『空想の里の人々』
クイリナリス上層、空想の里。
「……この中にいる?」
修法者アリルの思念映像が、霊長砂漠で護摩行をする位階者たちの姿を映し出している。
「いえ……小さな女の子だったみたいなんですよ」
鳥俯瞰者フォスターが首を傾げる。
「そっか、ホールコンジャクションを使ったってことは、その子も修法者なんだわ。
アリルは修法者が使うであろうシールドの次元膜を検知し、不可視の映像を特に透視した。
「あっ!」
一瞬、映し出された少女の姿に、フォスターらが声を上げた。
「今、見たか?」
「あの子っぽいですね!」
他の平面者たちが盛り上がる。
「ダメー、もう限界。すんごいジャミングで解像不可」
「えーっ」
フォスターらが非難の声を上げる。
「しょうがないでしょ! でも間違いない?」
「いや、はっきりとは……」
「もぉーっ、意味ないじゃない! いいわよ、直接聞くから」
アリルはそう言って、精神を研ぎ澄ませた。
「あまねく吹き渡る風の精よ。我の便りを彼の地へ届けよ」
すると、闇夜を風の精が気圧の谷を越えて吹き渡った。
霊長砂漠——。
レンナの目の前に、青く透明に輝く羽を持った妖精が現れた。
風の王の使いか、と手を伸ばすと、妖精はシールドの中に微風をそよがせた。
その途端、テレパスが繋がった。
「こんばんは、お嬢さん。私はアリル・エターナリスト。クイリナリス、空想の里の修法者です」
「あ、はい、初めまして。レンナ・エターナリストと申します」
同時に空想の里側の思念映像が送られてきた。
あちらにはレンナのそれも出ているはずだ。
「彼女で間違いない?」
「は、はい、そう思います」
「?」
取り交わされる会話がよくわからない。レンナが首を傾けていると、アリルが言った。
「ごめんなさいね、レンナさん。思い出してほしいんだけど、一週間ほど前、野心の塔から発射されたミサイルを、ホールコンジャクションで処分してくださったのはあなたかしら?」
「あ……!」
思い出すレンナ。もう一週間も前になるのか、と不思議な気がした。
「ごめんなさい、出過ぎたことをしてしまって……」
「ああ、違うのよ。むしろ逆にお礼を言いたくて。あの場で最良の方法で処理してくれてありがとう。あなたがいなかったら、暁の地平線に被害が出るところだった。どういう事情だったのかはわからないけれど、本当に助かったわ」
「いえ、そんな……」
それにしても、どうやって突き止めたのだろうか。レンナは聞いてみることにした。
「あの……どうして私だとおわかりになったんでしょうか?」
アリルは笑って言った。
「ああ、それはね。該当者を探していたら、うちの里にも近隣の里にもいないことがわかったの。その女の子は龍に乗っていったって言うし、もしかしたら近々、どこかで大きな仕事があるんじゃないかって。それでそちらを当たってみた、というわけなのよ」
「そうでしたか……お手数をおかけして申し訳ありませんでした」
「それは事情があったんだろうから、敢えて聞かないわ。大変そうだけど、きっと初仕事ね。頑張ってね、成功するように祈ってるわ」
「はい! ありがとうございます」
思わぬ応援を受けて、レンナは勇気が湧いてくるのを感じた。
もし一人で引き受けていたら、この臨場感や忙しさもなく、殺伐としたものだったろう。
いろいろな人との縁をもたらしてくれる、修法者という役目が、楽しくて仕方なかった。
光明真言三千唱はやっと一千唱を超えたところだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます