『位階者たちの団結』

 霊長砂漠、修法陣付近。

「とにかく、負のこごりは除去したんだから、彷徨える魂は速やかに星の野原にお還り願わなきゃいけないんだが……千人とかって、どうするよ?」

 エリックは五十人の仲間たちと車座になって話し合っていた。

 その周辺では、彷徨える魂千人が取り囲んでいるという、ホラーな状況下にあった。

 いくら修法者のレンナでも、千人いっぺんに浄霊するのは不可能だったので、全員で知恵を出し合う。

「儀式則るなら、魂浄めで一人ずつ成仏させるのがいいだろうなぁ」

 1班リーダーのマルクが言った。

「一体どんだけ時間とパワーを消費するかって話だよね」

 7班のリーダー、キーツが腕組みする。

「仮に等分すると、一人二十人か。何とかなりそうだけどな」

 8班のリーダー、タイラーが一同を見渡す。

「いやいや、それはやめた方がいい。鳥俯瞰者以上は何とかなっても、平面者や方向者の扱うパワーでは、とても二十人は浄霊できない」

 9班のリーダー、アロンが首を振った。

「すると、どんな方法が残されてる?」

 エリックが問いを投げかける。

「他の里にお願いして人数をかき集めるか……若しくは全員で誦経して、徐々に成仏させるかでしょうねぇ」

 3班のリーダー、オリーブが提案すると、全員が唸った。

「全員で誦経か……それしかないんだよな!」

 5班リーダー、ポールが勢い込んで言った。

「ただ時間が……一番短い光明真言でも、約十秒かかる。三千唱を行うとしたら……八時間弱ですよ。全員持ちますか?」

 6班のリーダー、ランスが難色を示した。

「喉がカラカラに……いや、ぶっ倒れるやつが出るかもね」

 2班リーダー、ナタルが目を閉じて嫌そうに言った。

「それでも、やるしかないんじゃないかしら? 私たち以外に、これを成し遂げる者がいないんだから」

 4班リーダー、トゥーラが明瞭に言い放った。

 すると、「そうだ」「その通りだ」という声があちこちから上がった。

 エリックが立ち上がって総括した。

「よし、どうやら全員で光明真言三千唱で決まりだな。ただ、今からってのは乱暴な話だから、明日の夜八時にもう一度ここに集まろう。それでいいな!」

「おおーっ!!」


「レンナちゃん、それでいいかな?」

 エリックから尋ねられて、レンナはニッコリ笑った。

「はい、明日頑張りましょう!」

 力強く賛同する。

 すると、エリックが頭を掻いて言った。

「ああ、あのね、レンナちゃん。頼みがあるんだけどな」

「はい、何でしょう?」

 優しく問い返すと、エリックは真面目に言った。

「明日は八時間弱、パワー出しっぱでしょう? 途中でぶっ倒れるやつが出ると思うのね。一応、他の里に呼びかけて人数を増やしたいけど、条件は一緒でしょ。そこで……レンナちゃんに俺らのサポートに回ってほしいんだ」

「私がサポートに?」

「いや、修法者にそう頼むのは気が引けるんだけど。現場の照明とか、水の補給とか、喉を傷めないようにするヒーリングとか。そういうのを完璧にしてもらえるのは、レンナちゃんたち修法者だけなんだよね。——他の修法者はアテにできないし、一人で大変だとは思うんだけど、どうだろう」

 レンナは快く言った。

「私でよければ、喜んで」

「そう! やってもらえる? ありがとう。三千唱はれっきとした行だから、甘っちょろいのはダメなんだけどさ。俺らはほら、素性は民間人だから。きっちりやることを考えて、多少の救護策はやむを得ないと思うわけで」

「はい、私もそう思います」

「うんうん。それにもう一つ、申し訳ないんだけど、バリアーも自前でお願いできないかな? 俺もリーダーとして三千唱の貢献しなくちゃいけないから」

「もちろんです。ご心配かけないようにしますね」

「ああ、ありがとう、話が早いな。他の修法者がどうかは知らないけど、レンナちゃんは許容量が大きいよ。喩えるなら、川の水をすべて受け入れる海のようだ」

 両手を広げて言うエリックに、顔を赤らめるレンナ。

「おまえ、十二歳の女の子に、なんで海のようだとか包容力感じてるわけ? すげー引くぞ」

「そうは言うけどさ、サブに就いた俺だからわかるんだよ。レンナちゃんの度量が。年齢なんか関係ないって。人間何をやるかが、存在の価値を決めるバロメーターだと俺は思うね」

「その彼女を早く安全なところに帰そうぜ。俺は気が気じゃないよ」

「悪い悪い」

 この会話の間、他の班のリーダーたちが、千人の霊魂たちの説得に当たり、事態は収拾した。

 そして、五十人の位階者たちは、全員童話の里に帰還したのである。












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