『四大精霊界の承認』
火の王はあらゆる事象を鑑みて云った。
「なるほど。現在の時節の衝を取るか。それならばこの地の反発は最小で済むか、考えたな」
大地の王も云った。
「そうですね。調和を考えるなら、昇氷光風紋と花落水闇紋、宇豊地火紋の大三角を使うべきでも、作用が大きすぎる。ここは衝の緊張状態で、作用を抑えるべきでしょう」
レンナはさらに言い添えた。
「はい。それにちょうど今は生命の樹の軌道線が蒼繫風水点に差し掛かっているので、相乗効果も期待できます」
この言葉が火の王と大地の王を黙させた。
「……おまえはなぜそれを知っている?」
大地の王が追及した。
「生命の樹の軌道線の軌道は不可視だ。巡遊するエネルギーは気ままで捉えどころがなく、喩え世界の理の外に出られても、がらんとした異空間があるばかり。とても軌道を読むことなどできない。——おまえは何者だ?」
レンナはただ困ったように笑った。
十二歳という年齢を忘れた、憂いを含んだ瞳は静かに伏せられた。
「わかりません……自分が何者なのか、どこから来たのか。私の魂の出自は万世の占術師のように由緒あるものではありません。前世を辿ることもできないのです。ですが、私はこの世界の人間として生を受けました。ならば、みんなと一緒に精一杯生きることが大切ではないでしょうか」
大地の王はふと人界のある東の山脈を遠く見やった。
「そうだな……。もしかすると、人界の混乱が長いために、神々が外界より招いた魂かもしれぬし、神々が遣わした神人なのかもしれぬ。いずれにせよ、生を受けたならば、目的は魂を磨くこと。お前が何者でもそれは変わらない」
「はい……」
レンナは大地の王に似た翡翠色の瞳で、同じく人界を切なく見つめた。
火の王はレンナをじっと透視して云った。
「……確かに何も見えぬな。
「ありがとうございます! では早速、修法者統括本部に戻り段取りを決めたいと思います」
レンナは、はきはきと言った。
火の王——竜族の王が来ていたため、その場を遠慮していた水浪が姿を現して、レンナを乗せ万世の占術師のもとへ向かった。
見送った火の王と大地の王はこんな会話を交わした。
「ところで火の王殿。覚醒前の眠りのさ中、よく我らの話を聞き届けられましたな」
火の王は憮然として云った。
「……風の王のやつが、面白い興があるから行ってみろ、とわしを起こしよったのだ。眠いと云うたが、天の運行が変わるかもしれんと煽りよる。見れば人間嫌いの貴殿が人間の子どもと話し込んでおるしな。目も覚めてしもうたし、興とやらに乗った」
「それはお気の毒に。けれども確かに珍しい
「人間が織りなす光と影は、我らの目には好もしくも奇異にも映る。しかし、誰一人として神々の加護から離された者はいない。神々はあらゆる存在を内包して世界を動かす。そのためにあの娘のようなものを遣わして、秩序を調えるのであろう」
「汲めども尽きぬ神々の愛を宿して、光り輝く者たち……。人間がそのような者である限り、我らもまた神々の下に一つ。それは今までもこれからも変わらない」
「ほう、人間嫌いの貴殿から、そのような言葉が贈られるとは。まだ人間にも希望があるということだな」
「からかわないでください。見捨てるほどではありませんよ。生きようとするうちは……」
「そうだな……いつか生きとし生けるののすべてが喜べる
「ええ、本当に。——それにしても、冥弧晩期のこの時期に、どうして風の王は起きていなさるんでしょうね」
「なぁに、風は吹いているから生命になるのだろう。以前に、眠らないのかと聞いたら、眠れるほど静かな世の中なら、とっくに飽いて定住をやめます、と抜かしおった。実際、我ら六大精霊の中であれが一番ムラ気だから、好きにさせた方が世の中とやらのためだろう」
「困ったものですな。しかしこのような愉快な場に出くわすなら、風の王のムラ気も悪くない」
「違いない」
火の王と大地の王は高らかに笑った。
すると、背後のパラティングス大樹海は生命を得たように輝いたのだった。
レンナは修法者統括本部である寺院まで戻ってくると、すぐに万世の占術師に面会を許された。
報告と、六大精霊のうち、風・水・地・火の王に会えたことを話したが、ウェンデスは驚いたふうもなく、穏やかに笑って聞いていた。
そして、どうするのかと問われて、火の季節、天弧に入る前に、二十四星紋の蒼繫風水紋を用いることを告げた。するとあっさり「それがいいだろう」と許可されたのだった。
これからの段取りの草案をまとめたら、またここに来ることになって、レンナは退出を許された。
真央界に戻り、仮住まいの国営ホテルに帰ると、草案でノートを真っ黒にしていくのだった。
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