『初めての脱落者』

 三千唱が始まってから、五時間あまりが経過した。

 一千八百唱に届こうかという頃、ついに初めての脱落者が出た。

 中肉中背の男性が、貧血を起こしたように、ばったり前に倒れてしまった。

 周りの人間が、即座に仰向けにして介抱する。もちろん行は続けたままだ。

 レンナはすぐさま駆け寄って、気の補充に取り掛かった。

 テラ・ケンタウロに命じて、ラベンダーの花束を用意させた。

「苦行の末 地に伏したる者よ ラベンダーの恵みを受け取り給え」

 ラベンダーの花束を身体全体にぱっぱと振り下ろすと、辺りに芳香が散った。

 すると、寝かされていた男性は、ぱっちり目を覚まし、起き上がって頭を振った。

「大丈夫ですか?」

 レンナが気遣うと、男性は頭を搔いた。

「あー、ごめんね。迷惑かけて」

「いいえ。一度列の外に出て、治癒を受けてください」

「いやー、大丈夫よ。まだまだイケそうな感じだよ」

「無理しないでください。今の治癒は、ただ気付けを促しただけなんです。もっとしっかりと治癒する必要があります」

 それを聞いて、周りの人間が男性を押したり、仕草で追い立てた。

 おかげで男性は大人しく列の外に出て、治癒を受けられた。

 木の丸椅子に座ってもらい、力を抜いて目を閉じさせる。ダメージを受けた喉のチャクラに天恵を注ぎ、復活させる。男性はハートチャクラも滞っていたので、そちらも治癒する。そして、ハーベストムーンというハーブブレンドティーと、空気の精のフラワーエッセンスを七滴混ぜたものを飲ませた。

 男性が倒れた原因は、心を塞ぐ問題があったからだろう、とレンナが言うと、彼は何度も頷いた。

「ちょっと家族のことで悩んでいてね……聞いてもいいかな。お嬢ちゃんは、パパが仕事ばっかりで遊んでくれなかったら、嫌いになるかい?」

 ちょっと考えて、レンナは言った。

「パパがお仕事で疲れているということがわかれば、嫌いにはならないと思います」

「そうか……ウチは生憎、父子家庭でね。それを教えてくれる人がいないんだよ」

 切なそうな男性に、思いやりを持って語りかけるレンナ。

「そうでしたか……それなら、お子さんと触れ合う毎日のちょっとした時間に、愛情を込めて話しかけてあげてください。きっとお子さんもパパが自分のことを好きなんだとわかって、心を開いてくれます」

「それだけでいいのかい?」

「はい。お忙しいとは思うんですけど、精一杯表現してください」

「うん、やってみるよ。どうもありがとう!」

 男性は勇気づけられて行に戻っていった。

 それが合図だったかのように、倒れる人々が続出した。

 レンナは俄かに忙しくなって、パタパタと走り回った。

 一人一人に治癒をおこない、倒れた原因を告げ、ハーブブレンドティーを振舞い、メッセージを送る。

 それは不思議と的を得ているのだた。















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