。
「ご機嫌よう。ご結婚おめでとうございます。繊細な御心の花嫁に矢車菊を。壮大な心で花嫁を守られている花婿に飛燕草を花束にしてお贈りします。どうか、これからのお二人の生活が、青い
年齢にそぐわない立派な挨拶に、周囲の者たちがどよめく。
花嫁アニスは感動しながら受け取った。
「ありがとう、素敵な言葉と花束を送ってくださって。とても嬉しいわ」
「天使みたいなお嬢さんだね」
花婿マイケルも感心して言った。
「ええ、きっとそうね。お嬢さん、お名前は?」
「レンナ・モラルと申します」
「まぁ、それじゃ、お向かいのモラル家のお嬢さんなのね」
アニスが驚いたが、レンナはもっと驚いた。
まさか式場の向かいが、実家だったとは。
「デドロック氏は地元の名士だよ。やっぱりそのお嬢さんは賢いんだなぁ」
「マイケル、あとでご挨拶に伺いましょう。こんなに素敵な贈り物をくださる方々には、お礼を申し上げなくてはならないわ」
「そうだね、そうしよう。レンナさん、あとでお家に伺ってもよろしいですか」
「はい……大丈夫だと思います」
たぶん。と思いながらレンナは返事した。
「それではこれでお暇します」
「あら、ゆっくりしてくださらないの?」
「ごめんなさい、用事があるので……」
しきりに残念がるアニスに詫びながら、レンナはその場を辞した。
振り返ると、式場の館よりもさらに大きい実家が見えて、一気に緊張が高まる。
帰ろうとして、門の外へ出ようとした時に、後ろから声をかけられた。
「ちょっと待って!」
「?」
振り返ると、レンナと同い年くらいの少年……サクシードが走ってきた。
驚くほど傍に寄ってきて、小さくて赤い薔薇の花束をパッと差し出した。
「姉さんが、これおまえにって」
びっくりしていたレンナだったが、こわごわ受け取った。
「あ、ありがとう」
お礼を言うと、サクシードはニッと笑って言った。
「俺は訳がわからなかったけど、姉さんも義兄さんもすごく喜んでた。こっちこそありがとうな」
単刀直入だが、感謝の心に溢れていた。
「いえ、そんなこと……あの、お二人はとても幸せになれるって、私の先生が云っていたわ」
「ふーん、俺もそうだといいと思ってるよ。おまえいいやつだな」
いいやつと言われて、レンナは顔を赤らめた。
それに赤い薔薇の花束の意味を、彼は知らないらしい。
「じゃあな、また会おうぜ!」
サクシードは手を高く上げて、走って行ってしまった。
「……行っちゃった」
「うーむ、今日はよくプロポーズされる日ですね。あなたも隅に置けないな」
「あの子はプロポーズじゃなくて、お礼を言いに来てくれたのよ。変なふうに言わないで!」
でも、おかげで元気が出てきた。
レンナは花束に思いを込めて、改めて実家に向かった。
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