『霊長砂漠の秘密』

 レンナは恐いのを必死にこらえて言った。

「はい。まずこの地には太古より負のエネルギーのこごりがございます。これを取り除きたいと思います」

「なに? 万世の占術師にできなかったことを、おまえがやると申すか」

「万世の占術師が負のこごりを放置したのは、これ以上人間がこの地に介入するのを防止するためです。……地下に石油鉱床が眠っているとか。これを人間が利用すれば、この地はおろか、天地の気は間違いなく乱れ、世界は滅びに一歩踏み出すことになるでしょう。ですから貴方様が厳しく管理なさっている。違いますか?」

「——その通りだ。よく知り得たな。万世の占術師が話したか」

「いいえ、私の先生が……闇の律法ロワ・オムネが教えてくれたのです。人間は狂喜するかもしれないが、それは世界の破滅を意味すると申しておりました。私も今では同感です」

「だのに、皮肉にも破滅を防いでいる負のこごりをなくすと、そなたは言った。」 

「はい。負のエネルギーは人間の不始末。このままいつまでも放置していては、やはり世界のためになりません。こごりは私どもが責任を持って取り除きます。それから問題の石油鉱床は、封印を施して人外の地——パラティングス大樹海の下にあるように偽装します」

 これには火の王も大地の王も目を剥いた。

「そのようなことができるのか?」

「難しいことではありません。次元断層を鉱床全体にかければ、科学技術をもってしても割り出すことはできません」

「——げに恐ろしきは人間よの。半世紀前まで持て余していたものを、封印すると言い切る。しかし、石油は資源の枯渇している現代にあって、必要不可欠のものではないのか?」

「あると思うから妥協するのです。なければ工夫するだけです。その技術は確立しております」

「よく言った。わしは人間がそういうのを待っておった。我らが源、ビナーの力を緩めよう。さすれば水の精霊界も介入しやすかろう。どのような陣を施すのだ、万世の魔女よ」

「はい。霊長砂が負のこごりより解放されれば、天地の恵みが再び流入します。そこで二十四星紋の一つ、蒼繁風水紋を用いたいと思います」


 二十四星紋とは何か――?

 天球六芒図という、七宮廷神界の暦を模した図がある。

 中央の六芒星を真央界として、その外側の六芒星を精霊界とする。

 これを円、つまり一年に収める。中心から十二等分すれば十二か月になる。

 昇陽の一月を頂点に、右回りに聖灯の十二月まで埋める。

 この月の名前は、太陽の黄道上にある十二月神の星座の名前でもある。

 すると、十二月神は六大精霊界を二月神で司っていることになる。

 聖灯の十二月と昇陽の一月が光の精霊界。氷凍の二月と蒼水の三月が風の精霊界。繁緑の四月と花翔の五月が水の精霊界。落雨の六月と輝雲の七月が闇の精霊界。風雷の八月と宇宙の九月が地の精霊界。豊穣の十月と霜舞の十一月が火の精霊界を司っている。

 星紋というのは、十二月神の星座の紋章のことで、十二ある。

 十二月神は環を成して、一年を運行するが、月から月に移行する時に、力の引継ぎがある。

 それを表したのが、二月神の星紋を融合させた融合紋。これが十二あるから、十二月神の単独紋と合わせて二十四星紋である。

 二月神が同じ精霊界を司る場合は、月名の頭文字を早い方から二つ、次に精霊名をつけて呼ぶ(例/聖昇光紋)。

 司る精霊界が異なる場合は、月名の頭文字を早い方から二つ。精霊名も引き継ぎ前と後で二つ付けて呼ぶ(例/昇氷光風紋)。

 レンナの言う、蒼繁風水紋ならば、蒼水の三月と繁緑の四月の二月神。そして異なる風と水の精霊名をつけた融合紋ということになる。

 
















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