『両親への思慕』
「ところで……ご両親には会いに行ったのかね?」
「……いいえ」
レンナは俯いてしまった。ウェンデスはその様子から、根深そうな思いを汲み取った。
「そなたは五歳からずっとウィミナリスにいたのだったね。その間、ご両親とは連絡を取っていたのかな」
「はい……手紙をたくさんやり取りしました。ウィミナリスに来た時は、字がほとんど読めなかったので、必死に勉強したんです。両親も喜んでくれて、負けないくらいたくさん手紙を書いてくれました」
レンナにとって、それはアルバムに匹敵する成長の記録だった。
両親が届けてくれる、もどかしいほどの愛情を、レンナは言葉として文字として、覚えるたびに心に積み上げていった。
だが、一方で、彼女は両親に言えない悩みは手紙に記してこなかった。というのも、ウィミナリスでの彼女はある事情があって、同世代の修法行者からつまはじきにされていたのだ。その孤独が、レンナの心を深くし、修法者となる土壌を育んでいった。
もちろん、今はもう、同年代の修法行者たちとは、仲間として和解している。ただ、レンナの中で未解決な心の
それを両親と分かち合ってこなかったことが怖い。
会った瞬間に、つらさや悲しさをぶつけてしまいそうで。
これまで頑張ってきたことが崩れる気がして。
だから、両親に再会するのを先送りにしていたのだった。
ウェンデスには察しがついている。
短い時間の中で、レンナがつらいことや苦しいことを口にしないで、必死に守ってきたものがあるのを。
それはプライドか、あるいは自負か。
しかし、それはウェンデスの見るところ、レンナの本当の感情を押し込める殻のようなものだった。
本当に自分のものにするには、殻を内側から壊さなければならない。
それきり押し黙っているレンナに、ウェンデスは真理を告げた。
「隠しても何も始まらぬよ」
「えっ?」
「ご両親にこれまでのことを順序良く説明しなさい。いいかね、感情をぶつけるんじゃないぞ。再会を迷うのは、知らずに取り繕ってきた嘘があるから。つまり、そなたに否があるということ。実際はそうでなかった。そう言える勇気を持ちなさい。恥ずかしいのは噓に嘘を重ねてしまうこと。それは初めを間違うと、どこまでも続いてしまうものなのだ」
射すくめられたように、ウェンデスを見つめるレンナ。
「大丈夫、そなたの親じゃ。すべて受け止めてくれる。全部ひっくるめて、そなたがどんなに成長したのかわかって、喜ぶであろう。素直になりなさい。そなたはまず、自分が依って立つ場所を作ることから始めなくてはならない」
何もかも見通すような言葉と紫紺の瞳。
レンナは、今までどうしたらいいかわからなかったのに、目の前に霧がさあっと晴れて道が現れたように思えた。
「すぐお帰り……と言いたいところだが。そなたにはすぐにとりかかってもらいたい仕事がある」
「は、はいっ」
レンナは慌てて気持ちを切り替えた。
子どもながら、その辺りはかなり敏いのだった。
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