『デート…?』
南端国メーテス、主街道のカフェ。
レンナはエリックと待ち合わせしていた。
今日の夜八時から行う、霊長砂漠の浄霊の儀式、光明真言三千唱を成功させる段取りを決めるためだ。
童話の里で話さないのは、並行して真央界でも、霊長砂漠の緑化活動を展開する必要があるから。
これは、レンナが修法陣を施してからのことだが、人員や植える木の幼苗などを早めに用意しなくてはならない。
まだ十二歳のレンナが表立ってやるわけにはいかないので、エリックが手配することになったのだ。
午後二時。待ち合わせの時間になった。
エリックが現れる気配はない。
レンナは本を読みながら、気長に待っていた。
二十分後、エリックは息せきって、その場にやってきた。
「お、お待たせ! ごめん、待たせちゃったね」
「いいえ、大丈夫です。……何を食べますか?」
「ああ、ありがと。んじゃ、オレンジジュースとクラブサンドで」
「はい」
オーダーをしに、レンナは店内レジに向かった。
その間に、エリックは山ほどの資料を、テーブルの上に乗せていった。
オレンジジュースと自分のグリーンジュース、それに野菜のクラブサンドを二つ、トレイに載せてレンナが戻ってきた。
「いくらだった?」
エリックが聞くと、レンナは手を横に振った。
「いいんです、手続きをしていただいたお礼です」
「ダメダメ! 女の子に奢らせちゃ男がすたる。今日は俺とデートなんだから、俺に払わせて」
「デートですか?」
クスッとレンナが笑うと、エリックは身を乗り出して笑った。
「そりゃ周りから見れば、姪っ子にご馳走してるオジサンにしか見えないけどさ。気分の問題だからね。嫌かい?」
「じゃあ割り勘で。七百二十E《エレメン》です」
「うーん、まぁ仕方ないか。はい、これね」
「ありがとうございます」
ようやく落ち着くと、エリックは乾いた喉をジュースで潤した。
「ふーっ、生き返るなぁ。さてと、手続きだけどうまくいったよ。人員集めの方はレンナちゃんが言ってた通り、環境省緑化推進庁に掛け合ったら、すぐ話が通ってね。国の広報誌に載せてもらえることになったよ。日時は豊穣の十月修迷の二日、朝九時から。場所は霊長砂漠エレジー区。交通手段は瑠璃西線オロス駅下車、無料バス運行。定員三百名。道具等は国が全部手配すると。昼食は個人で準備。こんなとこかな」
「団体名はなんて付けたんですか?」
「おーっ、それそれ。正直困ったんだけどさ。新世紀の世界に感動を与える活動ってことで、”NEW WORLD SENSATION”、通称NWSにしたんだけど、どうかな?」
「素敵な名前ですね! たくさん希望を与えられそう」
「レンナちゃんにそう言ってもらえて、安心したよ。緑化推進庁の人も、今回だけの活動じゃもったいないから、NPO(非営利活動法人)に昇格させたらって言われたよ。そこはレンナちゃん次第だけど」
「いいんですか? 私次第なんて……皆さん協力してくださるでしょうか」
「もちろんだよ! こんなに大勢の人間を巻き込んで、事を起こせる人間は稀なんだから。みんな喜んで参加するって」
頬を紅潮させるレンナを、その気にさせるエリック。
実際こんな大きな仕事を任される重圧に耐えられる十二歳は、他にいないだろう。
エリックは、目の前の奇跡の具現者の前に、真っ直ぐ伸びる道を、確かに見ていたのである。
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