『帰郷したレンナ』

 午前十時半。

 霊長砂漠から引き揚げてきたレンナは、途中、泊まっていた国営ホテルをチェックアウト。準備を調えて、テレポートでメーテスの実家近くまでやってきた。

 五歳の時にウィミナリスに留学して以来、実家に帰らなかったので、もう記憶は曖昧だった。

 西街プリムラ通り33-6番地。

 両親から送られてきた手紙の住所を探し歩く。

 迷い込んだ路地を歩いていると、ある古い館の庭で、大勢の人が礼服で話しているのが目に入った。

 その中にひときわ目立つ、白く長いドレスのドレープを引いた花嫁の姿が。

「わぁ……結婚式……」

 低い垣根なので、その様子ははっきり見渡せた。

 人々の笑顔。何度も鳴らされるグラス。パーティーを盛り上げる呼び物。幸せそうな花婿、花嫁。

 門は開け放たれていて、飛び込み歓迎のようで、一般の市民も輪に入って、歌ったり踊ったり、料理に舌鼓を打っていた。

 足を止めて見入っていたレンナに、守護精霊たちが呼びかける。

「中に入ってはいかがですか?」

 アクエリア・ネライダが囁いた。 

「えっ、でも私、普段着だし、徹夜でやつれてるし」 

 とんでもない、とレンナは言った。

「お任せください、すぐに元気にして差し上げますわ」

 イエスもノーもなく、アクエリア・ネライダがレンナの顔に水を浴びせかけた。

「乾燥は我らにお任せを」

 云って、フレイム・ラプターとストラト・ユラナス疾風の王が、またも瞬時に乾かしてしまった。

 しかし、滅茶苦茶になった髪は誰にも直せなかった。

「——ありがとう。気持ちだけいただくわね」

 乱れた髪を撫でつけながら、レンナは止めていた髪留めでくるくるっとまとめ髪を作った。

 ――どこかで直さないと、と思っていると、テラ・ケンタウロがかわいい雛菊とカスミソウをたくさん送ってくれた。

「? ありがとう」

 受け取ろうとすると、アクエリア・ネライダがパッと取り上げて、レンナの髪に飾ったのである。

 そして水鏡を持つと、こう云った。

「いかがですか。とてもおかわいらしいですわ」

 そこには愛らしい天使のような少女がいたのである。

 レンナは嬉しそうに笑った。

「すごいわ、こんなこともできるのね。どうもありがとう」

「花婿と花嫁を言祝ぎなさい。あなたの言葉は言霊となり、結婚を幸せなものにするはずだから」

 ロワ・オムネにも後押しされて、レンナは式場に入ってみることにした。

 テラ・ケンタウロに矢車菊と飛燕草の青い花と、シルバーレースの銀の葉と、ミントの清々しい緑の花束をもらって。

 その道行きをソレール・ミリュー光の構築がオーロラのカーテンを引いてエスコートした。












 

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